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コントラスト④
「じゃあどんなことを思い出してたのか教えて」
「咲喜が勝手にどっか行ってはぐれたこととか綿菓子一緒に食べたこととか色々だよ」
「今のところだけ聞くとなんか微妙な思い出じゃないそれ」
微妙な内容になる元凶が隣で苦笑いしているのは少し気になったが、誠はその思い出が微妙な形をしているからこそ特別なものになっていると思っていたのでそこに突っ込みを入れることはしなかった。
熱帯夜の中を歩き回った後にお祭りの会場から少し離れた公園のベンチに腰を降ろして焼きそば食べ、カチワリを飲んだ。ここの公園からは祭りの終盤に打ち上げられる花火を見ることが出来た。近くはないから大きく見える訳ではないけれど見ごたえは十分にあったし何よりも座って楽にした状態で見れるのが良かった。
そのことを知っている人は他にもいたようで人影はいくつかあった。
「もうそろそろだね。今年は打ち上げられる数が去年より少ないって聞いたけどどうなんだろ」
腕時計を咲喜は繰り返し確認している。
「どうだろうね。寂しくなってなければいいけど。でも綺麗なことには変わりないからやっぱ楽しみだね」
「うん。雨降らなくてよかった」
時刻が8時を迎えた頃、遠くから鈍く曇った轟音が響くと間もなく空にパッと鮮やかな光の花が咲いた。開いては消える花火が何度も夜空を彩っていく。花火は開いてから一瞬でキレイに消えるものが良いとされているらしい。花火師も花火自体もその一時の瞬間に全てを捧げているわけだ。だから形には残らなくても人々の記憶に焼き付いて、たくさんの思い出の中に残っているのだろう。
その華やかな大輪を眺めていると誠は段々自分が見劣りするような気がして遠くで光る花火に引け目を感じ始めていた。自分はどこかであれだけの美しさを発揮することは出来るのだろうか。次々と打ち上げれる花火は形を変え色を変え羨ましい程に鮮やかだった。
辺りに静寂が戻った公園で花火を見終えた後の誠には去年の花火と比べて数がどれくらい少なかったかなんてことはまるで分からなかった。
「綺麗だったなぁ。特に最後の一番大きいやつは最高だった。でもやっぱりボリュームは若干下がってたような気がする」
「そうだったかな。でも見応えは十分にあったと思うよ」
誠は咲喜に合わせてそれとなく返した。花火を見終えて帰る頃には気温も段々落ち着いてきていた。隣で楽しそうに話す咲喜が何故か不意に遠い存在であるかのように感じた誠は、彼女もまた目を背けたくなるような光であるということに気がついた。同時に心の中でそのことを慌ててかき消した。
咲喜には目標と夢があった。それは大学を卒業した後保育士となって働き、将来的には孤児院の子供達の教育に携わることだった。立派な夢だった。
その隣を歩く誠も咲喜と同様に大学の4年を迎え来年には社会へと出て行く立場だ。でも自分の情熱を向けられるものが不透明なままにここまで来てしまった誠には採用側が思う魅力なかったようだ。だから当然就職活動で受けた会社はどこも思ったような結果は出ず、最終面接まで行くことがあっても結局はいつもと変わらない結果となっていた。
大学で教育学科を専攻していた咲喜の事は同郷の高校時代から知っているが、普段から勉強を頑張ったり課題に対して熱心に取り組むようなタイプではなくて、良く言えば要領よく物事を進める性格だった。だからあまり真面目なイメージはないけれど、彼女には一点集中したここぞという時に発揮するパワフルな底力があった。
「来年はさ休み合わせてまた来れたらいいね。でもきっとその時は色々忙しくなってるんだろうから大変かもしれないけど。卒業したらいよいよこの学生の自由はなくなっちゃうんだなぁ」
「なんか未来の心配が出来て羨ましいな。僕は学生が終わっていく憂鬱と不透明な未来の板挟みだよ」
「私だってまだ色々決まってるわけじゃないんだから、その板挟みは一緒でしょ」
「でも幼稚園とか保育園、あとはこども園とか一応目標を定める場所があるから進路が明確でいいなって思う」
「誠はそう思うかもしれないけど、結局それでも何か保証されているわけではないから不安が無いわけでないんだよ」
「まぁ未来は分からないもんね」
「そうだよ。だから誠だって就活頑張ってればいい会社見つかるんじゃない。企業の数なんてものすごいあるんだから」
そうだねと言ってそれから咲喜の家に着くまでの間、バイトの話や調子の悪い携帯電話のことなど他愛もない話していた。家まで送ったその別れ際に手を振った彼女の姿を見た時、何にか大事な瞬間を見逃したような取りこぼしているような気分に襲われた誠は急な焦りを覚えた。けれど全くその正体を掴むことが出来ないまま手振りズルズルと離れて行ってそのまま家路に着いてしまった。
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