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避難生活する子どもたちを守るためにできること

先日、台風19号「ハギビス」が日本列島に甚大な被害をもたらしました。

河川の決壊による住宅の浸水や道路の崩壊、長期にわたる停電や断水などなど。
そのため、今後も避難生活が長期化することが懸念されています(日本経済新聞「『どこにいけば』避難長期化も 台風被害の長野市」2019/10/15 17:53 )。

このような状況において注目したいのは、避難所で生活する子どもの心の問題です。

インターネット上の「子ども学」研究所であるCRN(Children Resarch Net)では、東日本大震災直後に「東日本大震災の子ども学:子どもの心のケア」というページを作成し、約2年間にわたって現地の母子の状況に関するレポートや心のケアに関する情報提供などを行ってきました。

例えば次の事例をご覧ください。

避難所で気づいたもう一つの問題は、子どもたちが自由に遊ぶことのできるスペースがあまりない、ということでした。バタバタと子どもたちが避難所である体育館内を走り回る足音にお年寄りからクレームがつくこともありました。不安が高まり、一人でいることを嫌がる子どもが離れず、お母さんがストレスを抱え込むことも多いようでした。では、子どもたちのために遊び場を確保することが難しいのかというとそうでもなく、学校や公民館などに使われていない部屋は多くありました。そこでこちらから、子どもたちのためのスペースを設けることを避難所の責任者の方に提案すると、「なるほど、そういうスペースも必要なんですね!」と初めて気づかれた様子でした。大人は、子どもの遊び場まで考える余裕もない状況だったのです。

(「被災した子どもの心のケア」三ヶ田 智弘(国立病院機構肥前精神医療センター小児科医師)2011年6月 1日掲載 より抜粋)


避難生活という、大人にとっても子どもにとっても不安が大きくなる環境において、どうすれば子どもにとっての安心を生み出すことができるのでしょうか。

この問題については、先日の台風についても例外ではありません。

今回のしゅーいちでは、災害時の子どもの心のケアについて考える手段として「子どもにやさしい空間(CFS)」「心理的応急処置(PFA)」という2つをご紹介します。

今まさに災害支援に関わっている人々はもちろんのこと、今後もしもの状況に備えてという意味でも多くの方にぜひ知っていただければと思います。

1. 子どもにやさしい空間(Child Friendly Spaces: CFS)

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ユニセフ(UNICEF)が提唱する「子どもにやさしい空間(CFS)」とは、「災害や事故などの緊急事態において、避難した先で子どもたちが安心して、そして安全に過ごすことができる場」のことを指します。

なぜ災害時に限って、特別このような空間を作る必要があるのでしょうか。

理由として、1つは、避難所では大人自身が不安定な状況に置かれてしまい、最低限の子どもの権利が犯されやすい状況に陥ってしまう可能性があるということです。

先ほどの事例にもあった通り、いつもの生活であれば普通に実現している安心・安全な空間や雰囲気が、災害時にはいつの間にか失われてしまっているということが簡単に起こり得てしまうのです。

そして2つ目は、たとえ数ヶ月という短い期間であっても、子どもにとっては心身の発達において重要な時期である、ということです。

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子どもの健全な発達を守るためにも、子どもとその家族を中心にしながら、教育・医療・福祉など様々な分野が垣根を超えて「子どもにやさしい空間」を生み出していく。

避難時に、このような空間が実現できているのかどうか、あるいは実現できるだけの人間関係・ネットワークがあるのかどうかという観点を持つことが、今後一層重要になってくるかもしれません。

具体的な方法等については、次の資料をご確認ください。

子どもにやさしい空間ガイドブック(日本ユニセフ協会、国立精神・神経医療研究センター、精神保健研究所、災害時こころの情報支援センター)

【概要】
ユニセフが2009年に公表した「A Practical Guide for Developing Child Friendly Spaces」の原版に基づいて、災害時こころの情報支援センターが日本ユニセフ協会と共同して作成した「子どもにやさしい空間(CFS)」日本向けのガイドブック。CFSを作るために理解しておくことや心がけておくこと、そのために必要な準備や手続きについて説明している。

【目次】
●「子どもにやさしい空間」とは
●「子どもにやさしい空間」6つの大切なこと
● 実践のステップ(①アセスメントを行う ー ②活動内容を計画する ー ③空間をデザインする ー ④人材を確保し、運営する ー ⑤モニタリングする)
● 付録


2. 心理的応急処置 (サイコロジカル・ファーストエイド:PFA)

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「心理的応急処置(PFA)」 とは、「深刻な危機的出来事に見舞われた人に対して行う、人道的、支持的、かつ実際的な支援のこと(WHO版)」あるいは「災害やテロの直後に子ども、思春期の人、 大人、家族に対して行うことのできる効果の知られた心理的支援の方法を、必要な部分だけ取り出して使えるように構成したもの(米国版)」です。

そして、「トラウマ的出来事によって引き起こされる初期の苦痛を軽減」させ、「短期・長期的な適応機能と対処行動を促進すること」を目的としています。

方法としては、①見る②聞く③つなぐという3つが大原則となっています。

より具体的に言えば

①(見る) 思い込みに依ることなく現場の状況を見て確実に把握すること

②(聞く) 相手の状況やニーズを理解し、気持ちを落ち着かせ、適切な援助を行えるようになるために相手の声に耳を傾けること

③(つなぐ) 状況に対してその人自身がコントロールする力を取り戻せるよう、実際に役立つ支援につなぐこと

この3つが被災を受けた人々が心理的によりよく回復するために大事だ、ということです。

またPFAは本来子どもからお年寄りまであらゆる人が対象となっているものですが、セーブ・ザ・チルドレンが子どものためのPFAにアレンジし直し、簡易なパンフレットにして紹介しています。

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こちらもぜひ確認してみてはいかがでしょうか。

以下、PFAに関するWHO版、米国版2つのガイドブックを掲載します。豊富な説明、実践例に加えて、実際に運用できるフォーマット等も載っています。ぜひご活用ください。

① 「心理的応急処置 (サイコロジカル・ファーストエイド:PFA)フィールド・ガイド WHO版(国立精神・神経医療研究センター、ケア・宮城、公益財団法人プラン・ジャパン)

【概要】
世界の紛争地域や被災地域での支援のために作られたWHO版の心理的応急処置(サイコロジカル・ファーストエイド(PFA))ガイドブックを、国立精神・神経医療研究センターやケア・宮城が日本向けに翻訳したもの。深刻な精神的苦痛を抱える人に対して、どのような言葉をかけ、どのような行動をとればもっとも支えとなるのかを考える参考として作られた。

【目次】
● PFAを理解する
● 責任ある支援
● PFAを行う
● 自分自身と同僚のケアについて
● 学んだことを練習しよう



②「サイコロジカル・ファーストエイド 実施の手引き 第2版(作成:アメリカ国立子どもトラウマティックストレス・ネットワーク、アメリカ国立PTSDセンター、日本語訳:兵庫県こころのケアセンター)

【概要】
米国版のPFA実践の手引きを兵庫県こころのケアセンターが翻訳したもの。WHO版に比べてより具体的かつ実践的な内容になっており、やや精神保健専門家向け。

【目次】
● はじめに
● サイコロジカル・ファーストエイドを提供する準備
● サイコロジカル・ファーストエイドの8つの活動内容(①被災者に近づき、活動を始める ー ②安全と安心感 ー ③安定化 ー ④情報を集める(今必要なこと、困っていること) ー ⑤現実的な問題の解決を助ける ー ⑥周囲の人々との関わりを促進する ー ⑦対処に役立つ情報 ー ⑧紹介と引き継ぎ)
● 付録


おわりに


災害時の子どもたちの心のケアのための考え方として、「子どもにやさしい空間(CFS)」と「心理的応急処置(PFA)」の2つをご紹介しました。

被災された方々への支援というのは、一方では回復のために必要不可欠であるのに対して、他方ではむしろ苦しみを増してしまうような過剰なお節介にもなり得てしまう難しさを孕んでいます。

例えば、被災した方々の話を聞くというちょっとした行為が、やり方次第ではむしろ相手のトラウマを深めてしまうことにもなり得てしまうことも少なくありません。

CFSとPFAは、支援におけるそのような難しさも前提としながら、それらを乗り越えるための確実な知恵や手段を私たちに提供してくれます。

子どもたちが災害によって不当に扱われることがないよう、これらの考え方が実際の現場でどんどん活かされていくことを期待します。

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