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夢幻 ~泣けたユニフォーム

ある日のバッティング練習(下手でも3年生は全員練習は参加できた)
ピッチャーが投げるボールに 自信が無くてなかなか手をだせない自分
それを見かねた監督が叫んだ
「おい! 誰もおまえなんかに期待してないんだよ!
しょーがねーから時間やってんだ  少しは気を遣え!
ぐずぐずしてねーでさっさと終わらせろ!後のやつの迷惑考えろ!」
自分は それ以上バッターボックスにいられなくなり
慌ててバットを5回振ってその場を離れるしかできなかった
恥ずかしかったし怖かった・・・
(それにしても 感情が高ぶったとはいえ現役教師の言葉がこれか・・・)

しかし奇跡は起こった
その翌日 バッティングゲージに入った自分は最初から決めていた
「どんなボールが来ても全部振ってやる!5球で終わらせる
全部空振りでいい! それがなんだってんだ!」
完全に開き直って腹が据わっていた 結果なんてどうでもよかった
すると不思議なことが起こった
初球からホームラン性の打球 それが5球とも続いたのだ
(「覚悟を決めると強くなる」「執着を捨てると流れが変わる」
それはこういうことを言うのだろう)
まわりは驚きを隠せなかったようだがそれでも監督は何も言わなかった

しばらくして地区大会の季節がやってきた
3年生にとっては中学最後の公式戦になる
大会を前にベンチ入りメンバーの発表があった
なんと自分の名前が呼ばれた!
もっともベンチ入り20人の中での背番号「20」だったが
正直戸惑った・・・そしてそれは怒りに変わった
確かに練習には自分でできる役割で誰よりも真面目に取り組んだ
けど自分の思いは
「ちっ! なんだよ 功労賞かよ 所詮『お情け』じゃないか・・・
こんなもの要らない! 絶対着たりしない!」
そう誓った

大会の1回戦
誓い通りに不貞腐れた自分は
ユニフォームではなくジャージ姿で球場に出向いた
そして当然ながらベンチに入れずスタンドで試合を見守った

その翌日 キャプテンに呼び出された
「おまえは自分の事ばっかり気にしてるよな
自分の立ち位置がわかってるのか?
ユニフォームが無い奴が後輩も入れれば20人いることわかってるか?
そいつらがおまえを見て何を思うか考えたことあるか?
ユニフォームをもらえてるのに着てこないおまえにだよ
いいか おまえは確かに下手だよ
でもなそれでもずっと真面目にやってきていることはみんな認めてるんだ
監督だってそれを知ってるからおまえを選んで「20番」を渡したんだ
その「20」はな おまえだけの『20』じゃないんだぞ
ベンチに入れない奴ら全員の『20』なんだ
おまえは奴らの代表なんだよ
『20番』はな おまえが考えてるほど軽くないんだよ!」
それを言われた自分は何も返すことができず ただその場に立ち尽くすのみ
皆に申し訳ない気持ちと情けなさでいっぱいだった

2日後
2回戦の球場には「20番」を背負った自分がいた
出番はなかったがベンチから仲間を見守る事ができた
試合結果は惜しくも敗退
その日 自分の中学野球が終わった



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