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2022年おすすめ国内新譜アルバムVol. 2: DJ Whitesmith & 6-SenS、lil beamz、7SEEDS & GREEN ASSASSIN DOLLAR

国内新譜アルバム紹介Vol. 2です。

今回紹介するのは、DJ Whitesmith & 6-SenS「Bathroom」lil beamz「LIL BEAMZ 3.0」7SEEDS & GREEN ASSASSIN DOLLAR「FLIP & DRAW」です。


DJ Whitesmith & 6-SenS「Bathroom」

DJ BAKURUMIなどの作品への参加でも知られるDJ Whitesmithと、DRS6-SenSによるスプリット作。DRSについては以前こちらで少し書きました。

DJ Whitesmithはこれまでの作品でブーンバップ系譜のヒップホップを軸にしつつ、エレクトロニカやトラップなど多彩な要素を取り入れたサウンドを聴かせてきました。生演奏も巧みに取り入れた繊細な感性も魅力です。対する6-SenSは、一人一人が異なる個性を放つDRSの中でも異彩を放つLAビート系をベースにした作風の持ち主です。昨年リリースされたaddginjahzzのアルバム「dept.」では奇妙なトラップやドラムレスブーンバップを披露し、さらなるアップデートを聴かせてくれました。

二人のスプリット作品は今回が2作目。二人は「ブーンバップ系譜のスタイルを根っこに持ちつつも、それだけに留まらない刺激的なビートを生み出す」という共通点があり、前作に引き続き今作にも統一された空気が通っています。

冒頭を飾る「Ocher Balcony」はDJ Whitesmith作。優しいギターの響きに芳醇なドラムを合わせた繊細なビートが泣きを誘います。続く「Into the Void」もDJ Whitesmithによるビートで、こちらも美しい歌声をサンプリングした優しいもの。その後の6-SenS制作の「Smiles Master」では、枯れたギターとエレピにトラップ流儀のドラム(とニヤリとさせられる声ネタ)を合わせたビートを聴かせ…と、今作は美しさが際立つビートが中心の作品です。

しかし、それでも基本的には尖った音作りを聴かせる二人です。その尖った音作りと美しさのバランスが見事なラスト3曲の流れは圧巻。特に6-SenSによる「King Size Bed」は、UKドリルからの影響を感じさせるドラムパターンとベースの動き方に切ないピアノが絡む、ユニークかつ繊細な仕上がりです。越境的なインストヒップホップを求めている方は是非。


lil beamz「LIL BEAMZ 3.0」

HLGB STUDIO周辺で活動する兵庫のラッパー、lil beamzによるソロ作。ユリイカで特集が組まれるなど近年大きな人気を集める、ハイパーポップの文脈にあるようなエッジーなビートを揃えた作品です。

lil beamzのラップスタイルはエモーショナルに歌うような、近年のアメリカのヒップホップからの流れを感じさせるもの。しかし明らかにアメリカのラッパーとは異なるメロディセンスを持っており、時折ボカロ作品を思わせるような瞬間もありそこがユニークなポイントです。それがその非ヒップホップ的なビート選びと相まって、アメリカのヒップホップとは異なる独自の魅力に繋がっています。

ギターとエレクトロニックなシンセが交差する一曲目の「gattan gottan」から、その異物感の漂うメロディを聞くことができます。続く「Vomited」は今作のベストトラック。ハウスっぽい音階でどこかキュートな味があるビートで歌い上げる同曲は、ハイパーポップに含まれるJ-POPの要素が先祖返りしたような強力なポップネスを備えています。その後四つ打ちでバキバキのシンセを鳴らすEDM風味の「Stay hydrated」、切ないギターで始まったと思ったらエグいシンセが鋭く切り込んでくる「Nagara」などが続き、ストレートなヒップホップとは異なるビートでそのユニークなラップが堪能できます。そんな中、時々Chief Keefのネームドロップも。

強力なメロディと尖ったビートの多い作品ですが、「Vomited」以外には「Speed!!」「Nichijo」あたりがハイライトとして挙げられます。前者は歪んだギターをハイパーポップ流儀に用いたアッパーなビートで、エモーショナルに歌い上げる一曲。dlztkunderscoresあたりとも共振する魅力があります。後者は切ないギターが目立つエモラップ系の曲で、エッジーな要素は控えめですがそのメロディセンスが沁みる好曲です。


7SEEDS & GREEN ASSASSIN DOLLAR「FLIP & DRAW」

現行国内ビートシーンのトップランナーの一人、GREEN ASSASSIN DOLLARがレーベルメイトの7SEEDSと組んだタッグ作。昨年GREEN ASSASSIN DOLLARがソロでリリースしたビートテープ「EAR WAX BEAT TAPE」については以前こちらの記事で紹介しました。

「EAR WAX BEATTAPE」は暖かい音像と多彩なアプローチが印象的な作品でしたが、今作でもそのムードは継続。しかし今作は前作よりもファットな魅力が強化されています。そこでキーとなるのが共同制作者の7SEEDSで、2019年にリリースされた7SEEDSのアルバム「SEEDSTAPE」ではドラムなどに近い感触を聞くことができます。今作は、両者のセンスがバランス良く合わさった結果この形になった作品と言えると思います。

幕開けの「Boom」からメロウなエレピと美しい声のサンプリング、そして太いドラムが合わさったビートを披露。シンプルなループの魔力とガツンと来るドラムの組み合わせで一気に持って行かれます。歌声やピアノを使った暖かい音像の「Flower Moon」などはループだけなら「EAR WAX BEATTAPE」にありそうな曲ですが、こういった曲でも強力なドラムが鳴っています。この太いドラムの鳴りが808も用いていた「EAR WAX BEATTAPE」とは異なる味を生んでおり、繊細さと力強さを併せ持った魅力に繋がっています。

声ネタをサンプリングした曲に良曲が多く、優しい歌声を用いた切ないR&B風味の「Thinkin'」やワンループの魅力で押し切るような「Fantasy」など素晴らしい曲が詰まっています。ベストトラックは「Tribe」。ヴォーカルを細かく切り刻んで太いドラムやベースを合わせたメインのビートも素晴らしいですが、終盤の壊れたような執拗なチョップの後に一気にメロウにスイッチする展開は鳥肌ものです。

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