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プリント学習以外の「知育」

知育というと、プリントやパズルを小さい子にたくさん解かせているイメージを持つ。こういった机に向かう取り組みは、程度にもよるがもちろん大切だと思う。文字の読み書き、数字の操作は、あらゆる知的作業の基本であり、これを早く処理することは、すべての学力の基礎だからだ。

これから、どんなにテクノロジーが進化しても、メールや文章で仕事の確認をし、数字を読み解いて今後の予測を立てる動作は、決してなくならないだろう。文字や数字という記号を、意味のあるものに変換する能力は、鍛えておいて損はない。

ただ一方で、こうしたプリント学習を大量にしても、小学校高学年以降で伸び悩むケースもあると感じている。私の知人にも、公文などで先取りしていたが失速した人を何人か知っているが、共通項としては一人っ子が多く、勉強法として丸暗記を好み、思考問題が苦手な傾向があった。

この記事では、私が周囲の難関大出身者などと話して感じたことや、教育関係者の著書を元に、特に未就学児で心がけたい「知育」について述べる

五感を刺激する

思考回路というのは、脳の神経のつながり方である。神経は刺激を受けると、お互いにつながり合っていく。つまり、多種多様な環境刺激は、様々な脳のシナプスをつなげ、神経回路はより複雑なものにしていく。そして、脳の神経回路が作られることは、柔軟な思考を可能にする。

心理学で有名な実験がある。一方のマウスには、複雑なおもちゃや、回し車を与え、豊かな環境の中て飼う。そして、もう一方はおもちゃを与えず、単純な環境で飼うのだ。

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両者を比較すると、豊かな環境で育てたマウスは、学習能力が高く、脳を顕微鏡で観察すると、複雑な神経ネットワークが形成されていたという。迷路を解くなどの学習能力も高かったという。

3人の息子さんを名門スタンフォード大学に入れ、自身も教育学で博士号を持つ歌手のアグネス・チャンさんもこう述べている。

シナプスの数が多いほど優れた脳になります。シナプスの爆発的増加は3歳頃まで続き、この段階で脳の8割が完成すると言われています。ですから、この時期にできるだけシナプスの数を増やしておくことが重要です。シナプスを増やすには、五感を伴う刺激が必要です。(中略)毎日同じことではなくて、「新しい」刺激を与えるのがポイントです。新しい刺激を受けたところに、新しいシナプスが生まれます。これまでにない、視覚、味覚、聴覚、嗅覚、触覚を与えられないか、チャレンジしましょう。

アグネスさんは、料理の味付けを変えたり、食べる場所を変えたり、夜に散歩に出たりして、とにかく新しい刺激を与えることを重視したそうだ。

私も保育園の帰り道を変えたり、切る前の野菜に触れさせたり、匂いを嗅がせてみたりと、日常の中で少しずつ工夫をしている。「五感を使うこと」は、次に述べる「運動」とともに、幼児期の子育てでもっとも重視していると言って過言ではない

運動をする

以下の記事に書いたが、運動自体が記憶力を高め、脳の各部位の活動をバランス良いものにする効果がある。

ポイントは、体を動かす取り組みを続ける事である。競争に勝つ事ではない。乳幼児でも、①できるだけ歩くことに付き合う。②ジャングルジム等の遊具を家に置く。③鉄棒にぶら下がったり、手足を引っ張ったりマッサージをしたり、色々な動きや姿勢にチャレンジしてみる。などといった工夫ができる。

物を見て、感想を言い合う

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この写真について、あなたは、どう思っただろうか?これは我が家の近所で、放置されたブロッコリーである。この光景を見ながら、例えば次のような声かけができる。

「ブロッコリー、黄色い花が咲いているよ。たくさん枝分かれしているけど、菜の花みたいだね。」「ブロッコリーの葉っぱって、キャベツみたい。」「なんで全部とらずに放置されているのかな?看板もあるし、教育のためにあえて残しているのかもよ?」

次に名門私立中(聖光学院)の理科の問題を見てみよう。

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「ブロッコリーは花と茎の部分を食べる」という知識を教科書だけで丸暗記するのではなく、「公園で見たブロッコリーの花」や「キャベツのような葉」といった周辺の記憶があると、この知識が定着しやすい。テキストで習っていなくても、こうした記憶をたよりに推定することもできる

実際に見た体験だけでなく、テレビ番組の内容について話すのもいいだろう。リビングに図鑑や地図を置き、例えば、テレビに出ていたライオンが暮らすアフリカの国の位置や、戦争が起きている国を地図で確認したりするのである。

生き物を飼ったり、季節の花を飾って、話題にするのもいい。こうした工夫は小川大介さんの著書で触れられているが、子供が理科や社会に興味を持つ上でも大事なことだと思っている。

また、大切なのは親自身も、こうした取り組みを一緒に楽しむことだ。意欲的に楽しく学習することを子供に望むのであれば、親のあなたもそのように日常に取り組んでいるだろうか?

遊びの中で自然に学習する

最近、一歳の息子に以下のような積み木を買い与えた。

まだ、ひらがなの読み書きには早い年齢だが、なんとなく「見覚えのある」状態にしたいと思っている。積み木は普通に積んで遊んだり、付属の五十音表の文字に沿って並べたり、絵をみて語りかけのきっかけにすることができる。こうした遊びを通じて文字の形を目に入れることは、全く見たことのない状態から学習をスタートするのよりも覚えが早い。

他にも、カルタでことわざを覚える、百人一首で古文のリズムに慣れる、ブロック遊びで図形に慣れる、トランプ遊びで数字を覚えるといったことも、遊びが自然に勉強になる一例である。

(ただし、遊びを通じて学んでほしいという下心は隠そう。)

プリント学習はほどほどに

幼児期にプリント学習ばかりを、ガリガリとする勉強は2つの理由からおすすめできない。

理由の1つとして、プリント学習は、頭の一部を酷使しているが、全体的な脳の刺激にならないからだ。複雑な刺激が脳の神経ネットワークを形成する、という観点からはおすすめできない。また、リアル体験が乏しいと、物事の記憶や判断のとっかかりができにくい。

(ただ、単純に漫然とリアル体験をするだけでも不十分で、会話に取り上げる事で、言葉を使って抽象化して考えたり、重要なポイントに注意を向ける努力があるとよりよいだろう。)

2つ目の理由として、プリントができることを過剰に評価すると、子供の精神的な意味でよくない部分があるからである。テストの点を高くとると喜ばれることは、子供ながら感じ取る。プリント学習が苦手でも、社会で生きる道はたくさんあるが、その事だけで自信をなくしたり、逆に成績を鼻にかけてプライドばかり高くなるなど、人格のバランスを欠いてしまうのは避けなければならない。

おわりに

頭を良くするために、心がけている取り組みについてまとめた。

が、これよりももっと大事にしなければならないものがある。それは親の愛情、家族の信頼関係、バランスの良い食事、良質な睡眠といった心身の健康に大切なものだ。その上で、以上に述べたことを心がけるようにしたい。

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