2022年おすすめ国内新譜アルバムVol. 14: Erv100 & Cedar Law$、NIGO、T-GROOVE & GEORGE KANO EXPERIENCE
国内新譜アルバム紹介Vol. 14です。
今回紹介するのは、Erv100 & Cedar Law$「Elevated Stars 3」、NIGO「I Know NIGO!」、T-GROOVE & GEORGE KANO EXPERIENCE「Lady Champagne」です。
Erv100 & Cedar Law$「Elevated Stars 3」
ヴァージニアのラッパーと東京のビートメイカーのタッグ作。
このブログでもたびたび取り上げていますが、Cedar Law$はアメリカのラッパーの作品を多く手掛けているビートメイカーです。これまでにAll Hail Y.T.やHus Kingpinなどの作品に参加し、Boldy JamesやYoung Roddyなどもそのビートに乗ってラップしてきました。
今作のタイトルに「3」と入る通り、Erv100はCedar Law$とのタッグ作をこれまでにも2枚リリースしています。「2」は以前レビューも書きました。
Chamillionaireに少し似た低めの声質で滑りのあるラップを聴かせるErv100と、美しくメロウネスを備えたCedar Law$のビートはタッグ作のリリースが続いているのも頷ける相性の良さです。今作ではドラマティックな音作りも披露するなどさらにレベルアップしたようなCedar Law$のビートに、その名パートナーであるErv100のラップが絡む快作に仕上がっています。前作よりもさらに一歩進んだ印象です。
冒頭を飾る「Elevated Thoughts」から、その抜群のビート捌きが光ります。ヘヴィな電子ファンク仕立ての音使いでループ感控えめに仕上げたビートはインパクト大。Erv100はそこにクールにラップを乗せ、見事にヒップホップに引き寄せています。「Stand Tall 3」はシティポップ的な煌びやかさと切なさを備えた一曲。ブーンバップマナーの骨太なドラムをトラップ的な手数で打ったビートが強力です。「OG Wit Da OG」にはNo LimitやJet Lifeでの活動で知られるベテランラッパーのFiendをフィーチャー。ファンキーに唸るギターやメロウなエレピが効いたビートに、Fiendのダンディな低音ラップが華を添えた良曲です。以降も哀愁系の「Weed Smoke」や、例の高音シンセも飛び出す「Big Clouds」など佳曲が次々と登場。Jay Worthyあたりが好きな方にはたまらないであろう充実した作品です。
NIGO「I Know NIGO!」
デザイナーのNIGOによるリーダー作。Pharrell Williamsが共同エグゼクティブプロデューサーを務めています。以前Podcast「CATCH WHAT'S NEXT」でも取り上げました。
Pharrell Williamsは全11曲のうち6曲をプロデュース(うち一曲はThe Neptunesとして)。さらに冒頭のフリースタイルもの「Lost and Found Freestyle 2019」のビートの一つはThe Neptunes制作のSlim Thug「Like a Boss」です。同曲が収録されたSlim Thugのアルバム「Already Platinum」のレビューは以前書いています。
と、ここまで見るとかなりPharrell Williams色の強い作品のようですが、Pharrell Williamsが一人でコンピレーションやリーダー作を作ったらこうはならないようにも思います。例えばPharrell WilliamsといえばメロウなR&B路線も得意としていますが、今作にはそういったタイプのビートはありません。エレクトロニックで少し奇抜なビートが目立ち、今作にも参加しているTERIYAKI BOYZ作品に近いセンスが感じられます。
今作にはTyler, the CreatorやA$AP Rocky、The Clipseなど豪華な面々が多数参加しています。しかし一曲に複数のアーティストをフィーチャーして組み合わせるのではなく、一曲ごとの参加アーティストはかなり絞られています。これは同じ豪華面子を揃えるアーティストでもDJ KhaledやCalvin Harrisとは違う傾向で、NIGOならではのバランス感覚のように思います。パっと見の豪華さの割には、あくまで気の合う周辺のアーティストだけでまとめたような程良くラフな感触もあります。NIGOが何をしているのか一見わかりづらいようで、やはりNIGOが作り上げた作品なのです。
T-GROOVE & GEORGE KANO EXPERIENCE「Lady Champagne」
プロデューサーのT-GrooveとドラマーのGeorge Kanoを中心としたプロジェクト。
T-GrooveはユーロG好きの方にはお馴染みのレーベル、Diggy Down Recordzからのリリースもあるファンキーな名プロデューサーです。そのディスコやソウルへの愛が滲み出たスタイルは、同様の趣味を持つリスナーの方ならたまらないと思います。George KanoはJazztronikやMondo Grossoなどの作品に参加してきたドラマーで、昨年にはソロ作「Bataille」をリリースしています。同作はヒップホップやファンク、ジャズやハウスなど多彩なジャンルの要素が入った作品でした。
そんな二人が中心となったT-GROOVE & GEORGE KANO EXPERIENCEでの今作は、基本はT-Grooveらしいディスコ~ファンク系のサウンドですが、ビートメイカー的なセンスというよりミュージシャンの演奏で聴かせるような印象の作品です。インストだけではなくシンガーをフィーチャーした曲もありますが、そういった曲でも歌を軸にしないようなバランスになっています。
全10曲のどこを切ってもメロウ&ファンキーなサウンドが堪能できる充実した作品ですが、ハイライトを選ぶとしたら「Timeless Groove」と「Shallow Naked Love」を挙げます。「Timeless Groove」は女声シンガーのスウィートな歌声を添え、YUMA HARAが鬼メロウなギターを弾きまくる一曲。YUMA HARAは以前ブログでも取り上げましたが、この曲ではそのギターの魅力が見事に活きています。
「Shallow Naked Love」は男声シンガーが声ネタ的にシンプルなフレーズを乗せ、クールなサックスやピアノを引き立たせたような一曲。随所で入る語りもセクシーな魅力を生み出しています。中盤の音の抜きから徐々に盛り上がっていき、自然に山場に突入するような構成も楽しいです。
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