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欧米支援のハイマースで揺れるプーチン氏の早期終結と戦線拡の出口戦略

当初、夏頃にはウクライナ優位で戦争は終結するだろうという予測がネットでありましたが、ロシア軍の攻撃は収まらず、戦争は泥沼化しています。

ロシア軍の東部制圧の攻勢が衰え始め、ようやく西側諸国から供与された高性能兵器でウクライナ軍が南部を中心に反撃を始めています。

プーチン政権は、ウクライナ侵攻の出口戦略をめぐり、高官の間で対立が起きているとのこと。

プーチン氏が最終的にどのような決断を行うのかで、戦争の行方が左右されるようです。

また、戦争の長期化でエネルギー問題を抱えるドイツをはじめとするヨーロッパ諸国が、冬を前に何らかの行動に出るとの見方です。

西側諸国の武器供与が、ロシア本土への反撃となり、世界大戦に発展することの懸念と、世界経済を守る動きが、8月以降のウクライナ戦線でどう出るか

今後のニュースから目が離せません。

吉田 成之氏の記事は下記となります。


「早期終結派」と「戦線拡大派」の対立

「早期終結派」の主張は、
ロシア軍は掌握済みの東部ルガンスク州と、隣のドネツク州を制圧することで、ドンバス地方を手に入れて「戦勝」を宣言し、
すでにほとんどを占領した南部ヘルソン州の一部から撤退して、ウクライナ側に一定の「善意」を示すというものだ。

この善意とは、侵攻終結後のウクライナとの和平交渉を円滑に進めるための歩み寄りのメッセージを意図したものとみられる。

「戦線拡大派」は、
ドンバス地方制圧後も侵攻を継続し、ヘルソンはもちろん、オデーサ(オデッサ))、ザポリージャ(ザポロジェ)などの南部各州や東部ハリキウ(ハリコフ)州、さらにウクライナの隣国モルドバの占領を目指すというものだ。

プーチン氏は侵攻時、ウクライナ全体の制圧だけでなく、旧ソ連加盟国であるモルドバなどの占領も含め、大規模な長期戦を想定していたと言われる。

しかし、こうしたプーチン氏の常軌を逸した願望と、今回脆弱性が露呈した実際のロシア軍の実力との乖離はますます大きくなっている。

「戦線拡大論」の懸念材料では、南部諸州で占領地域を拡大した場合、大きな政治的成果とはなるが、他方でその占領体制の維持は容易でない。

2014年のクリミア併合後にロシア軍が親ロ派「共和国」を樹立し、実効支配したドンバス地方と異なって、南部諸州を新たに制圧しても軍事的に防衛するのは様々な占領コストもかかる。

南部奪還を目指すウクライナ軍

米欧から高性能兵器を供与され戦力を強化したウクライナ軍は、開始を目指している本格的反攻作戦の最初のターゲットを南部に絞っている。

仮に奪還された場合、プーチン氏にとって初めての戦争での「領土喪失」になり、国民からの信頼を失うという大きな政治的打撃となる。

占領地域では最近、ウクライナ人ゲリラによるロシア軍への攻撃や親ロ派幹部へのテロ攻撃も目立って増加している。

決断を左右するカギの1つは、このリスクをプーチン氏がどう判断するかだ。

ラブロフ外相は、米欧が、威力を発揮し始めたM142高機動ロケット砲システム「ハイマース」などの高性能兵器を今後も供与し続ければ、

ロシアがドンバス地方だけでなく、ヘルソン、ザポリージャの南部2州など他地域の軍事的な完全制圧も目指すことになると述べたのだ。

ある西側外交筋は、アメリカ政権が
射程80キロメートルのハイマースに比べ、300キロメートルと射程が大幅に長い地対地ミサイル、エイタクムス(MGM-140ATACMS)をすでに秘密裡にウクライナ軍に供給済みであることを明らかにした。

ウクライナが求めていた射程300キロメートルクラスのミサイル提供について、ロシア領内への攻撃につながる恐れがあるとして、アメリカ国防総省は供与の方針を現時点で否定している。

早期の領土奪還実現へ米欧が戦略転換

エイタクムスの供与により、ウクライナ軍はロシアとの国境近くまで後方に下がった弾薬庫などの軍施設に対して「さらに追撃ができるようになった」と同筋は指摘する。

ウクライナ軍は黒海沿岸にあり、激戦の末ロシア軍が制圧した南部マリウポリなどに対しても遠方から砲撃を加えることができるようになったという。

ゼレンスキー大統領は今月初め、軍に対し、ヘルソン州など南部の奪還を命じたが、ハイマースやエイタクムスの供与を踏まえた命令とみられる。

ウクライナ戦争以降、米欧はこれまで、兵器の供与やウクライナ部隊訓練など着実に実施してきたが、その一方でロシアを必要以上に挑発しないよう、武器の性能や種類に関して一定の自制をしてきた。

しかし、その結果、戦況は膠着化。ロシアとウクライナとの停戦の機運も遠のいてしまった。

このままでは戦争の長期化は避けられない情勢で、ロシアから天然ガスの供給削減によってドイツなどで今年冬、深刻な燃料危機が起こる可能性も高まっている。

そうなっては、エネルギーを握っているロシアへの妥協論が強まり、米欧の団結も揺らぎかねない。

このため、米欧はウクライナが一定の占領地奪還ができるよう、早期に戦場で勝利させる方針に転換したと同筋は明らかにした。

米欧は一定の領土奪還を果たしたウクライナがロシアとの停戦協議に前向きになることを目指しているという。

ゼレンスキー大統領が戦争終結のために領土を割譲するとの選択肢を頑強に拒否している。

どこまで領土を奪還すればゼレンスキー大統領が停戦協議に応じるのか「わからない」と強調したうえで、

2022年冬ぐらいまでにウクライナ軍に有利な状況を造ったうえで、何らかの停戦を実現するというのが米欧の戦略と指摘した。

このようにロシアだけでなく、米欧、ウクライナも自らの利益を満たす「出口」に向けた動きを本格化させている。

このため2022年8月以降、ウクライナ情勢は極めて重要な局面に入ることになりそうだ。

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