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「7日間映画チャレンジ」七日目 『秋津温泉』

虚無的な作家志望の男と温泉旅館の女将との17年にわたる恋愛の物語。一言で言えば、岡田茉利子がずっと走ってる映画です。ほとんど全場面、彼女は着物の裾をからげて走って走って走りまくる。何せ何年かに一度しか姿を現さない男(長門裕之)を待ち暮らしているので、来訪の報を聞いた途端に、彼女は走り始める。

走るだけじゃなく、高笑いしたり号泣したりの感情を爆発させる彼女のアクションに、目が釘づけになります。この女優の一挙手一投足の放射するチャームにはとても抵抗できない……。俳優が映画を一人で支えるためには、これくらい心と身体を総動員した存在の輝きが必要なんだと。そういう意味で、日本映画史に残る映画だと思います。

敗戦の玉音放送を聞いた彼女はまた走り出して、長門の部屋まで来ると身も世もあらず泣きじゃくる。そこに長門がすり寄って抱きしめる。ある意味、戦後日本が誕生するときに、二人の愛も産声を上げる。そこに日本の現代史と男女の恋愛をメタフォリカルに重ね合わせるという、監督吉田喜重の特徴も見られます。なかなか立体的なレイヤーを持った映画なんです。

愛とは生の賛歌であるという主題が際立てば際立つほど、愛が人を殺していく過程の残酷さも際立ってくる。ついぞ走ったことなんかない長門がついに川沿いを走り出すクライマックス、流れる河が人を見ているような、そんな異様なトラヴェリングには慄然とします。それにしても、最後に流れる林光の音楽を、皆さんはどんな風に聞くでしょうか?

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