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アップルやグーグル、ソニーが参加するRE100を知っていますか? 【日経BP 2021.12.23】

2014年に発足した再生可能エネルギー100%を目指す「RE100」に国や企業が続々と参加し、実績を上げている。「RE100」とは何なのか。そして、日々進化する再生可能エネルギーを扱うビジネスについても、いくつか実例を取り上げてみたい。

日経ビジネス 編集部

RE100が発足したのは2014年。意外にも、今のようなSDGs(持続可能な開発目標)ブームが巻き起こるよりも前に提唱された戦略なのだ。この「RE100」は「Renewable Energy (再生可能エネルギー)100%」の略語で、事業で消費されるエネルギーを100%再生可能エネルギーで賄うことを目標に掲げた取り組みだ。

https://go100re.jp/portfolio/re100


 世界規模での地球温暖化対策を目的とした「COP(国連気候変動枠組み条約締約国会議)」の動きは、グローバル企業には見過ごすことができない大きな課題となっている。さらにESG投資が投資家や消費者に重視されるようになっている昨今、環境や社会、企業統治といったポイントに大きなリスクがあるとジャッジされた企業は、株主から避けられる傾向が強まっている。

 しかも、この傾向は年金基金など巨額な資金を運用する機関投資家ほど強い。すでに化石燃料に投資している企業は投資対象から外すなどといった金融機関のアクションも見られている。「事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで賄うなど不可能だ」と思考停止していると、一気に企業価値を判断する基準となった時に足をすくわれるかもしれない。

 日本ではまだまだRE100自体の認知度は低いが、海外においては重要なキーワードとして取り上げられている。2021年11月時点で、国別では25カ国から341社の参加があり、国別参加企業数では、日本はアメリカの83社に次いで2番目に多く、62社が参加している。(環境省調べ)。ソニー、イオンや富士通といった日本を代表する企業や、アップル、グーグル、スターバックスコーヒー(アメリカ)、家具の世界最大手で知られるイケア(スウェーデン)や、食品世界大手ネスレ(スイス)など、日本でもよく知られているグローバル企業だけでなく、中国やインドといったアジアの企業も参画しているのが特徴的だ。

最大の目的は「脱炭素社会」の実現

「RE100」は事業運営に必要な電力を再生可能エネルギーで賄うことと同時に、その必要性を政府に訴えかけることも重要な役割となっている。その働きかけにより、電力を供給する電力会社や小売電気事業者が、再生可能エネルギーの開発を進め、より多くの再生可能エネルギーを生み出すニーズが増える。最終的に受給側のリクエストにより、電力会社が自発的に再生可能エネルギーの開発を進め、政府が関係法令の整備や開発補助を行うという好サイクルこそが、「RE100」の目指す脱炭素社会なのだ。

 ただ、「RE100」にはまだ課題も多い。まずは新規発電設備の導入だ。再生可能エネルギーの多くは、従来の発電に比べて発電量に対するコストが非常に高い。新たに再生可能エネルギー用の用地を開発し、しかも事業規模に伴うほどの発電量を確保するというのは容易ではない。これを解決するためには、技術革新や規模の経済などが鍵となるだろう。

発電所用地の開拓にも向き不向きがあり、日本は山や坂が多いためソーラーパネルでの発電のみに頼ることは難しいとされている。すなわち、再生可能エネルギーにもポートフォリオが必要だということ。

 また、再生可能エネルギーの調達契約にも問題がある。海外と比較すると、日本は民間の大規模な再生可能エネルギーを扱う事業者が少ない。生産拠点の近くに再生可能エネルギーの設備があれば、工場用地を移動する必要がないため、選択肢として出ることもあるだろう。今はまだ選択肢が少ないことが、実現の上で壁となるだろう。そのため、実現性の観点で言えば、二酸化炭素を酸素にかえる森を開発することや、J―クレジット(CO2などの温暖化ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証する制度)の利用などが現実的な着地点だろう。だが、そのコストを商品やサービスに乗せることで競争優位性が失われる可能性もまた存在する。企業が二の足を踏む理由の一つとも言えるだろう。

 上記以外にも、数々の問題が存在する。その解決を目指し、環境省は「環境省RE100達成のための行動計画」を策定。2030年までにRE100達成を目指している。再生可能エネルギー比率100%の電力調達に、「電力リバースオークションサービス(以下、エネオク)」を活用し、約100万kWhの電力を再生可能エネルギーとしつつ、約9.3%の電気料金削減を果たした。しかも、国土交通省東北地方整備局においても、エネオクが採用されており、現在は環境省だけでなく他省庁での活用も広がっている。再生可能エネルギーの価格問題が、エネオクを活用することで解決できるということが、一つ証明された形だ。

2021年、達成を目指す各企業「R100」の取り組み

最後に、2021年に発表された「R100」の取り組み企業とその実績をご紹介したい。現時点で参加している日本企業は60社強だが、今後も増えていくことだろう。

【旭化成】
 グループ会社が運営する電力小売事業「へーベル電気」を通じて、太陽光発電システムを搭載したヘーベルハウス・へーベルメゾンオーナーから電力を買い取る取り組みが先進事例として取り上げられることが多い。

 自社の顧客から買い取った電力は事業活動で消費する電力へと充当。他業者からグリーンエネルギーの買い取りを行うことなく、自社だけでの実現を可能としているのが、ユニークだ。当初2038年でのRE100の達成目標を大幅に短縮、2025年に目標達成を目指すなどとスピードも増している。

【リコー】
 リコーは2021年4月、東京都大田区の本社建物向けに、再生可能エネルギーの調達を開始。新しくまとめた再生可能エネルギーの評価制度に基づいて、風力発電や太陽光発電の電力の調達を行う。また、海外生産工場にもパネルを設置し、国内だけでなくグローバルでのRE100達成を目標に掲げている。

【戸田建設】
 戸田建設は2019年1月に「RE100」に加盟。そして、2021年11月に他企業へ電力を販売するサービス「とだ電気」を開始。事業活動における使用電力を、100%再生可能エネルギーにすることを目指す国際イニシアチブ「RE100」に適合する電力調達の効率化を目標とし、同時に調達した電力を他社にも提供する。消費電力の多いゼネコンが率先して再生エネルギーに切り替えるというのが非常に興味深い。今後の目標として、事業活動に必要な電力を2040年までに50%、2050年までに100%再生可能エネルギーに切り替える方針を掲げている。

【三菱地所】
 三菱地所はCO2排出量について、2017年比で2030年までに35%、2050年までに87%削減することを目指している。中でも、アウトレットでの取り組みが特徴的で、酒々井(しすい)プレミアム・アウトレットでは年間発電量は、102万5900kWhを見込んでいる。郊外型のアウトレットは、広い平地に大規模な駐車場などが展開されており、事業用地との併用が可能だ。発電用のパネルを設置するために、新たな土地を購入する必要がないことが大きな利点と言えるだろう。

(文=萬代悦子)

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