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散文『都市は霧雨の中』

待合室の中、どこかの誰かがボランティアで作った座布団に座る。空は曇天。雨がザーッと降っては、止む。
電車に遅れると走った自分にまだ生きる気があるのだと感じた。別に1本電車を逃したところで、怒られることなどないというのに。急な疾走のせいで、足だけでなく肩もガタガタしてきた。運動不足の日々を悪いとは思わない。ただ。ただ、心にふわふわとした、けれど質量のある何かが舞い降りたように感じる。それは黒ではなく、白でもない。
自分は死ねないことを知っている。不死身とかではなく、自分で命を止めることが出来るような果敢な人間ではないらしい。小学生の頃に気づいてしまった。あの時、確信してしまったせいで、私は痛みから逃げる方法を見つけられないでいる。
足の先から冷えが来る。首から、頭から、指先から、目から、背中から、舌から。
誰もいなかった待合室に人が来る。白い髭を蓄えた老人。そこまで伸ばせる信念に憧れた。スマホなんかを見ることも無く、じっと前を見ている。もしかしたら、神様の使者かも。あぁ、そんな人もしっかりマスクをしてるんだね。

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