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40年ぶりにトラウマ克服「アイーダ」

2023/4/4 新国立劇場 オペラ「アイーダ」観劇。

ワインとオペラのトラウマ

誰しも少年少女時代に「トラウマ」と呼べるようなイヤな思い出があると思います。私の場合、それはワインとオペラでした。
ワインはすでに克服しましたが、今夜はやっとオペラも克服しました。これからお祝いに一杯やります。

あれは小学生のとき。
大人たちがうまそうに飲むワインに欲望を抑えきれず、夜中にこっそり盗み飲みしました。赤玉パンチとかいう甘ったるいやつです。口に含んだ瞬間、あまりのまずさに吐き出しました。こんなものを「うまい」と飲む大人はバカじゃないかと思いました。コーヒー牛乳のほうが100倍おいしい。以来私はワイン嫌いになりました。ワイン嫌いは30歳を過ぎるまで続きました。

もうひとつがオペラです。
上京して以来、オペラに行くのが夢でした。なぜなのかはわかりませんが、とにかく大学生の私は「大人の証はオペラ」だと信じていました。日雇いのアルバイト(引っ越しの手伝い)で金を稼ぎ、念願のチケットをゲット。それが忘れもしない人生初のオペラ「アイーダ」。
1時間前には会場に到着、ドキドキしながら開演を待ちます。会場にいる全員がお金持ちに見えました。問題は隣に座った女性の香水がきつすぎること。「これがオペラの洗礼か」とずっと我慢しましたが、あれは本当につらかった。そしてアイーダは「エジプトの物語」としか理解できませんでした。当時は字幕がなかったか、あるいは近眼で見えなかったのだと思います。
かくして私のオペラ初体験は「つまらないし、くさい」という記憶だけで終わりました。それ以降、2度とオペラに行かなかったことはいうまでもありません。

とうとうトラウマ脱出

何の因果か最近こちら方面で仕事することになり、とうとうこの日がやってきました。それが今日の新国立劇場「アイーダ」です。
身構えて座りましたが今日は香水のニオイがしません。それだけで一安心。

18時の開演で休憩3回をはさんで4幕。終演は22時を超えます。せっかちな私がこの長時間に耐えられるかも心配でしたが、結論からいえばまったく大丈夫。めっちゃおもしろかった。

「アイーダって、こんな物語だったんだ」

とストーリーの単純さにあっけにとられました。もっと哲学的で複雑なストーリーかと思っていたのに・・・。

途中で知っている曲が流れたと思ったら、「サッカーのテーマソング」じゃありませんか。サッカーはボールを取り合いますが、アイーダでは女性2人が男を取り合います。
「男の取り合い」という韓国ドラマ的な恋愛話を「荘厳な国家レベルの歴史劇」にしたのがアイーダ。
エジプトを舞台にしたド派手なセットと服装。そこまでは理解するとして、見ながら少々疑問だったのが

「ストーリーがあまりに荒唐無稽すぎないか?」

ということ。敵国エチオピアの王女が奴隷になってエジプト王女に仕えるなど、いくらなんでもというかんじ。これに比べればNHK朝ドラの舞ちゃんがパイロットをやめて実家の工場を継ぐなんてなんともありません。墓に入れられたらアイーダがいた・・・って、エジプト王室のセキュリティーが心配です。

と、ケチをつければきりがないですが、このオペラは”初心者”の私にも十分楽しめました。今回は字幕もありましたし。とうとうオペラのトラウマを脱け出した爽快な気分です。

スエズ運河開通とアイーダ

しかしながら、帰り道の電車の中でどうしても気になったのが「なぜ舞台がエジプトなのか?」ということです。有名作曲家ヴェルディがわざわざエジプトを選んだのは何か理由があるにちがいない。
初演年度を調べたところアイーダの初演は1871年でした。この年に何か意味があるのだろうか、、、としばし考えた末、「あっ」と思い当たりました。

「スエズ運河開通の直後だ!」

地中海と紅海をぶち抜いてヨーロッパとアジアをショートカットしたスエズ運河の開通は1869年です。
頭の中ですべてがつながりました。おそらく当時のエジプト政府としてはスエズ運河開通を祝う「一大キャンペーン」をやりたかったんでしょう。それで当時人気のヴェルディに依頼した。お祭り的企画だからすべてにおいて「大げさ」なんですね。ヴェルディはこのあたりの事情をよく理解した上で相場の3倍見当のギャラを「ふっかけた」みたいです(お祭り価格)。

運河の主役、船を使えばヨーロッパから大がかりな舞台装置を運ぶことができます。しかもエジプト終演後、セットを持ち帰ってヨーロッパ各地でツアーを組むことができます。このようなワールドツアーが予定されていたのなら、政治色・宗教色の薄い「恋愛ドラマ」を軸に軸に脚本をつくったのこともうなづけます。なるほど、なるほど。

何度かオペラを見るうち、演出家がとても重要な役割であることがわかってきました。今回のアイーダを手掛けたのはフランコ・ゼッフィレッリ氏。残念ならがすでに亡くなっていますが彼は舞台とテレビのいずれも手掛けています。彼の映画「ロミオとジュリエット」はかの三島由紀夫も高く評価し・・・とだんだん沼にハマりかけているトラウマ脱出劇。

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