見出し画像

絵画、そして自分と心地よい時間を過ごした展覧会

 先だって修了した大学院の同窓生(といっても30歳近く年が離れているが)が企画・開催している展覧会に行った。タイトルは「かけひきのないオークション」と一風変わっている。そこに込められた想いは、こう表現されている。

 たくさんお金を払った人が、そのアート作品を最も大切に想う人でしょうか?そんな、アートの購入と所有のあり方に疑問を抱きました。今回わたしたちが提案するのは、新しいオークションのあり方。それは、お金ではなく感情でアートを落札できるオークション。最も高い金額ではなく、自分の想いを表現することで、作品を落札することができます。

画像1

    会場に入ると、30点ほどの絵画や写真が展示されている。それぞれに番号がふってあるだけで、作者の名前もタイトルもない。来場者は、気になった作品に向かい合い、カードに自分の気持ちを書き込むという段取りだ。カートは2種類。その作品を見てどう感じるのか、そしてどれほどの金額で購入したい気持ちになるのかを記入する「BASIC」と、その作品を観てどのような感情が湧き上がって来るのか、どのような過去のエピソードを想起するのか、そしてどれほどの金額で購入したいのか、を問う「REFLECTION」。

 記入されたカードは、展覧会後、アーティストの手に渡る。そして、気に入ったカードを記入した人を落札者に指名する、という仕組みだ。

スクリーンショット (1044)

 私はある写真作品についての「BASIC」カードを、ある絵画についての「REFLECTION」カードをそれぞれ記入した。後者のカードを書き入れるのにあたって向き合ったのは「21」という番号がふられた抽象画だった。

画像2

   様々な色の線がキャンバスいっぱいに縦横に駆け巡る画に目を凝らすうちに、なぜかアジアに駐在していた時、多様な文化や人種の背景を持つ仲間たちと交流した時の記憶が蘇って来た。

 仕組みとしては、ちょっと変わった趣向の対話型鑑賞と言えるが、静かな空間でせかされることなくひとつの絵画と向き合う時間は、とても心地よく自分とも向き合う時間となった。

 私自身は、アートの売買やオークションへの興味は、まったくと言ってよいほどない。自分とは縁遠い別世界の出来事のようでもある。いまアートブームと言われ日本中の美術館に連日、多数の人が訪れる。だが絵画を購入するという行為に関しては、おそらくほとんどの人が私と同様の感情を持っているのではないだろうか。ではなぜ、我々はそういう感情を抱くに至ったのか。それを、この展覧会は問い直し、アートと(アート界に属さない)一般人との距離を縮めようと試みている。

 あるいは、我々はアートに限らずあらゆる場面で「何を」ではなく「誰が」の方を気にする。企業の先輩社員は、同じ会社の後輩が言う耳の痛いことには自分の経験を盾に耳を貸さない傾向があるが、社外の取引先の言葉には耳を傾ける。展覧会でも、我々は作品そのものよりも、誰がどのような意図で描いたのかを説明パネルで確認したくなる衝動にかられる。この展覧会は、そのような我々に備わった「性(さが)」に、さりげなく気づかせてくれる。

 おそらく上記のような素朴な疑問から着想されたこの展覧会は、アート界の人たちから見れば突っ込みどころ満載かもしれない。しかし、自分たちの素朴な疑問を、それなりのエネルギーを使って形にしようとする若い人たちの想いに触れ、何とも爽やかな気持ちになった。

 本展覧会は、恵比寿のamuで、次回10月8日(金)から10日まで開催されます。是非、体験してみてください。

https://museumbeta.art/

#アート #オークション



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?