Atomsphere「Talk Talk EP」全曲解説
ミネアポリスのヒップホップデュオ、AtmosphereのSlugのインタビューで質問作成と構成を担当しました。Rolling Stone JapanのWeb版に掲載されています。
Atmosphereは1990年代から活動するベテランで、ラッパーのSlugとプロデューサーのAntの二人組です。ブーンバップから出発しつつもロックやエレクトロニカなどにも接近するようなサウンドと、スキルフルなラップでアンダーグラウンドヒップホップファンの間で高い人気を集めています。
しかし、それだけではないデュオです。古いインタビューでSlugが自分たちの音楽を「エモラップ」と形容したことがあり、エモラップ以降にはその分野の先駆者としてメディアやリスナーの間で再注目を集めました。また、今年リリースしたアルバム「So Many Other Realities Exist Simultaneously」には、Migosのヒット曲「Bad and Boujee」などで知られるプロデューサーのG Koopが多くの曲で参加。単なるアンダーグラウンドヒップホップの人気者というだけではなく、メインストリームとも繋がるデュオなのです。インタビューでもG Koopの話題はもちろん、50 CentやNo Limit Records、8Ball & MJGなどの話題も出てきます。
そんなAtmosphereは、先述したアルバムに続いてEP「Talk Talk」を先日リリースしました。これは全曲1980年代のエレクトロを思わせるサウンドで統一されてたユニークな作品で、カラフルな最新アルバムとはまた異なる魅力です。そこで今回はこの作品を全曲解説します。
1. Wetter
ヴォコーダーも印象的な少し不穏な曲。
808のダーティな低音で牽引していく作りで、ドラムパターンこそ1980年代エレクトロ直系ですがトラップと近いものもあります。Slugのタイトなラップも見事。
2. Attachings
ミニマルなシンセをループした曲。
神秘的なウワモノとシンプルな808が目立つビートで、Slugがキレのあるラップを聴かせる曲です。時折入る高速ハイハットも絶妙。
ちょっとハイフィっぽくも聴ける曲。
ここでの分厚いシンセ(ベース)には西海岸的な響きがあります。インタビューでもAntがベイエリアで作業をしているエピソードが出てきましたが、その影響なのかもしれません。
スペイシーな響きのシンセを用いた曲。
フックではキックが四つ打ちに変化しますが、全体的にはタイトなヒップホップです。後半のインタールード的な部分でのミニマルなビートも派手すぎない良さ。
どこかスピリチュアルなムードの曲。
ドラムはかなりシンプルなパターンで、Slugの鋭いラップが映えています。ノイジーな声の処理も印象的。
6. Talk Talk (feat. Bat Flower)
アルバムにも収録済の曲。
ヴォコーダーも使った1980年代エレクトロの匂いが強い曲です。Bat Flowerのねっとりとした歌とキレのあるSlugの対照的なアプローチも楽しく聴けます。
7. Hear Hear (feat. Bat Flower)
「Talk Talk」と同じ組み合わせながら、こちらはリラックスした曲です。
神秘的でミニマルなシンセの使い方は、ちょっとラチェットっぽくも聴けます。しかしバウンシーすぎないところがそれとは違う魅力。
8. Hello Pete (feat. Buck 65 & Kool Keith)
ヴァース部分はほぼ808だけで聴かせるシンプルな曲。
1980年代エレクトロの影響が強いビートですが、トラップ好きの方も楽しめると思います。Kool Keithの存在感が強烈。
1980年代エレクトロ直系のスペイシーな曲。
シンセを多用しつつ、スクラッチなども取り入れた楽しい曲です。Slugの連呼フックもじわじわと効いてきます。
低速化した歌を用いた不穏な曲。
どこか妖しい響きのシンセとシンプルなドラムが効いたビートは、チープなようで深みがあります。SE的なシンセの使い方も見事。
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