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残す本、手放す本

大寒|鶏始乳
令和6年2月2日

本を整理した。

昨年の秋に引っ越して以来、本棚からあふれて山積みになっていた本たちを、そろそろ片付けないとな、と思い立ち重い腰を上げた。

実家でも3〜4割くらいの本を処分してこの一人暮らしの部屋に持ってきたのだが、それでも用意した棚には収まらなかった。棚を増設するつもりで床に平置きしていたものの、家具家電は増える一方。とうとうオイルストーブも注文したので、もう棚を増やすスペースは無さそうだった。ここらがいいタイミングかもしれない。

持っている本をひととおり眺めてみる。厳選の上持ってきた本たちなので、直ちに手放してもいいや、となる本は一つもなかった。困った。

改めて、どういった理由で手元に置いているのか考えてみる。

最近買った、まだ開いていない新品の本。これはもちろん残しておく。
最後まで充実感を持って読み切り、また読み返したり誰かにオススメしたい本。手放すことを想像すると寂しく悲しくなる。無理に手放す必要はない気がする。スぺースが広くなるメリットより、失うものの方が大きそうだ。
少しだけ読んだがまた興味が湧くかもしれないと、念のため置いてある本。これは手放してもいい気がする。存在を忘れていたくらいだから、あってもなくても同じだろう。また興味が湧いたら買い直せばいい。
昔憧れていたが今や関心が薄れてきてしまった、建築デザインにまつわる本。これは、手放そう。

大学時代や20代半ばごろまでは、建築デザインやそれにまつわる職に就きたいと悪戦苦闘していた時期だった。断続的に熱が昂ぶって買い込んだ建築雑誌や高名な建築家の本が、今でも本棚に並んでいた。強烈な憧れこそあったけれど、無心になれるほどの関心はなかったのかもしれない。買ったことに満足し、ほとんどが冒頭を読んだだけで終わっていた。

若かりし頃の憧れから始まった将来構想は数年前に描きなおし、いまや平行世界の出来事となった。建築デザインの本を手に取っても昔のような憧れや昂ぶり、焦りや忌避感といった複雑な感情はなくなり、単に面白そうだなというさっぱりした感情(と、昔を懐かしむ少しばかりの甘酸っぱい気持ち)のみが湧いてくる。特別な意味を持っていた建築デザインの本たちは、少しだけ読んで置いておいた他の本たちと、さほど変わらないものになっていた。

…いや、他の本と変わらないというのは少し言い切りすぎたかもしれない。手放すことを考えると、少し後ろ髪を引かれる思いがする。それに、やはり関心の強い領域であることには変わりない。

思考は煮え切らないが、結論は出ていた。一旦、手放しておくべきなのかもしれない。

本棚はその持ち主の興味関心、思考や価値観を表す鏡のようなものだと考えている。並べられた本のラインナップは時たまの整理によって、あるものは残され、あるものは手放され、現在の自分の構成要素と同期していく。

本を減らして部屋を広くする意味以上に、本棚の本たちを今の自分と同期したラインナップに更新しておきたかった。平行世界に行ってしまった自分を懐かしむのではなく、これから出会うこの世界線の興味関心をもっと深堀りたい。その余白を持たせておきたかった。

頑張っていた自分にねぎらいの気持ちを手向けながら、建築デザインの本を何冊か、本棚からそっと引き抜いた。

-S.O.


鶏始乳

ニワトリハジメテトヤニツク
大寒・末候

大寒生まれの私。クリスマス・正月・誕生日と三大楽しい年間行事がひと月の間にやってくるので、目まぐるしくもとっても楽しい。だからなのか、昔から冬が好きです。

明後日からの立春が少しだけさみしい。早く来ないかなあ、今年の年末。


参考文献

なし

カバー写真:2024年1月8日 大好きな絵本作家の絵本を買った。今年のクリスマスが待ち遠しい。


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残す本、手放す本
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