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2022年おすすめ国内新譜アルバムVol. 18: ISSUGI、Phaze1992、7AW & GYIYG

国内新譜アルバム紹介Vol. 18です。

今回紹介するのは、ISSUGI「366247」Phaze1992「City Beats 2」7AW & GYIYG「PAMPHLET」です。


ISSUGI「366247」

東京のラッパー。

ISSUGI16FLIP名義でビートメイカーとしての活動も行っているアーティストです。今年は16FLIPとしてのアルバム「16FLIP (Atomosphere'22)」もリリース。同作については以前こちらで書いています。

この記事で書いたように、ISSUGIはブーンバップを好むラッパーです。ラップスタイルは落ち着いたクールかつタイトなもの。以前レビューを書いたBudaMunk & Jansport Jのアルバム「BudaSport」収録の「Old School, New Design」ではBluと共演していましたが、Evidenceあたりの西海岸ブーンバップ勢を思わせる瞬間もあります。

ビートメイカーとしても一流のISSUGIですが、今作では自身のビートは「Perfect Blunt」のみ。代わりにメインプロデューサーを務めたのはDJ SCRATCH NICEで、ブーンバップを軸にしつつも多彩なビートでISSUGIのラップの魅力を引き出しています。なお、DJ SCRATCH NICEについては以前こちらの記事で書きました。

今作でのDJ SCRATCH NICEの作風は、東海岸的な骨太ブーンバップ以外にも様々な方向に広がっています。「G.U.R.U.」ではローファイなストリングスのループに現行トラップ的なダーティな808が絡み、「from Scratch」「Real」は1980年代R&Bっぽいメロウなネタを使ったDJ. Freshが作りそうなビートを披露。ブーンバップでも「April」DJ Premier的なハードな路線、「Rare」は荒くれモードの時のJ Dilla「Ethology」Nottzのような寸止め感のあるグルーヴ…と多彩なスタイルを取り入れています。

こういった幅広いビートを揃えつつも、ISSUGIのラップは一定の美学を保ちつつ柔軟に対応しています。KID FRESINOSPARTAONENESSstzといった客演陣の的確な選び方も絶妙。芯の通った良作に仕上がっています。


Phaze1992「City Beats 2」

東京のコレクティヴ、ONENESSに所属するビートメイカー。

並びで気付いた方も多いかと思いますが、今回はプチONENESS特集です。Phaze1992については以前こちらで書いています。

ブーンバップ系譜のループ感覚を備えつつもメロウネスがキーとなっているONENESSのサウンドですが、インスト集の今作でもそういったスタイルのビートを聴くことができます。また、タイトルに「City」と入っている通りシティポップとの共通点も感じられ、その心地良さはヴェイパーウェイヴ以降のリスニング感覚にもぴったりです。

冒頭を飾る「Intro」は、どこかノスタルジックな空気もあるまさにヴェイパーウェイヴ的に聴ける一曲。極太低音ヴォーカルのサンプリングも絶妙です。続く「Big City Groove」は清涼感強めな作りですが、弾けるドラムの処理などの1980年代っぽさにはやはりヴェイパーウェイヴ的な楽しみも。「Imyours」のメロウなシンセやブリブリのベースも、ウェッサイ的というよりはaestheticな味わいです。これらのヴェイパーウェイヴっぽい響きが意図的かは置いておいて、そういったリスニング感覚でも楽しめるような要素は以降も随所で入っています。

ヴェイパーウェイヴ文脈で楽しめそうな曲以外では、「Wasted Music」はJ DillaやPete Rockを思わせるクールなブーンバップ路線の良曲です。「Mellow Seeker」ではサックスのループで引っ張り、「okaytake」は淡々としたヒップホップのグルーヴでメロウなエレピを心地良く聴かせます。「floating」「Nightsout」でのウワモノのウニョウニョとした処理にもPete Rockに通じる魅力があります。ヴェイパーウェイヴっぽくも楽しめるとはいえ、やはりあくまでもブーンバップなのです。

ベストトラックとしては日本語の歌も聞こえてくる「time」を。この曲はブーンバップ好きの方もヴェイパーウェイヴ好きの方も楽しめると思います。


7AW & GYIYG「PAMPHLET」

神奈川出身のラッパーと東京のビートメイカーのタッグ作。7AWには以前インタビューも行っています。

ラップグループのBlank Comfort Posseでも活動していた7AWは、今年リリースのアルバム「RARECOIL」からONENESS作品に参加しているラッパーです。とは言え2018年にKeep7aw/MyO名義でリリースしたMVTENとのタッグ作「CARBON」や、2019年にClickqnotとのタッグでリリースしたアルバム「Zolq」収録の「Intersteller」など、以前からONENESSと絡んだ曲を多く残してきました。いわばTha Dogg PoundSnoop Doggが加入するようなものだと言えると思います。

今作はGYIYGとのタッグ作ということで、ONENESSとは少し異なる魅力の作品です。メロウなネタ使いの曲もありますが、全体的にはInfinight Records寄りの印象に仕上がっています。ラップ曲だけではなくインストも収録されており、7曲と短めのボリュームもありタイトな印象です。

一曲目の「Resort」は、女声ヴォーカルのループと軽めの808を使った妖しい路線。そこに7AWのディープな声が入ってきた瞬間、そのコンビネーションの素晴らしさがすぐに感じられます。続く「Science Nonfiction」は隙間のあるストリングスのチョップと太いドラムを使ったDJ Premier系のビートで淡々としたラップが映えた好曲。手数が多いドラムが不思議なグルーヴを出したインストの「透明高速道路」を挟み、「Coney Island」では再びヴォーカルのループが効いたストイックなビートのラップ曲を披露。「T1011」はエモーショナルになりすぎないエモーショナルなビートと7AWのラップの組み合わせが沁みます。ブルージーなギターと高速ハイハットが南部っぽい魅力を出した「Interlude」も良く、ソウルフルなインスト「See you around」での締めも程良い余韻を残した終わり方です。好作。

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