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【白熊杯】審査員くらぽー賞【俳句編】


 みんなの俳句大会『白熊杯』に参加・企画された皆様、お疲れさまでした!今回もたくさんの作品が寄せられて、大変盛況だったことと思います。
 なぜか参加2回目で俳句部門の審査という過分な大役をいただいてしまいまして、多くのいい句に出会えてとても楽しませていただきました。参加者の皆様と共に、白熊杯企画委員会の皆様にも厚くお礼申し上げます。

 これほどたくさんの選句はおそらく初めてだったかと思うのですが、388句を見る時に、はじめの方の印象をなるべく残したくなくて最後の方から読むようにしていました。そして何度も見返したけれど、やはりこの句に戻ってきてしまったというものを選びました。そして、その中でなぜ推したいのかが自分の中できちんと言語化できるものを努めて選びました。選に漏れた中にももちろん佳句がたくさんありました!決勝ラウンドで再会できた句もありました。

 まずは上位6句から。どれも順位をつけるのに迷う、粒揃いの作品だったことを申し添えておきます。

特選
1位

373.寒梅や手相見の手のやはらかき
よこがおさん


 寒い中、通りに小さな机と椅子を出していた手相見のところに、背中を少し丸めて座っている様子が浮かんでくるようです。実は筆者は占いも少し齧っていまして、手相や人相にも興味があるので景としてもとても馴染みました。また、この句は贅沢なことに、視覚以外の感覚を表現できているのです。背景には梅の香が漂っていますし、手相のことではなく、手相見の手の感触が出ているところが素晴らしい。お互い寒い屋外にいて、手袋を外して触れ合った手の感触が、「今この時」の生の実感となって表されています。

2位

268.寿ぎもてげでげじゃっどおらが春
てまりさん


 俳句に大切なものとして、口ずさみやすいリズムがあります。「口誦の文学」とも言われる所以です。この句は初見ではその読みの難しさに目が留まってしまったものと思いましたが、意味をきちんと調べ直した時、方言(鹿児島弁)としての「てげでげじゃっど」のリズムが立体的に甦ってきました。母国語のことを英語でmother tongueと言いますが、方言も本心を吐露する母国語でありまさに本心からの言葉だと思いました。「めでたさも中くらいなりおらが春」という句の本歌取りにもなっているかと思いますが、この句はリズムにおいても先行句よりも良いのではと感じます。

3位

189.夜神楽の農夫は神になりにけり 
鮎太さん


 内容としては郷土の祭の夜のワンシーンを切り取ったものですが、特筆すべきは聖と俗のバランスです。荘厳な儀式でもある夜神楽を描写するために、上五(聖)を中七(俗)が裏切って、それをまた下五(聖)がさらに裏切っていく構成にも驚かされました。神は実は農夫が演じている、ということは誰もが知っていることなのだけれど、農夫は神になったという書き方で、まるでその農夫に本当に神が乗り移ったようにも読めてくるのです。

4位

26.缶蹴りを終わらす合図冬鴎
月夜案山子さん


 深い郷愁と寂寥感に誘われるような句と思いました。海辺の町の遊び時間は、鴉ではなく鴎が鳴いて終わるのですね。皆それぞれが港のように帰る場所を持っていて、散り散りに分かれていく子どもたち。「缶蹴り」という、令和の子たちはおそらく知らないような遊びが出てくることにより、子どもの時間が終わっていくこと、それはやがて大人になっていくことも暗示しており、いつかは鴎のようにこの町すらも離れることになる未来が待っているかのようです。

5位

320.葉牡丹の渦に包まれ忘却す  
やどかりさん


 こちらは、「葉牡丹」という具象から導き出されるイメージが見事に結晶化した作品だと思いました。筆者にまず思い浮かんだのは、フィボナッチ数列でした。この数列は向日葵の種の並びなどにも表されており、その形を拡大すれば、その形は銀河系宇宙の螺旋とも重なるといわれています。そのように広がってきた葉牡丹の螺旋の渦に包まれてしまえば、個人の意識は宇宙にまで広がってしまい、すべてを忘れてしまっても仕方がないのです。

74.冬ざれてアンドロイドの顔になる
汐田大輝さん


 「冬ざれ」とは、すべてが枯れ果てた冬の景色のこと。荒涼とした世界に終末感を感じ、作者の心もアンドロイドのように無感動になっていったのかもしれません。けれども何度か反芻しているうちに、生き物が死に絶えたような景色を見つめているとまるでダリのだまし絵のようにアンドロイドの目鼻が立ち上がってきた、という風にも読めてきて、はっとさせられました。いずれにしても、自然と人工物の異質な取り合せが魅力の作品です。

B賞(順位なし)


334.シャリシャリと音符の見える雪みぞれ
chiyo🌷さん


300.和解して日向ぼっこのへそピアス
はねの あきさん



292.小春日や片道だけの乗車券
うみのちえさん

200.ことりともいわず新年そこにおり
マー君さん



167.どの人も寡黙なペンギン冬の街
石塊さん


95けふ逝きてけふ逝きてあたらしき年
MITEI NARICO🔰さん


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