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マコなり社長・Divの決算公告に学ぶ<ベンチャーの赤字はOKなのか?>

こんにちは。うちぃです。

今日はTwitterにおいてRTなどでたくさん目にしたマコなり社長がCEOを務める株式会社Divの決算に関する議論(株式会社Div・CFO石原さんと山本一郎さん)に関する個人的な感想と、ビジネスマンとして「株式会社Divの決算公告」をどう読み解いていくのかを書きたいと思います。

Divの第8期決算公告(下図)に関するネガティブな意見で一番大きいものは
「利益剰余金のマイナスが約5億もあるとか赤字経営で大丈夫?」
というものであり、それに対する反論として
「ベンチャー企業が創業期に赤字なのは当たり前(Amazonなど)」
というのもよく述べられていました。


私の結論から先に申し上げれば、
「経営の状態が健全か不健全かについて判断する材料として、貸借対照表の情報だけでは著しく不足おり、これだけで『この会社は潰れる』とか『会社の経営状況が危ない』などというのは無理がある」
ということなのですが、
『情報が足りないから判断不能!以上!』
というのは会計の専門家としてあまりにもいい加減なコメントなので、少し深掘りをしたいと思います。

深掘りの対象は争点となっている「赤字」についてです。
赤字には問題のある赤字(経営戦略の失敗によるもの)・問題のない赤字(=企業戦略上発生が企図されたもの)があると考えており、この点について述べていきます。

自分がベンチャーキャピタル(VC)の投資判断の責任者だったらどう考えるか?

①どのような追加資料があれば会社の経営状況に係る判断ができるのか
②どのような赤字の場合に経営状況は危険であり、逆にどういう場合に積極的に投資をすべきと判断できるのか

(なお、株式会社Divは非上場の非公開会社のはずですので、第三者が追加情報の開示を要求することはできませんし、あくまでケーススタディとしてお考えください。)

[1] 貸借対照表から得られる情報はほんの一部しかない

公告されている貸借対照表(要旨)は決算日時点の会社の財務状態を示すものですが、詳細な勘定科目や増減理由まではわかりません。(=一時点のストックの情報を示すのが貸借対照表)

まずわかることは2019年12月31日における以下の情報です。
・総資産が約22億ある
・その資産は約18億の負債と4億の資本により賄われていること
・約5億円の累積赤字が含まれること

一方で分からないこともあります。
・流動資産の内容(現金なのか、未収入金なのか)
・固定資産の内容(敷金なのか、備品なのか)
・負債の内容(未払金なのか、前受金なのか、銀行ローンなのか)
・赤字の内容(いつ、どのような理由で生じたものか)
・会社の損益状況(売上、原価、利益率、広告宣伝費はどれくらいか)

企業の経営状況を判断する上で重要な情報は太字で示した損益に関する情報です。
そのためにまずは損益計算書を確認し、売上高・売上原価・販売費及び管理費・営業外損益などに関する情報を得る必要があります。

では損益計算書が入手できたとして、何を確認する必要があるのでしょうか?

[2] 健全な赤字とは何か?

そもそも「ベンチャー企業の(創業期の)赤字は当たり前」と言われるのは一体どうしてなのでしょうか?

ベンチャー企業の例示として挙げられやすいTech系ベンチャー企業の創業初期の支出は「ソフトウェアの開発費」と「商品に関する公告宣伝費」が大部分を占めます。

一部の研究開発費については資産計上が可能とは言え、支出のほとんどが費用で処理されることから、創業初期は「売上がほとんど立たないのに費用ばかりが発生して赤字になる」一方で、「一度事業がスケールしてしまえば売上に対して追加の原価がほとんどかからない高い利益率のビジネスモデルを構築できる」ことから、多額の赤字を出し続けることも許容されます。

しかしながら、株式会社Divが現在提供しているサービスの属性はTech系ベンチャー企業ではなく、Tech系を商材とする教育事業です。

教室を増やせばその分の家賃・人件費等が発生し利益率は一定にとどまることから「一度事業がスケールしてしまえば売上に対して追加の原価がほとんどかからない高い利益率のビジネスモデルを構築できる」という点は当てはまりません。

その場合においても「ベンチャー企業なのだから赤字は許容される」という主張が成り立つのかという点について、私は、

「①広告宣伝費を主要因とする赤字」
「②教材開発費用の赤字」「③教室の稼働率が安定稼働率に届かないことによる固定費負担の赤字」

であれば問題ない赤字と考えます。

- 問題のない赤字①多額の広告宣伝費の赤字

株式会社DivはTECH CAMP(テックキャンプ)と呼ばれるプログラミングスクールを運営していますが、プログラミングスクール自体まだ日本での歴史は長くないと思います。

いわば「プログラミングスクールといえば〇〇○」という立ち位置のスクールが存在しない中で、近年のプログラミングに対する教育的な側面での注目の高まりや市場経済自体がテクノロジーを中心に回り始めていることを受けて今後益々の市場規模の拡大が見込めることから、多額の費用をかけてでも早急にビッグシェアを取りに行く必要性は非常に高いものと考えられます。

ベンチャー企業の戦略において創業初期のブルーオーシャンな状況においてマーケットシェアを取ることは非常に重要で、利益よりも売上高が重視されることも多いです。

なぜならひとたびマーケットリーダーになることができれば市場内競争で圧倒的に優位な立場に立つことできますし、市場規模成長の恩恵も一番に受けることが可能となります。

ただし、投入した資本(広告宣伝費)に対するリターン(売上高成長率)の測定は必要となります。
広告宣伝費が赤字の主要因の場合、売上高の成長率は前年度比140%〜200%程度(広告宣伝費の赤字幅による)は求められるのではないでしょうか。

十分な売上成長に繋がっていない広告宣伝費はNGな赤字となります

- 問題のない赤字②教材開発費用の赤字

教材開発はソフトウェア開発と性質が類似するものであり、事業初期において良質な教材を開発することは今後の売上高成長及び利益率向上に重要な要因なので、一過性の開発費による赤字であれば問題ないでしょう。

- 問題のない赤字③教室稼働率が安定稼働率に届かないことによる固定費負担の赤字

不動産投資と似た事業収益性の測定の仕方となりますが、安定稼働時の収益性に基づいてビジネスモデルの良し悪しを判断する必要があります。

例えば2019年までの赤字の背景に「教室を開校して年月が浅く、講座の稼働率が50%など低調だった」という事由がある場合、長期的な目線で教室の稼働率が安定稼働率(例えば80%)に達することができる十分な見通しがあれば、赤字は安定稼働までの一過性のものとして許容できると思います。

なぜこのようなことが起きるかというと、①でマーケットシェアの重要性を述べたとおり、VCの投資資金を活用してマーケットシェアを獲得するために教室開設を優先することは成長戦略として十分に考えられるからです。

通学型の教室の場合、潜在顧客が通学可能な場所に教室がないとせっかく広告宣伝費の結果として興味を持った潜在顧客がいても他のプログラミングスクールに流れてしまう可能性があるためです。

当然、埋まる予定がない教室の開校は単なる固定費増加ですので、
「安定稼働時にしっかり利益が出るビジネスモデルとなっているか(売上・変動費・固定費の内訳)」
「安定稼働に到達する見通し(安定稼働率、期間)に無理はないか」
が重要な判断要素になります。

これらの根拠がない場合には赤字が長期にわたり継続する可能性があることからNGな赤字となります。

- 最もNGな赤字とは

教室が安定稼働状態であっても売上高に対して直接の売上原価(変動費+固定費)が上回ってしまっている場合には、構造的な赤字(ビジネスモデルの欠陥)となりますので、早期に解消する必要があります。

事業を拡大しても赤字は広がるばかりですので一番最悪のケースです。

[3] 総括

前述の通り、ひとえに赤字と言ってもその理由を確認しなければ「問題のない赤字なのか問題のある赤字なのか判断できない」ので、赤字の理由まで考えを巡らせることが必要ではないでしょうか。

株式会社Divに投資を決めたVCは上記のような分析は当然のこととして、以下のような分析も経営者とのディスカッションを通じて確認していると思います。

>>プログラミングスクール市場に関する詳細な分析
→市場規模はどれくらいか
→市場成長率はどれくらいか
→投資によりどの程度のマーケットシェア獲得が可能か etc.

>>株式会社Divの商品に対する分析
→競合プログラミングスクールに対する競争優位性は何か
→価格競争による収益性の低下は起きないか etc.

今後、株式会社DivがIPOを迎えることがあれば一般投資家にも情報開示がなされるでしょうし、その際に魅力的な投資先かどうかについて上記のような観点で考えていくといいのではないでしょうか。

お読みいただきありがとうございました。

うちぃ。

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