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2022年おすすめ国内新譜アルバムVol. 4: butasaku、Dirty R.A.Y & DJ EZEL、KILLANAMI

国内新譜アルバム紹介Vol. 4です。

今回紹介するのは、butasaku「forms」Dirty R.A.Y & DJ EZEL「Dirty Ridin」KILLANAMI「PALMETTO ~LO-FI CAMP BEATS~ VOL.01」です。


butasaku「forms」

シンガーのbutajiとビートメイカーの荒井優作によるユニット。

2010年代にはDrakeFrank Oceanなどの活躍により、R&Bにアンビエント的な浮遊感のある音像を取り入れたサウンドが浸透していきました。こういったスタイルは「オルタナティヴR&B」と呼ばれることが多いですが、代表的アーティストのThe Weekndの大ブレイクもあり気付いたらオルタナティヴどころか中心に居座っています。

初期はあらべぇ名義で活動した荒井優作は、そんな2010年代にシーンに登場したビートメイカーです。元々はヒップホップやR&Bからの影響を受けたビートを制作していたとプロフィールにありますが、SoundCloudにはストレートなアンビエント路線の曲も多くアップされています。

こういったアプローチの曲を発表する一方で、元々のルーツであるヒップホップ作品も制作。GOODMOODGOKUとのタッグで2017年に発表した「色」では、アンビエントとヒップホップ/R&Bが高度に融合したサウンドを提示しました。

そしてbutajiは、歌謡曲っぽい匂いを漂わせつつ、ソウルやフォークにヒップホップ要素も導入したようなハイブリッドなスタイルを持つアーティストです。クロスオーバー感覚と歌謡性のバランスがユニークで、それはそのまま今作の魅力にも繋がっています。

今作は、アンビエントやエレクトロニカをヒップホップ以降の感覚で取り入れたR&B作品です。しかし、先述したDrakeやFrank Oceanとは種類の異なる繊細さがあります。これはアンビエント「風味」ではなくストレートなアンビエントも制作してきた荒井優作ならではの感性だと思います。また、そのサウンドにさらにbutajiの日本的な癖を持った歌も絡みます。このアメリカのヒップホップ/R&Bとの共通点と違いを両方備えたサウンド・歌の組み合わせが今作を魅力的なものにしています。

ベストトラックはラストを飾る表題曲「forms」。美しいシンセと声の多重録音からなる圧巻の一曲です。


Dirty R.A.Y & DJ EZEL「Dirty Ridin」

東京のラッパーと福島のDJ兼ビートメイカーのタッグ作。

Dirty R.A.Yはテキサスのヒップホップに魅せられ、そのスタイルを丁寧に吸収・昇華してきた国内の南部スタイルのパイオニアです。詰め込みフロウや歌心のあるフロウを用います。

DJ EZELもまた、テキサスのヒップホップに魅せられてきた人物です。「Chopped & Screwed」という言葉はDJ Screwのものという意識がテキサスでは強いのか、ほかのDJはOG Ron C一派の「Chopped Not Slopped」やMichael "5000" Wattsの「Swishahouse Remix」など別の名前を使う傾向にあります。DJ EZELもスクリューDJとして活動していますが、そのスクリューリミックスは「EZELED & CHOPPED」と名付けられています(今作では『Ezeled & Dirtied』)。強いテキサス愛はここにも感じられます。

そんな二人のタッグ作は、当然テキサスG色の強いものに仕上がっています。冒頭を飾る「Not Fair」ではピアノが効いたシリアスなビートに、Pimp Cを思わせるMoss.Keyの歌やラップをフィーチャー。こういったビートはテキサスGでは定番で、多くのラッパーが使ってきました。

その後もテキサスG好きの方ならニヤリとする瞬間が次々と訪れます。「Time Will Tell」では、ピアノを使った哀愁漂うビートに乗せ、フックではスクリュー声をループ。トラップ的なドラムを用いた「Haribote」は勇壮なホーンを使い、Paul WallLil Flipが出てきそうな曲に仕上がっています。追悼曲の「R.I.P. DJ Sugar Show」もテキサスGマナーのメロウなビートで、やはりフックにスクリュー声をあしらっています。「Welcome 2 Riva Runz」は、テキサスGの数々の名盤で聴けるような大型マイクリレーです。5曲+スクリューとスーパータイトに絞った作品ですが、その細部まで宿るテキサス愛にオヤGの方はノックアウト必至です。


KILLANAMI「PALMETTO ~LO-FI CAMP BEATS~ VOL.01」

ヒップホップバンドのMeatersのメンバーで、レゲエのセレクターとしても活動する横浜のビートメイカー。

プレスリリースに制作方法やコンセプトが掲載されています。

Lo-Fiサウンドの肝となる様々なノイズに焚き火の音をサンプリングして表現。まさに“Lo-Fi Camp Beats”が完成した。11曲から構成されるビートテープは、シチェーションを選ばず耳に寄り添ってくれるだけでなく、キャンプ好きにはうってつけの一枚に。

「LO-FI CAMP BEATS」というタイトル通り、「キャンプ」「ローファイ」がキーになった作品のようです。しかし、今作にはいわゆるステレオタイプなローファイ・ヒップホップとは違う、レゲエ的なリズムの導入やエレクトロニックなシンセの使用といった多彩なアプローチが詰まっています。「シチュエーションを選ばず耳に寄り添ってくれる」という部分も重要なのです。

と言っても、よれたグルーヴやノスタルジックなメロディといったローファイ・ヒップホップ的な要素もしっかりと入っています。冒頭を飾る「INNA NATU」は暖かいギターを美しくループした一曲。「DOORS」ではメロウなエレピに繊細なドラムを合わせ、「MIDNIGHT PUFFY」はスムースかつクールな音像に仕上げています。こういった路線と、透明感のあるシンセを使った「SPIRIT MOVES」やドラムにレゲエの影響を感じる「TO DI MOON」のような異なる路線のバランスが今作の魅力です。

また、今作は曲順も素晴らしいです。前半はヒップホップ要素が目立ち、徐々に攻めた曲も織り交ぜて、気付くと出発点とは異なるものになっているような作りになっています。オープニングの「INNA NATU」から、ハイファイなシンセとダンスホール的なドラムが効いた「121」が自然な流れで一直線に繋がっています。アルバムを通しで聴いても収録曲をプレイリストに入れて聴いても楽しめる、まさに様々なシチュエーションに寄り添う見事な一枚です。

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