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リーパーに取り憑かれたプレイヤーAさん(クランベリーのエオルゼア観光日記41)

端緒

うちの固定でずっとヒーラーをプレイしていたAさんは、曉月のメインクエストをクリアした後、目新しさと息抜きのために、リーパーを育て始めた。

普段メレーを使うことのないAさんは、コンボを繋ぎながらAoEを避ける難しさに悲鳴をあげつつも、ヘルズイングレス・イーグレスの自由な瞬間移動やレムールシュラウドの高速攻撃の気持ちよさに惹かれていっているようだった。

ずっと苦手意識を持っていた近接ジョブを楽しそうに遊ぶAさん。

少しずつ上達しながら、N辺獄や極ハイデリンなんかの木人が割れたとか割れないとかはしゃいでいるAさんを、私達は微笑ましく見ていた。

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変節

固定のみんながメインクエストをクリアしてしばらく経った頃。

ホットフィックス、ノーマルレイドの追加を経て、ついにエオルゼアに零式が追加されるアップデートがやってきた。

このアップデートにはいくつかのジョブ調整も含まれていて、それぞれが自分のメインジョブの調整に一喜一憂した。

学者をよく使うAさんも、フェイユニオンの効果範囲延長に喜んでいて、極ハイデリンなんかで「くらえッ!半径30mフェイユニオンをーーーッ!」とか、楽しそうに遊んていた。

それだけならいつものことだけど、リーパーの調整について口に出していたのが、珍しいと言えば珍しかった。

「いやー、アルケインサークルのナーフつらいわ〜」とかネタ的に言ったりして。

まあ、よっぽどリーパーが楽しいんだろうなとそう思っただけだったけど。

今なら思う、後戻りできるとしたら、きっとあの時が最後のチャンスだった。

何が出来たのか分からないけれど、それでも。

あの優しかったAさんは、あのときすでに、リーパーの魔力に蝕まれていて。

私達がほんの少しでもAさんと話をして、変化を読み取って、方向を変えてあげられれば。

わたしたちはそのことを、一生後悔することになる。

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現れ

零式のアップデートには新式装備も含まれていた。

うちの固定はクリアすることが目的というより、ゆっくりみんなで一緒にクリアする過程を楽しむ固定だから、まだ零式には手を付けていない。新式の作成も禁断もそれぞれのペースで進めていた。

Aさんはメインジョブの学者の新式禁断を早々に済ませて、次にリーパーの新式を禁断していた。

流石に零式に出す予定のないジョブだけあって、確定穴+禁断1つにアルテマテリジャをはめたら、あとはマテリジャでお茶を濁していた。

ある日、Aさんが「パンデモ零式1層木人・12秒残し」と固定のチャットに流した。

固定の竜さんが対抗して「14秒!!」と返していた。

少したった後、「21秒!あれ?メイン近接の竜さんがわたしを超えられないなんてありえないですよね?」なんて煽りだした。

そのあといくらかの応酬があって、その日はAさんの残り秒数のほうが短かった。

実際には竜さんはまだ禁断していないし、新式でない箇所も沢山あったのだけれど、Aさんはそんなことはお構いなくはしゃいでいた。

そのころから少しずつ、Aさんは人よりDPSを出す気持ちよさに、我を忘れることが増えてきた気がする。

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とらわれる

固定のメンツでエキルレに行くとき、Aさんがリーパーを出す頻度が多くなってきた。

ちょうどもうひとりのヒーラーさんと一緒に行くことも多かったから、パーティー内でのジョブの振り分けは問題ではなかったけれど。

エキルレにはだいたい竜さんも一緒で、二人はよく、どちらがよりDPSを出したか煽り合っていた。

「ちょ、プレンティフルハーベスト(バフがある間、シュラウドゲージが50貯まるWSを撃てる)が切れる!!!撃っていい?もう撃っていい???」

とか言いながら先頭を突っ走るAさん。

タンクさんに「死んでもいいならいいよ~」とか言われながら「うおおおおお、もう我慢できん、撃つ!!!」とか言いってMOBの群れに突っ込んでいく。

こうやって先釣りリーパーって生まれるんだな・・・と私達は思っていた。

それからボス戦で、「やばい、DPS負ける!竜さん死んで!ボスを倒すのに困らない程度に死んで!」なんて言い出したりもする。

「パーティーってなんだろうなぁ・・・」「サイコパスぅ」

そんな言葉が飛び交う。

いつのまにか、Aさんはもう戻れないところまで行ってしまっていた。

誰よりも和を大事にして、DPSやスキル回し、ゲームの上手い下手はどうでもいいと言っていたAさんに、わたしたちはもう会うことは出来ない。

この悔しい気持ちをどこにぶつければいいんだろう。

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残滓(ざんし)

思い出してみれば、Aさんは学者で遊んでいるとき「竜さんイルーシブミスって良くAoEに当たるから教育しよう」なんて言って、ヒールしなかったこともあった。

そういう、残酷な面ももともと持ち合わせていたのだと思う。

だけど、そういった内面を、Aさんは理性で押し留めていた。

そして、それは現代に生きるなら正しいことだ。

人が欲望のままに現代社会で生きていくことは出来ないし、理性で考えて正しいことを、自分の欲望を抑えて行う。

それが知性のある生き物であるということだろう。

Aさんがそうやって抑えていたタガが、リーパーの魔力によって、外れてしまったんだと思う。

まさしく、ボイドに取り込まれてしまった。

昨日、Aさんはついに、初めて極にリーパーを出した。

ワープで前に飛んでAoEを踏んだとき、Aさんは「いいよいいよ~、攻めて死ぬのはいいよ~」とか言う。

他メンは「ついに自分で言いだしたぞ・・・」「なんで自分で言ってるってバレないと思ってる・・・?」なんて言ってて。

あの頃の学者で他人のケアを一番に考えていたAさんはもういない。

けれど、そのころの残滓をたまに見ることもあったんだ。

他のメレーがAoEを踏んだりしたとき「近接は仕方ないよねー、だいじょうぶだよー」なんて言ったりして。

「あれ?Aさんってそんな性格だったっけ?」なんてパーティーで言われたりする。

今はまだ、ほんの少し残された理性。

きっとAさんの心はもう後戻り出来ないし、崖っぷちに立っているんだろうけれど、せめてそこから飛び降りてしまわないように、わたしたちはぎゅっと手をつないでいたいと思っている。

あなたも気をつけてほしい。

人がリーパーでアヴァターを使うとき、アヴァターもまた、こちらを覗いてていることを忘れてはいけない。


出演

竜さん ・・・固定メン

タンクさん ・・・固定メン

ヒーラーさん ・・・固定メン

その他 ・・・固定メン



Aさん ・・・クランベリー・ラブ

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