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薄利多売は大嫌い。小さな農業を考える。

農家はふと考える。

「売り単価を2倍にできるなら、作付けを半分にしても経営は成り立つよね?」

なんか、すごくアホっぽいな。笑

でも、実は割と本気でそう思ってる。

農作物の単価の話。

そもそも農作物の単価がどうやって決まるのか、という話から。


農家が自分の作物を売る場合、大きく分けて2つの方法がある。

1、農協に出荷する

2、自分で売る

2の自分で売るというのは細かく分けるとほんとはいっぱいある。

直売所や小売店と契約して品物を卸したり、自分でマルシェやネットショップに出品したり。
共通しているのは自分で価格を決定しているということ。


一方、1の農協に出荷するルートは、農家に価格決定権はない。

農協から青果市場に品物が集められ、市場で価格が決まる。

多くの人がスーパーで買う野菜のほとんどが、このルートの野菜。

こういった市場流通の野菜の価格の大原則は、

「少なければ高い、多ければ安い」

夏野菜のトマトやキュウリは夏にたくさん出回るから安いし、冬なら大根や白菜が安いといった感じ。

市場流通の「強者ルール」。

市場流通の野菜の価格の大原則は「少なければ高い、多ければ安い」。

これを突き詰めると、市場流通にはひとつのシンプルな事実がある。

「いちばん多く出荷した者が勝つ」

単価が安いなら、自動的に物量の差が収益の差になる。

たくさん出荷する農家が儲かり、出荷量が少ない農家はどんどん割りを食っていく。

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僕はこの市場流通のルール上では「一生勝てない農家」だとわかっている。

なんせ僕は、持ってる農地がめちゃくちゃ少ない。

1年間に作れるスイカやほうれん草なんて、たかが知れてる。

もっと踏み込んで言うと、

山間部の限られた土地で農業をしている農家はほぼ全て、平野部の広大な土地で農業をしている農家と同じ土俵では勝負にならない。

薄利多売は大嫌い。

出荷量の少ない農家は、絶対に薄利多売の土俵で淘汰されてしまう。

考えてみれば当然だ。

「多売」ができないんだから!

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僕はいつも「薄利多売は大嫌い」と言っている。

わざと誤解されやすい言い方をしているけど、出荷量の多い農家をディスってるわけじゃない。

「低単価でたくさん売る」と言うビジネスモデルは、それで経営が成立してるならそれで良いと思うし、

何より「お客さんのための安さ」をミッションにしているビジネスだってあるはずだから。

あくまで僕は、小規模農家のひとりとして「薄利多売は俺の進むべき道じゃない」という整理をしている。

繰り返しになるけど、そもそも「多売」ができないんだから。

じゃあ、どうするか。

小さく、高く。

物量が少ないなら、単価を高くすれば経営的には成り立つ。

ん?市場流通では農家が自分で単価を決められないのでは?

その通り。

だから、市場流通の外に飛び出すしかない。


僕が作っているスイカの販売期間は7月〜お盆くらいまで。

これは全国のスイカの中でもありえないくらい短い。

地域ブランドとして何軒かの生産者で作っているけれど、

その出荷量は、1シーズンで10000玉。

なんと全国シェアの0.035%…笑

市場流通で物量の勝負をやってたらダメだっていうの、わかるでしょ?笑
とても勝負になんてならない。

だから、自分たちで価格を決める。

小売店と契約し、個人のお客さんからの注文をインターネットで受け付けて。

とにかく自分たちで売っている。

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スイカは市場流通で2500円くらい(それも調子のいい時期のやつ)だけど、僕らのスイカは、高いものは1玉6000円で売っている。


だから、数が少なくても経営は成り立つ。

この「小さく、高く」の農業が、小規模農家の生き残りの道だと思う。

「農地の保全」の問題。

「小さく、高く」なんて言ってると、こんなツッコミがある。

耕作放棄地が増えるのは問題になる。農地を保全するためにも農家は農地を増やして規模を拡大するべきだ。

少ない人数で土地を増やせば、一人あたりの負担が増える。

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なんでそんなことしなきゃならんのだ。

そんなしんどい農業、誰もやりたくないわ。

それなら、「小規模、高単価」の農家を増やした方が良い。

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農家の家計の問題。

ここまでいうと、またツッコミが飛んでくる。

いくら高単価で売ったとしても、規模が小さい農業だけで生計が成り立つのか?

このツッコミは、ほぼ答えを自分で言ってるようなもの。

誰も、農業だけで生計を立てるなんて言ってない。

農業の規模が小さいなら、時間を確保して別の仕事をすることだってできる。

実際に僕の地域には、秋〜冬は農業をせずに猟師として仕事をする人もいる。

それに、パソコンひとつあればどこにいたって仕事ができる時代。

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これも「小さく、高く」の農業だから可能な組み合わせ方。

 生きていくのに、ひとつの仕事しかしちゃいけないというのは大きな間違い。仕事はやりたいだけ組み合わせれば良い。

「小規模、高単価、必要なら複業」のスタイルが確立できれば、山間部の小さな農家もじゅうぶん、生き残ることができる。


最後に。いちばん大事なこと。

改めて、最初のツイートをもう一度。

実は今まで、いちばん大事なことを黙ってた。

「単価を2倍にできるなら」「高単価なら」という前提を、いかにも簡単そうにサラっと書いていたけど…

ごめん。これが、いちばん難しい。

単価を高くするということは、それだけ求められるハードルが上がるし、期待や信頼には必ず答えなければならない。

一度でも期待を裏切れば、次はない。

そしてこの「期待に応える」というのははっきり言って、完全な「腕力勝負」

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いかにクオリティの高い品物を作るか。圧倒的な感動を与えられるか。


そして仮に最高の品物を作れたとしても、それをすぐにお客さんが見つけてくれるとは限らない。

というか、何もしなければ絶対に見つからない。

これは売っていくための戦略になるわけだけど、これは以前に記事を書いたので、詳しいことはそちらで。


小規模と、楽するのは違うってことね。

でも自分の現状は手応えハンパないんで、思い描く未来のためにまだまだ頑張ろう。

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