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「散歩、日傘さす女」-極上の「何気ない」を永遠に-

心地よい風が部屋を通り抜ける。
朝一番に淹れたコーヒーは熱をマグカップは帯びていて、女神の吐息のような生暖かい風を気持ち良さそうに一心に感じている。窓から外を見ると、カンカン照りの太陽がその有り余った元気をこれでもかと草木に投げうっている。元気をもらった草木は鮮やかな新緑を彩り、その木陰には小鳥たちが避難するかのように休んでいる。眩いばかりの朝日、その光を受け色づく草木、澄み渡る空、さえずる小鳥、その全てが呼応し初夏の訪れを伝えてくれる。

今日の最高気温は30度らしい、

ふと我に返る。

「この時期なにしてたっけ?」
心の声が思わず表に出てしまった。

残冬から春をすっ飛ばしていきなり初夏が訪れたみたいだ。いつもならこの頃は、、、
と過去の自分に思いを巡らせてみた。

人でごった返す祇園祭、せつなさと期待が入り交じった鴨川沿いを歩く夜、缶ビール片手に手持ち花火ではしゃぎ回った日、

その全てのシーンが朧気ながら、だけど鮮明に脳裏に焼き付いている。

クロード・モネは、そんなかけがえの無い瞬間を「風景」として永遠に残そうとした。

1875年「散歩、日傘をさす女」

モネが自身の妻カミーユと息子ジャンとパリ郊外の戸外へ赴いた際に描いた作品だ。

青く澄み渡った晴天のなか日傘をさすカミーユが風になびかれながらモネに視線を落としている。そしてその後方に息子ジャンが佇んでいる。日傘の影でカミーユの表情は判然とせず、大陽と風を背中で感じ前方に伸びた彼女の影は草木の緑とコントラストをなしている。広がる空と浮かぶ雲、のびのびも靡く草花、後方で父を待つ息子、そして妻カミーユ。その全てが1つの「風景」として、爽やかな風と初夏の匂いを僕たちに届けてくれる。

何気ない日常が極上なんだと言わんばかりの最愛の妻と息子との幸せな日々。


モネは光と影の中の幸福をその瞬間を、いつまでも永遠に「風景」に留めた。


何気ない日々が「何気なくない」日々になったとき、
未亡人が亡くした夫を愛惜するかのように、元の日々を惜しむ。

友人の笑いながら酌を交し、大切な人と寄り添い過ごす。そんな極上の「何気ない」を、その「瞬間」を風景にして初夏の匂いを感じたい。


#クロードモネ #日傘をさす女 #印象派 #芸術 #アート

最後まで読んでいただきありがとうございます!! 東海道中膝栗毛の膝栗毛って「徒歩で旅する」って意味らしいですよ