「ソラリスの海」でアーティストたちは戦っている
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「ソラリスの海」でアーティストたちは戦っている

    千葉県・市原湖畔美術館で開催中の「Artist`s Breath コロナ禍の中、アーティストはいま」を鑑賞した。Artist`s Breathは、コロナ禍の中でアーティストがどう過ごし何を考えているのかを伝えることを目的として昨年6月にスタートしたプロジェクトだ。ディレクターの北川フラムが、自身が総合ディレクターをつとめる5つの地域芸術祭の参加アーティスト全194組に呼びかけ、それぞれ約2分間の動画をインスタグラムにアップして来た。本展覧会では、その動画を一挙に公開している。

 真っ暗な空間の中の湾曲した白い壁に海をイメージした映像が投影され、そこに順次、動画が浮かんでは消えるインスタレーションとなっている。アーティストは、それぞれのアトリエから、言葉で、作品で、パフォーマンスも交えながら語り掛ける。壁の前には一人掛けのソファが点在し、そこに座ると正面に投影されるアーティストと、アトリエの中で1対1の対話をしているような、あるいは瞑想しているような感覚になる。

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 一人ひとりが語る内容は、さまざまだ。だが共通しているのは、コロナという災厄をむしろクリエイティブを発揮するチャンスだと捉えていることだ。改めて、アーティストは、作品づくりという行為を通じて、自分の内側を探求し、逆に世界を俯瞰して眺めることのできる「複眼の視点」を持つ人たちなのだと気づかされた。コロナによって在宅を余儀なくされ、我々の誰もが少なからず、自分の内なる声に耳を澄ませ世界の動きに敏感になった。アーティストは、作品を通じて、私たちと内的・外的な世界とをつなぐ「触媒」のような存在なのだ。

 展覧会には、北川フラム氏自身の企画によるコーナーもあった。古来、日本やアジアに伝わって来た、1年を24の季節に区切る「二十四節気」をテーマに、それぞれの季節をテーマとしたお面や装束といった伝統的な民間伝承のアートを紹介している。これも、日本発の季節毎の芸術の息吹(Artist`s Breath)として、プロジェクトの中で継続発信されてきたそうだ。しかし私は、この展示を見ていささか複雑な気分になった。いま、日本も地球温暖化の影響で季節と季節の間の「のりしろ」が、急速に失われつつある。すでに24の季節は、その半分程度になっているのではないだろうか。微妙に変化する季節の息吹が育んで来た日本人の感性こそ、アジアで生活して再発見した大きな宝だ。それはこれから徐々に失われて行くに違いない・・。

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 本展示のモチーフとなっているのは「海」。暗闇の中で青く発光する渦潮のイメージを目にした時、私は「ソラリスの海」を思い起こした。ソラリスは、ポーランドのSF作家スタニスワフ・レムが1961年に発表し、何度も映画化された名作。惑星ソラリスに降り立った宇宙飛行士が遭遇する「海」によって生み出される数々の謎を描き、意思疎通のできない絶対的他者との出会いを通じて人間の知性の在り方を問うている。

 本展覧会のステートメントには「コロナは、人間も自然の一部だということを教えた」とあるが、表現された「ソラリスの海」からは、むしろ意思の通じないコロナという絶対的他者によって突き付けられた人間の根源的な存在意義に立ち向かう、アーティストの姿が見えたような気がした。そして、その戦いにアーティストではない我われも他人事ではいられない。

 屋外に出ると青空が広がり、美術館の前の市原湖から浮かび上がるように姿を見せる重村三雄作の「生命の星・かげろう・湖の祭り」という巨大な彫刻が目に飛びこんで来た。ダム建設によって失われた生命が復活する「生命の循環」をテーマとした作品だという。まるでコロナという未曽有の事態が起こっていることを忘れさせてくれる情景との鮮やかな対照によって、いま我々を襲うものへの向き合い方を問う展覧会のメッセージを感じた。

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#市原湖畔美術館 #アーティスト #アート




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