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コントラスト⑤

 アスファルトで塗装された灯りの少ない田んぼ道を歩き、靴底で擦れる砂利の音が一定のリズムで刻まれている。誠は家に着くとグラスを食器棚から取り出して予定表やメッセージが貼り付けられている冷蔵から水の入ったペットボトルを取り出した。

 音を立てながらグラスに注がれる水は徐々にグラスに冷気を伝えて手の平に心地良かった。それを喉を鳴らしながら一気に飲み干した。体の中を冷たいものが流れていくのを感じる。ペットボトルを冷蔵庫へ戻すと汗で湿った体を流す為に浴室へと向かった。

 シャワーを浴びて体を洗っていると目の前に不甲斐ない男の姿が映った。曇った瞳でこちらを見つめている。何か言いたげな表情をしているそいつの声に耳を傾けてしまったら淀みにはまってしまう気がして鏡にシャワーを勢い良くかけた。

 誠は大学へは進学したがこれといった目的を持っていたわけではなく、自分に合った学力と通学のしやすい大学にとりあえず通っているような状態だった。必要としていたのは大卒の学歴と社会に出るまでの猶予だけだった。

 そんな姿勢の誠はこれまでの大学生活を謳歌してきた。名ばかりの映像研究サークルに入って割り当てられたサークル用のブースに学友と遅くまで残って遊んで過ごしたり大学近くに住んでいる友人の家に泊まって大騒ぎして世を明かしたりしていた。

 遊ぶためにはお金は必須であって、空いてる時間には飲食のバイトをひたすらに入れて咲喜とのデートや遊びに使う為のお金を必死になって捻出していた。だから当然学生の本分疎かになって成績はあまり優秀とは言えなかった。

 ボディソープもシャンプーも流してサッパリした体で浴室を出る。浴室の外は涼しく感じた。洗濯機の上にあるバスタオルを手にとって体の水気を拭き取っていく。大まかに拭き終えたところで下着を身につけて半ズボンのスウェットを履いてからTシャツを片手に洗面所を出た。

 水を一杯飲んでから自分の部屋へ向かいドアを開けると顔を歪めたくなるような熱気が溢れ出てくる。誠は素早くリモコンを手に取るとエアコンのスイッチを入れた。部屋が冷えるのを待ちながら携帯の画面を開くとメッセージの通知が一件届いていた。

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