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50歳のノート「時間とともに満ちていく心」

LINEマンガの韓国コミック「赤い瞳の廃皇子」、公開ごとにこつこつと読み進めている。
韓国コミックにはめずらしく正統派の骨太サスペンスとラブストーリーである。
架空の王朝ものときたらほぼ転生ものなのだが、この作品はそのギミックが無い。
物語は廃嫡された皇子、キリアンの領地で、死んだ村の地主と共に生き埋めにされようとしたリエターとの出会いから始まる。
リエターは夫を亡くし幼い娘を地主に奴隷として売り飛ばされ、生死がわからない。その上情婦になれとリエターに強要した地主が急死する。リエターが妖婦だから地主が急死したのだと噂がたち、災い封じのために生贄にされるところだった。
キリアンに引き取られたリエターは生きる気力を無くし呆けた表情でじっとしている。
国は悪魔と呼ばれる存在と魔物がはびこっている。それに対抗して司祭、祈祷師と言われる存在がそれらの襲撃に応戦しているが、人間はいつでも簡単に命を奪われてしまう。

人々は「悪いもの、得体が知れないもの」を極度に恐れる。
そのため祈祷師がやってきて部屋に守りの祈祷をしてくれると大変喜んだ。

リエターは引き取られたキリアンの城内で何か人の役に立つことをしようと「わずかな力しかありませんが」と城内の部屋を回って祈祷をさせてもらう。

キリアンは知略に長け、戦士の体躯である。キリアンの武勇は魔物討伐で陣頭に立ち、討伐はにかけては1番の武力を誇るほどだ。
けれど継母である皇妃が策略をさし向け、いつでも命を狙っている。

魔物のいる厳しい北の大地、政敵のえげつない策略、浮かび上がる呪いの謎…。
世界観はハッキリとダークトーンである。
夫と幼い娘を失ったリエターが急に気力を復活させるわけもない。
キリアンとリエターが急に甘々になることもない。

ところが、いつのまにかキリアンがリエターの姿を目で追っている。
リエターがキリアンの背中をそっと見ないようでいて視界に入れていたりする。
その視線の間合いが素晴らしく描かれてている。
ゆっくりと時間が流れる一本の映画を見ている感覚になる。
情景だけで登場人物たちの心が伝わってくる。
まるまる1話、セリフが全く無い回もあるほどだ。

ゆっくり時間が満ちてきて、2人の気持ちがわずかに動いていくさまはこの作品ならではと思う。
全体的に重苦しい世界観だがハッピーエンドを願って2人を応援したい。

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