見出し画像

風鈴事件

風鈴の音色は、一般的に「涼しげな音」と表現されるので、夏になると当たり前のように軒下などにぶら下げている家が多かったように思いますが、今ではあまり見かけなくなりました。
アレは、昭和の時代の風景なんでしょうか。

お椀を逆さまにしたような形のガラス製のタイプが、いかにも風鈴っていう感じですけど

元々風鈴というのは、鉄や銅などの金属素材だったそうです。
お寺の仏堂の四隅なんかに吊るされている、青銅製で鐘形をした鈴(風鐸ふうたく)が元になっていて、ガランガランという音に厄除けの効果があり、この音が聞こえる範囲は災いが起こらないといわれたことから、(平安時代から鎌倉時代にかけて)軒先に魔除けとして風鐸を吊るしたことがあったそうなんですね。
呪術的な意味の他に、貴族の屋敷では権力の象徴でもあったみたいです。
鎌倉時代には風鐸が小振りの風鈴として普及していたようで、ガラス製の風鈴が現れるのは江戸中期以降のことだといいます。

そんな風鈴を、軒先に3つもぶら下げていたのがウチの母でしてね。
ガラス2つに、南部鉄器が1つ。

そんなにいる?って思いません?
魔除けとかじゃなく、母いわく「イイ音だから」ってことなんですけど、ワタシには3つの音が全然ハーモニーを奏でていないので雑音にしか聞こえなかったわけです。
そう感じていたのはワタシだけではなかったようで、ワタシが高校生くらいの時のとある日、隣のオバチャンが我が家を訪ねて来てこうおっしゃいました。

「申し訳ないんだけど、風鈴、外してくださる?」と。
よっぽどだったんでしょう。
3つはうるさいよね。
そう思う。
よくぞ言ってくださった。
あなたの勇気に、感謝します。
普段、人の噂話と悪口しか言わないオバチャンなので良くは思っていなかったんですけど、この時ばかりは大きく同意、心の中で拍手しましたよ。

そこで、母は「あら、ごめんなさいね」と、風鈴を1つにする口約束を交わしたようです。
で、その後母がとった行動は
「風鈴のぜつ(中についているおもり)と短冊を繋げている糸を切る」っていうね。

え〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
取り外すんじゃないの?
よっぽどめんどくさかったのか、はたまたムカついたのか。
結局、2つの風鈴から短冊はなくなりまして、1つだけの風鈴の音色が平和に響くことになりました。

余談ですが、ウチの母は「音モノ」が好物なのか、これら風鈴の他に、玄関には竹製のウィンドウチャイムとカウベルがぶら下げてありました。
こんなヤツと↓

こんなヤツ↓

しかも、巨大。
ジャマだわやかましいわ、なんでこの組み合わせなのかも疑問だし。
東南アジアとスイスなんて、バランス悪すぎ。
これも母曰く「イイ音だから」らしいんですけど、玄関のドアを開閉するたびに、ガランゴロンと凄まじい音が響くわけです。
だから、そっと開けて、そっと閉める、っていうのがワタシの日課になり、そのおかげか?人様の家のドアもお行儀よく開閉するクセがつきました。

この音の主たちも、家を建て替えた後は母の部屋へ移動しましたから、今現在の玄関はとても静かになっています。

母はこういった「音モノ」が好きっていうだけじゃなく、どうやら「ぶら下げる」のが大好物なようです。
部屋干し用に取り付けたオシャレなはずのアイアンパイプが、その目的のために使われることなく、こんなことになっていますから

風鈴の短冊だけを切ったのは、ぶら下げていたかったからなんじゃないか?と思えてなりません。


みなさまのご支援に感謝します。