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2022年おすすめ国内新譜アルバムVol. 7: aimi、furuya、Power DNA

国内新譜アルバム紹介Vol. 7です。

今回紹介するのは、aimi「Chosen One」furuya「spark!」Power DNA「強宿」です。


aimi「Chosen One」

日本で活動するR&Bシンガー。

aimiはメディアで現行R&Bの魅力を伝える活動も行っており、block.fmのインタビューでは「今がR&Bの黄金期なのではないか」と語っています。

このインタビューでaimiがJoyce WriceH.E.R.といったアジア系R&Bシンガーの活躍について話している通り、近年のアジアでのR&Bの充実は重要トピックの一つだと思います。先日行われたフェス「Coachella」での88risingのステージで宇多田ヒカルが出演したことも大きな話題を呼びましたが、その88risingにもインドネシア出身R&BシンガーのNIKIが所属しています。そのほかにもEMPIRE(アメリカの大手ディストリビューション会社)のアジア支部からリリースしたインドネシアのAfganなど、多くのアジア人アーティストがR&Bの舞台で活躍しています。以前プレスリリースを書いたR&BプロデューサーのJunaswonの活動もそういった流れの一つとして聴けると思います。

これらのアジア産R&Bの数々と同じように、今作もかなりアメリカの現行R&Bと並べて聴ける作品です。プロデュースはTOKYO CRITTERSなどでも活動するShingo. Sが担当。ラチェットR&B系やアフロビーツ風味、トラップR&Bなど現行R&Bの王道を行く多彩なビートを制作しています。しかしバウンシーな曲でもオーガニックな音色が目立ち、ヒップホップに接近しすぎない印象です。そしてそれが統一感に繋がり、今作の魅力にも繋がっています。それを乗りこなすソウルフルで凛とした歌も素晴らしく、英語率の高さもあって完全にアメリカのR&Bを聴く感覚で楽しめます。

ハイライトを選ぶのが困難なほど良曲が多く詰まった作品ですが、ベストトラックを挙げるとしたらタイトル曲「Chosen One」です。Mustardの作風を巧みに消化したサウンドで聴かせるキレのある歌は、現行R&Bファンの方ならたまらないと思います。


furuya「spark!」

日本で活動するビートメイカー。現在はobedient名義で活動しており、Bandcampでは新たな名義でリリースされています。

Bandcampのタグにも「boom bap」や「beats」、「lo-fi」といったタグが並んでいますが、今作は基本的にはそういったブーンバップ系のインストヒップホップ作品です。しかし、一緒に付けられた「R&B」のタグも重要で、スウィートなネタを巧みに使ったメロウネスも強く感じることができます。その質感はKnxwledgeあたりの作風にも通じるものでもあり、ブーンバップといってもGriseldaなどに代表されるストイックなものとも、所謂ローファイ・ヒップホップと呼ばれるものとも違う魅力があります。

Knxwledgeはトラップ的な手数の多い808も使うこともありますが、今作ではそういったアプローチはほとんど見られません。ドラムの質感はより東海岸マナーに近いような印象があります。また、いくつかの曲では1980年代R&B的な電子ファンク系の音色を使っており、ヴェイパーウェイヴ以降のリスニング感覚で聴くこともできます。ブーンバップとしての良さをキープしつつも、様々なリスナーが楽しめそうな作品です。

冒頭を飾る「miss」から、そのファンキーなセンスが遺憾なく発揮されています。弾力のあるベースやメロウなエレピが妖しく光る同曲に続き、「yeahyeah」ではソウルフルにタイトルを連呼する歌を巧みにサンプリング。「healing」でのEarl Sweatshirtが出てきそうなローファイな質感も素晴らしいです。そのほかにもブギー的なベースが効いた「free」、骨太な中にどこかノスタルジックな響きもある「foam」など、多くの良曲が詰まっています。

ハイライトは「horny」。例の高音シンセやスウィートな歌声を使って紡いだこのメロウネスは、R&Bファンの方も悶絶必至です。


Power DNA「強宿」

長崎のラッパー。

これまでの作品ではpoivreなどほかのビートメイカーのビートにも乗っていましたが、今作では「勝とう!」以外の全てのビートを自身で制作しているようです。

この自作ビートが強烈で、いくつかの曲ではclipping.のようなエクスペリメンタル系にも接近するようなヒリヒリとした音像に仕上がっています。そこに乗る…というより「絡む」ようなラップもかなり癖が強く、特にユラユラと特定のフレーズを反復するようなスタイルは非常にユニークです。

オープニングの「ただそれだけでいい」は、少しIDMみたいな匂いもする地を這うようなシンセやノイズが印象的な曲。呪文のようなフロウも見事に溶け込み、奇怪な魅力を放っています。「血眼」では現行のアメリカのヒップホップの鳴りに近いボコボコとした808を用いていますが、それでもミニマル極まりないシンセのループやノコギリのような音を使ったユニークな仕上がり。ラップではアメリカのものとは明らかに異なる歌心も覗かせつつ、印象に残るフレーズも多く飛び出します。「WORLD WORD GAME」はUK産ベースミュージックっぽい低音にフォンク的なカウベルを絡めた曲。詰め込みフロウで攻めるラップも強力です。

Buhguulのビートを用いた「勝とう!」は今作のハイライトの一つ。スクリュー声をループして痺れるようなシンセを合わせ、トラップ系の手数の多いドラムを使ったビートはそれだけで強烈です。連呼フックもキャッチーです。「ありがと、働いてる君」は初期Soulja Boyを思わせるヘヴィなピアノをヒリヒリするような音作りに取り入れ、曲名に負けないインパクトを生み出しています。ラスト二曲の「血汗涙」「AIGHT, STOP」もユニークな仕上がり。前者は一人二役のようなラップが楽しく、後者ではグライムっぽい匂いもする音色を使った歪なビートが奇怪な魅力を放っています。

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