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北欧式ウエルビーイング コペンハーゲン市での取り組み

自治体で健康増進や予防医療の政策、事業の話し合いをするとき、キーワードになっている言葉がいくつかあって、ウエルビーイングもその一つです。国、自治体などの共同体レベル、職場や学校などの組織レベル、個人レベル、取り組み方はいろいろな切り口で話すことができるのですが、今回は私の職場、コペンハーゲン市を1つの職場と見たときに、実践されている取り組みと、職員としての私の考えをレポートします。

ウエルビーイングとは何か。

WHO(世界保健機構)の2021年の定義によると、ウエルビーイングは「個人や社会によって、良好と経験される状態、日々の生活の資源であり、社会的、経済的、環境的要因に左右される」、とされています(Health promotion glossary of terms 2021)。デンマーク語では「trivsel」が一般的な訳。公衆保健エリアでは1940年代ぐらいから使われている古い概念で、日本WHO協会は、当時のWHO憲章に記述されたwell-beingを「すべてが満たされた状態」と訳しています。最近は日本でも健康経営の広がり、人々のメンタルヘルスの悪化の問題などで、一般的に使われるようになっており、その持つ意味も文脈によって広がりを増しています。心も体も両方の健康を含めた、包括的な健康概念であると共に、他人の尺度でなく、主観的に経験される状態であること、また、自分や社会のもつ可能性を十分に発揮できる、困難にも立ち向かえる状態であること、など病気、健康の領域を飛び越えて使われる概念です。

職員のエンゲージメントを高める職場での枠組み 

コペンハーゲン市では、現場の職員、中枢組織の職員にかかわらず、すべての局で無記名のアンケート方式で、隔年、ウエルビーイング調査が行われます。内容は1職員としての、職場に対する感じ方と評価。やる気、仕事内容、自己成長の機会、リーダーシップ、職場環境、同僚との関係など、10項目にわかれた31の質問に答えます。結果はレポートとなり、すべての職員に公開されます。結果のフォローアップは部署、局によって様々ですが、私の現在の部署では、以下の取り組み、枠組みがあります。

  • リーダ会議・結果はまず最初にリーダ-内で話し合われ、毎年、どのようなプロセスで結果を受け止め、改善策までつなげるか、職員と何をどのように話し合っていくかの過程が決定されます。

  • 全体会議・50人ほどの部署単位で結果について同僚と話しあいが行われます。無記名が原則なので、自分の回答を必ずしも同僚に明かす必要はないのですが、全体の結果をふまえて、自分たちの職場の強みや弱み、斬回との結果比較や改善したい領域、改善策を大まかに話し合います。今年は、7つの少人数のグループにわかれて45分ほどの話し合いとなり、その内容はリーダーも含めて全体で発表されました。

  • ウエルビーインググループ会議・部署には年間で職場のウエルビーイングにに取り組んでいるウエルビーインググループがあります。ウエルビーインググループは、職場の7つのチームからの代表1人づづとリーダーの代表2人で編成されています。ここでは、全体会議で発表された、改善したい項目や改善案をまとめ、どのように実施までもっていくか、具体的な計画が行われます。

  • チーム、課の定例会議・改善策はチーム内や課の定例会議で、もう一度話し合いが行われ、具体的に誰が何をしていくか、チームや個人の行動レベルにまでおとしていきます。

  • 福利厚生部署からのサポート 職場でのいじめ、ハラスメント、長期のストレスなど深刻で、急な解決を要する問題があった場合、上司や同僚を介することなく、個人で直接福祉厚生部門からのサポ—トを受けることもできます。無記名の調査ですが、このような傾向がレポートで明らかになった場合には、個人でもアクションを起こすことが、喚起、奨励されます。

私個人としての職場での魅力とエンゲージメント

私にとって魅力的な職場は何かを考えたとき、同僚や上司との信頼関係がなによりの基盤です。その上で今の仕事の魅力として感じているのは、

  • フレキシブルな労働環境が整っている

  • 学びの機会が整っている

  • 組織の意思決定に民主的な枠組みが整っている

の3つです。職場全体でのエンゲージメントを高める取り組みでも、取り組みや対策自体は上手くいかなかったり、重要な意思決定もすべてがボトムアップでされることはありません。でも、そういったことを後押しする枠組みや機会があると感じることはできます。健康経営でも、職員の身体的健康やそれをサポートすることだけにクローズアップするだけでなく、組織として、一人一人に自己決定の感覚がもてる枠組みがあることが重要な事項ではないかと思う今日この頃です。

文献出典
世界保健機構 2021 Health Promotion Glossary of Terms 2021 (who.int)

写真出典 Thomas Rausing "Arkitekturhovedstad"




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