見出し画像

コントラスト⑥

 メッセージを開いてすぐに”ご期待に添えない結果となりました”という一文が目について不採用の連絡であったことが分かった。末尾に添えられた文章なのにどうして最初に目に入ってくるのだろう。

 けれどそれを見て誠が本気で落ち込むことはなかった。結果に対する理由に心当たりのあった誠は初めからこの連絡に大した期待も抱いていなかった。メッセージを閉じて携帯の画面をなぞっていると新たにメッセージの通知が届いた。

 「これ今日撮った写真。誠も写真あったら送ってね。ちなみに特大花火の写真は自信作。よく撮れてるでしょ」

 まとまった写真のデータと共に得意げなメッセージが届いた。誠は明かりを落として暗くなった部屋の中で青白い光に照らされながら返信を打つ。写真のフォルダから今日撮ったものも貼り付けて送った。

 「花火きれいに収まってていいね。よく撮れてるじゃん。ちなみに僕の今日のお気に入りはこれかな」

 かき氷のシロップで舌を染めた咲喜がそれを見せつけるパンクな写真が画面には映し出されている。誠はこの無邪気な一枚をお気に入りのフォルダに保存していた。

 「えーもっと可愛いやつとかきれいなやつあったでしょ。なんか改めて写真で見ると恥ずかしいし、それなら誠のも撮らせて欲しかったなぁ」

 自分が写真に写ることが苦手だった誠は写真を撮られることをなるべく避けていたので、咲喜も満足いくほど撮らせてもらうことは出来なかった。だから咲喜のフォルダの中の誠は盗み撮りをされたような映り方をしているものが多かった。

 「それはまた今度ね。二人でなら何枚か撮ったし十分じゃない?」

 「いや全然物足りないよ。今度はいっぱい撮るから私のワガママ聞いてよね。とりあえず明日早いからそろそろもう寝るね。それじゃあおやすみ」

 「了解、頑張ります。咲喜も明日のボランティア頑張って。おやすみ」

 部屋の中はすっかり涼しくなっていた。ベッド上に投げていたTシャツを着ると携帯を枕元に置く。誠はそのまま眠りにつこうとしたけれど、そこで頭をかすめたこれからの事をきっかけに湧いては付いて回るように考え事が巡って目はどんどん冴えていってしまった。

 カーテンの向こうがうっすら明るくなり始めた頃に誠はようやく眠りについた。それでもしばらくすると一階のリビングから聞こえる物音で目が覚めてしまった。時刻は10時半。不十分な睡眠ではあるけれど思ったより眠っていたんだなと誠は思った。

 エアコンのタイマーをかけ忘れたせいで喉が痛かった。両親が出社して妹が学校へ行くと家の中は静まり返って、窓の向こうからセミの声がはっきりと聞こえて来る。地中で長い時間を過ごしたセミは地上に出てからは短命だがその一生を全うする最後まで懸命に鳴き続ける。そんな必死な鳴き声が誠の部屋に押し寄せていた。

 今頃咲喜は地元の小学生を対象とした勉強会にボランティアの講師として参加している頃だろう。誠は枕元にある携帯を手に取った。



 

 

 

よろしければサポートお願い致します!これからの活動にお力添え頂けたら嬉しいです!