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2022年おすすめ国内新譜アルバムVol. 19: kojo no tsuki、re:plus、4s4ki

国内新譜アルバム紹介Vol. 19です。

今回紹介するのは、kojo no tsuki「Rainbow」re:plus「cure」4s4ki「Killer in Neverland」です。


kojo no tsuki「Rainbow」

ビートメイカーのJunk SportsYagiによるユニット。

これまで当ブログやDIGLEでの「Beat Tape解剖」では国内ビートメイカーによるビートテープをたびたび紹介してきましたが、この作品はそんな中でもかなり異色なスタイルが詰まったものとなっています。

基本となっているのはJ DillaMadlibなどの系譜にあるインストヒップホップで、その点は国内ビートシーンで人気のスタイルではあります。しかし、多くのビートメイカーが取り組むリラックスしたメロウな音像よりも、エッジーでエレクトロニックなシンセ使いが目立ちます。と言っても以前インタビューしたxngb2のような混沌としたものではなく、静かな攻撃性を滲ませるローファイなサウンドです。

ループの美しさで引っ張っていくというより展開にも凝っている曲が多く、エレクトロニカにも接近するような曲もあります。しかし、そんな中にも声ネタの使い方グルーヴなどの面ではヒップホップが香り、それでいてこういった複数の要素がすっきりと整理された印象に仕上がっています。

広がりのあるスネアや揺れるエレピがスピリチュアルな空気を醸し出す冒頭の「The Beginning」から、普通のビートテープは明らかに異なる路線です。ビートテープは短尺の曲が多い傾向にありますが同曲は5分超。派手になり過ぎないよう注意を払いながら、丁寧に積み上げていくような音の増やし方も見事です。続く「Mars Attack」は細かいループやヘヴィなキックが印象的な一曲。奇怪ですがヒップホップマナーからは外れすぎない絶妙のバランスです。「Alien Planet」はタイトル通りスペイシーな路線で、ローファイなシンセにアフリカっぽいパーカッションが絡むSa-Ra Creative Partnersあたりのファンにも聴いてほしいような曲となっています。以降もヒップホップを軸に持ちつつも攻めたビートが続き、8曲の全てをユニークに聴かせます。充実作。


re:plus「cure」

静岡出身のビートメイカー。

re:plusGOON TRAXの人気コンピレーション、「IN YA MELLOW TONE」シリーズへの参加などでも知られるビートメイカーです。ピアノやギターなどの音を活かした美メロ感覚が光る作風の持ち主で、これまでにソロ作だけではなくリミックスアルバムや歌モノのタッグ作など多くの作品をリリースしています。トランペット奏者のYusuke Shimaとのタッグで2019年にリリースした「Prayer」は以前レビューも書きました。

この時のレビューでも書きましたが、re:plusの作品はドラムが実はかなりタイトだったり、生演奏を活かすような作りやエフェクトの使い方なども絶妙です。現代のリスニング感覚ではローファイヒップホップと並べて語りたくなるような要素もありますが、BGMとして流すようなものというよりも美しいメロディと丁寧な音作りを楽しむような作品を作っています。

今作でキーとなっているのはピアノで、ループ感のあるフレーズも聴けますがかなり動きのあるフレーズも登場します。大枠ではインストヒップホップに分類される作品ですが、いわゆるビートテープのようにループの美しさで引っ張っていくタイプではなく、むしろヒップホップ以降のグルーヴを身に付けた現行ジャズミュージシャンの作品にも通じるような楽しみ方ができると思います。ブーンバップ的な骨太ドラムを使った曲もありますが、ラストを飾る「circle」はドラムレスだったりとヒップホップに主軸をそこまで置いていないような印象もあります。逆再生の音やSEなども巧みに使っており、美しい音色のピアノが生み出す美しいメロディが過剰にならないバランスで堪能できる良作に仕上がっています。

ベストトラックとしては「float slowly」を。美しいピアノに繊細なドラム、艶やかなベースが効いた佳曲です。歌声も使っていますが歌モノではなくサンプリングでビートに組み込んだような印象で、そこにはヒップホップの要素がしっかりと感じられます。


4s4ki「Killer in Neverland」

埼玉出身のシンガー。以前2020年にリリースしたアルバム「おまえのドリームランド」のレビューも書いています。

レビューでも書きましたが、この頃はトラップやエモラップ、ベースミュージックなど多彩な音楽を吸収したサウンドで、ラップっぽいニュアンスの歌を聴かせるような印象でした。しかし、その後そのハイブリッドな感性はより先鋭化していき、突き抜けたようなエッジーでスタイルへと進化。ハイパーポップとして語られることも納得の過剰さが詰まった音楽性となっています。

今作もその振り切れた情報量の多いスタイルが全開です。オープニングの「電脳郷」からClams Casino作品のような不穏なループや抜けの良いスネアが印象的なビートでラップし…と思ったら途中で四つ打ちのキックが入り意表を突かれます。「LOG OUT」ではTrillville「Some Cut」の例のSEにクランクをカサカサにしたみたいなシンセ、ドラムンベースの高速ドラム、唸りを上げるエレキギター…と様々な要素を導入。「先制の剣」は細切れにされたみたいなシンセが強烈なインストでも成立しそうなビートで歌い、「ring ring, you kill me」は重厚なシンセに再びドラムンベース系の高速ドラムを合わせた癖の強いハイパーポップです。いずれもビートの尖り方で一聴惚れを誘いますが、それでもインストではなく歌・ラップの曲としての強度がしっかりと備わっています。「Cross out」はそのラッパー/シンガーとしての魅力が比較的ストレートに楽しめるエモラップ路線。以降も軽快なハウスビートでキュートにラップする「傍観者」や、Lil Uzi Vertがやりそうなダークでエレクトロニックなトラップ「into the darkness」などで、そのサウンド面だけではない良さが堪能できます。ラストの「SUCK MY LIFE3」は「おまえのドリームランド」収録曲をピアノのみで歌ったリメイク的な曲で、飾らないサウンドでその歌の良さがすんなりと入ってきます。尖ったサウンドとラッパー/シンガーとしての実力が見事に両立した充実作。

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