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日記:一本のマッチをめぐる争い

 私の両親は喫煙者だ。特に母親がよく煙草を吸う。

 母は必ず外に出て煙草を吸うため、玄関のシューズボックスの上には鍵を置くケースの他に、吸い殻がこんもり溜まっている灰皿と、安っぽいガスライターが何本か入っている小物入れが雑に置かれていた。

 その小物入れの中に、一箱のマッチが入っていた。

 理科の実験で何度かマッチに火をつけたことがあったが、それでも人生で10回もマッチなんて擦ったことのない私だ。私はそれで無性に火をつけたくなった。

 小物入れにはまだ使えそうなライターが何本か入っているため、おそらくマッチを自分の部屋に持っていってもいいのではないか。
 マッチ箱を開けると、まだ数えるのが面倒くさいくらいにはマッチが入っていた。それを確認した私はよっしゃと思い、そのマッチ箱を自分の部屋に持っていった。

 別に自分の部屋にそれを持っていったところで、何になるというわけではなかった。ただ、私は数少ないマッチを擦ったときの、あのなんとも言えない快感を味わいたかった。

 さっそく箱からマッチを一本取り出し、箱側面のヤスリにマッチを擦り当てる。
、、、。
 全く火がつかない。

 へ、こんなもんだっけ。

 私はその後も何度かマッチをヤスリに擦り当てた。色んな角度で棒をヤスリに当ててみたし、いろんな強さでも試した。
 しかし一向にマッチに火がつくことはない。

 何度かマッチをヤスリに当てていると、今度はヤスリのほうがツルツルになっているのがわかった。
 まてまてまて、、、、私はまだ火をつけてないぞ?

 私は焦った。一体、何に焦っているのか。わからぬ。しかし私が焦っているという現状と、火がつかないマッチ、ツルツルになった側面だけがその場にあるものとしてあるのだった。

 とうとうイライラもピークに達する頃、それなりに強い力でチッとマッチを擦った時、じゅぼっという音を立ててマッチ棒に火がついた。

 やった、ついた。そう思ったのもつかの間、部屋の中でマッチをつけることしか考えていなかった私は、いきなりついてしまったこの火をどうしたら良いかわからず、すぐさまフッと息を吹きかけて消してしまった。

、、、あ。やっちった。
 ほとんど反射だった。

私の十数分を返してほしいヨ。

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