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2022年おすすめ国内新譜アルバムVol. 13: mtkn、Plain Jay、大石晴子

国内新譜アルバム紹介Vol. 13です。

今回紹介するのは、mtkn「Information」Plain Jay「Too Cold: The Collection」大石晴子「脈光」です。


mtkn「Information」

福岡のビートメイカー。

2010年代前半頃からSoulection周辺などがヒップホップやR&B、ハウスやジューク…など多彩な要素が混ざり合ったメロウでいてフロアライクなビートを進めていきましたが、福岡はそういったスタイルが盛んなイメージが私にはあります。yesterday once moreの面々やPEAVISKAISHIなど多くのアーティストが(意図的かは不明ですが)その文脈で語れそうな作品を残してきたためです。

mtknもまた、こういった福岡勢に通じるスタイルの持ち主です。今作はアメリカのヒップホップ/R&Bのアカペラに自身のビートを合わせたリミックス集で、そのハイブリッドな魅力を備えたビートが堪能できる好作に仕上がっています。

作品は暖かいギターをループした穏やかなソウル路線の「Ex-Factor」でスタート。しかし続く「Take a Shot」ではミニマルなシンセに現行トラップ系のダーティな808を絡め、「Smokin Out the Window」もメロウなトラップソウル系です。「Say My Name」は軽めのドラムが効いたネオソウル的な作風、「Apologize」はエレクトロニックなドラムンベース…と冒頭5曲でもカラフルなスタイルが詰まっています。その後もソウルフルなネタを用いたトラップの「From the Garden」やメロウなブーンバップの「Figaro」、UKガラージ風味の「On My Mind」など多彩な引き出しを披露。しかし、明らかに浮いている印象を受ける曲はなく、不思議と一定の美学を感じさせる作品となっています。

ベストトラックは甘酸っぱい歌をループしてトラップマナーに仕上げた「Make U Mine」。インストヒップホップっぽくも聴ける良曲です。なお、今作はリミックスする曲の選び方もユニークです。曲名がストレートなことも多いので、興味のある方は原曲を探してみてください。中にはかなり大胆な改変をしていることもあるので、聴き比べるとより楽しめると思います。


Plain Jay「Too Cold: The Collection」

仙台のラッパー。以前紹介した福島のラッパー、¥OUNG ARM¥ともたびたび共演しているアーティストです。

今作にも¥OUNG ARM¥「TENJIN」と同じく、福島のKaworuMFが何曲か参加しています。この周辺のアーティストは現行のアメリカのヒップホップからの影響を巧みに消化したスタイルが多い印象ですが、Plain Jayもやはりその流れで聴くことのできるラッパーです。

Plain Jayのラップスタイルは、オートチューンを使ったメロディアスかつ力強いもの。歌心のあるフロウですがソフトでポップな感触にはならず、Futureあたりに通じるストリート系ラッパー然とした雰囲気をキープするスタイルです。

今作はYoungBoy Never Broke Againタイプのエモーショナルなトラップを中心にしつつ、バウンシーな路線やシカゴドリル(!)なども取り入れた作品です。Plain Jayのラップはエモーショナルになりすぎない良さがあり、単なるストレートなYoungBoy Never Broke Again系とは異なる魅力に繋がっています。

冒頭を飾るChasing Starはシリアスなピアノループを使ったトラップ路線。2曲目「Too Cold」はKaworuMFプロデュースで、Kendrick Lamar「HUMBLE.」あたりに通じる跳ねるようなピアノを使った軽快な好曲です。「¥!!!」はレイジを不穏に作ったようなビートで、今作の中では少し変化球ですが自然に溶け込んでいます。「Loser」からはエモーショナルな路線が数曲続き、その歌心のあるラップスタイルが堪能できます。MVも作られた「Lost Boy」は今作のハイライトの一つです。

エモーショナルな曲が続いた後、終盤で登場するシカゴドリル風味の「Seaside Jay-Z」も素晴らしいです。同曲の高音シンセとジューク的なドラムが印象的なビートはKaworuMFプロデュース。ラップとも見事なコンビネーションを発揮しています。


大石晴子「脈光」

大阪生まれ神奈川育ちのシンガー。

ネオソウルは日本でも人気の高いスタイルです。D'angeloが2000年にリリースしたアルバム「Voodoo」は、cero高城晶平SuchmosOKHMVの名物企画「無人島 ~俺の10枚~」で選出するなど、所謂「ネオシティポップ」と呼ばれるアーティストからも愛されています。

そのほかにも星野源「喜劇」のリミックスをDJ Jazzy Jeff(とKaidi Tatham)に委ねるなど、国内アーティストは様々なアプローチでネオソウルからの影響をアウトプットしてきました。

大石晴子は、SENSAのインタビューでは「大学時代はソウルミュージックが好きだけれど、Aretha FranklinChaka Khanのようなパワフルなシンガーの楽曲を歌うのが難しくて、よくカバーしていたのがCorinne Bailey Raeです」と話しています。また、ANTENNAのインタビューでは今作の制作中によく聴いていた作品として、Creo Solが昨年リリースしたアルバム「Mother」を挙げています。Corinne Bailey RaeもCreo Solもネオソウル系のアーティストですが、今作にもやはりネオソウル的な要素が含まれています。

一曲目の「まつげ」は、包み込むようなシンセその中で主張するトランペットが印象的な曲。大石晴子の抑制の効いた歌声も素晴らしいです。「港に船」はピアノやドラムなどのジャジーな響きが効いたサウンドで、「手の届く」ではラッパーのRYUKIをフィーチャー。これらの曲で聴けるソウルとジャズ、ヒップホップが混ざり合ったスタイルは、ネオソウルの分脈で楽しめるものです。しかし、そんな中にも少し捻くれた要素が入っており、ストレートなネオソウルとは異なる魅力もあります。焼けるようなシンセ、弾けるようなドラム、Sam Gendel的な奇妙なサックス…などなど、異物感を拾うと多くのものが発見できます。優しい歌心と緻密な音作りが光る傑作。

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