見出し画像

ブラッド・ピットの映画人生を紐ときながら、改めて幻の主演作『リック』の重要性に気付いた

つい先日、Safari Onlineにてブラッド・ピットの映画人生にまつわる記事を執筆した。主演作『ブレット・トレイン』はすでに劇場での上映が終盤を迎えている頃だし、いささかタイミングを逃してしまったことは否めないが、しかしいざ彼の人生と向き合うと、興味が止まらなくなってしまった。

ブラピの映画人生は面白い。そして彼の出演作はもっと面白い。何が面白いかって、彼自身、決して自信満々で演じているわけではなく、常に「これでいいのか?」という迷いや不安や葛藤を抱えながら、そのブレのようなものの狭間に多様な動きや表情を差し込みながらキャラクターを形作っているように思えるから。それゆえ彼は作品ごとに大きく変容し、常に進化し続ける。だから面白い。

執筆にあたって、だいぶ記憶が抜け落ちている部分も多かったので改めて20本以上の作品を見直してみた。その中には、今だからこそ妙に腑に落ちる感慨をもたらしてくれるものもあった。代表格が『リック』だ。88年にブラピが初主演した幻の作品。なぜ幻なのかはここで説明すると長くなるので記事をご参照いただきたい。

この作品はユーゴスラビアで撮影された合作映画だ。彼の作品歴がメタモルフォーゼの連続だとするなら、この『リック』はまさにその原点にふさわしい。というのも、彼は本作で真っ黒な衣装で足元から顔までスッポリと身を包み、そのサナギ姿から這い出るようにして中盤付近で素顔を初めて世に晒すのである。

僕が大学生の頃だった90年代の終わりに、この『リック』が撮影から10年越しにようやく劇場公開を迎え、当時、映画館でやたら感動的で甘ったるいキャッチコピーがついた予告編が流れていたのを思い出す(確か、「泣かないで、僕は君の中で永遠に生き続けるから・・・」とかだったような)。聞くところによると、アメリカで本作はビデオスルーになっているそうで、日本は劇場公開された数少ない国の一つということになる。

作品の内容的にはちょっとアレなところもある作品だし、メリハリもない。しかし限られた命の中で懸命に生きようとするブラピが、その後、映画俳優として多種多様なキャラクターの人生を生き続けることになるなんて、本当に示唆的だし、予言的だし、運命的とも言える一作だ。まだ観たことがない方には、ぜひ一度ご覧いただきたいところである。


* ちなみに、冒頭の画像は、ちょうど『リック』が公開された時代に、僕が愛用していた「ぴあシネマクラブ」。表紙はブラッド・ピット。この電話帳サイズの年鑑をボロボロになるまで使い続けた日々が懐かしい。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?