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mRNAやDNA、転写や翻訳について世界一わかりやすく解説します(3月25日こびナビClubhouseまとめ)

木下喬弘
今日から文字起こしバッファというのが義務付けられました。このルームは朝8時30分からなんですが、8時29分30秒くらいからミュートで入っておいて、文字起こし勢が録音するための時間を提供するというルールになりましたので、僕は毎朝8時29分30秒にこのルームをはじめて、無言で30秒静かにしておきます。

今日も「こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース!」をやっていきたいと思います。

今日は雑談はなくて…
昨日異常に忙しくて晩御飯を食べるのをやめたんですよね。
なのであまりアップデートがないんですけど、今日は得意のホットクックのビーフシチューの材料を買い揃えてきたので、野菜を切って肉を焼いてホットクックにぶち込んで、あとは「放っとくック」という感じで作ってしまおうかなと思っております。

黑ちゃんどうしましたか?

黑川友哉
おはようございます。
最近 Clubhouse の新しい文化というのを学びまして、登壇しているときにミュートを外したり入れたりというのが、拍手みたいな役割なんだって気づいて…
リアクションできないじゃないですか? Taka 先生の話を聴いていても。
すごい面白い話をしているのにしらーって感じになるのもと思っていて、積極的にこれを取り入れてみようと思いました。

木下喬弘
なるほど、ありがとうございます。
パチパチするからちょっと音がうるさいですね.(笑)

黑川友哉
やりすぎは注意ですね。
今日もお願いいたします。

木下喬弘
(拍手モーションに気付いて)皆さん、ありがとうございます。
そんな面白い話もしてなかったんですけど…今日ビーフシチューを作るって言っただけですから…

今日も朝の医療ニュース解説、進めていきたいと思います。

今日は医療ニュース解説は、僕のむちゃぶり企画です。昨日、そもそもメッセンジャーRNA(mRNA)といっているけれど「RNA ってなんなの?」という記事があったので、記事を書いている人よりわかりやすく説明しよう!!こびナビチームでもっとわかりやすく説明しよう!という企画を行いまして、いろいろ試行錯誤したところ人体はレゴであるという結論になりました。
すなわち、人の体がレゴでできているとすると、アミノ酸がいわゆるレゴのブロックで、これはいくつかの種類しかなく、そのレゴブロックを組み合わせていくことで、例えば臓器や筋肉などを作っているということです。

レゴの設計図である DNA が人の細胞の中の核というところにあり、その DNA から設計図のコピーを取ります。ただし DNA はレゴの全体の設計図であり、すべてのパーツの情報が入っています。
そこから臓器や筋肉の一部分など、作りたいタンパク質の必要な部分だけのコピーを取り、それを核の外に持ち出して、タンパク質の工場で作るということを行っています。
そのコピーを取ったものが mRNA だという話まできました。

岡田先生!
この辺まででどうでしょうか?今のところのラップアップぶりは?

岡田玲緒奈
別物のように素晴らしくなっていてありがたいです。
昨日うまく説明できなかったのが悔しくて「note」に書き散らかしていたら、黑川先生に「おまえ、暇か!」と言われました…

黑川友哉
言ってない、言ってない!
素晴らしいな、と思って。

木下喬弘
今日はその続きをいきたいと思います。この mRNA というのは DNA からコピーを取ってきたものということなんですが、結局誰がコピーを取って核の外に持ち出すかという問題って解決しましたっけ?

岡田玲緒奈
それはですね…解決していないというか、タンパク質に運ばれるんですけど…
その辺ぜひ、今日は峰先生がいらっしゃるので、峰先生の話を聞きたいですね。
これに限らず複雑なので、いつも峰先生はよく簡単に説明できるな、とあの後調べてあらためて思ったんですけど。

木下喬弘
なるほど。僕もわかっていないんで、峰先生、いけますか?

峰宗太郎
もしもーし?なんの話でしたか?
RNA を合成するところの話でしたか?

木下喬弘
DNA が核の中にあって、作りたいタンパク質があったら、その作りたいタンパク質の部分の設計図をコピーするじゃないですか。

峰宗太郎
しますね。

木下喬弘
それを核の外に持ち出して、設計図をもとにタンパク質に変えるんですよね?

峰宗太郎
そうです。

木下喬弘
誰が外に持ち出すんですか?

峰宗太郎
これは面白い話ですね~。
実はそもそも DNA というのは非常に安定した状態で(真核生物では核の中に)保持されているという話からしてましたよね?
DNA から RNAポリメラーゼ(RNA polymerase)という RNA を合成する酵素などを含む、転写開始前複合体というすごくたくさんタンパク質が集まったものができます。まぁ集団で小人さんがたくさん集まってくると思ってください、その小人さんたちが集まってきて、DNA の遺伝情報を読んでいくんですね。
するとポリメラーゼという実際に組み立て作業をする人が、一文字一文字丁寧に DNA を基にして RNA というものを写し取っていきます。
これを転写( Transcription)というんですが、要は書き写すというのとまったく同じです。

木下喬弘
写経するわけですね?

峰宗太郎
写経するわけです。
核がある真核生物(核のない菌などは原核生物というのですが)の場合は DNA から RNA に転写して情報を写し取るんですね。
ところがこれは実はまだ未完成なんですね。

木下喬弘
はい??(笑)

峰宗太郎
DNA から転写されたばかりの mRNA(メッセンジャーRNA)は、イマチュア(immature、未成熟)といって、実は成熟していないんです。
ただ写し取っただけではダメなんですね。
そこでこれを実際にレゴのブロックをその並び順に置こうよ、という指令が直接書かれた mRNA にしなければなりません。それは「成熟mRNA」といって十分熟した状態にしなければいけないのですが、その成熟した mRNA にするためにいろいろな修飾をするのです。
この過程をプロセッシング(Processing)と呼びます。
プロセッシングというのは核の中で行われますが、いろいろなことをやっていて、一番先頭の部分にまずここがスタートだよ、という帽子みたいなものをくっつけます。
それから一番おしりの部分に「-A-A-A-A-…」とたくさんAが連続するポリAテール(Poly-A tail)というしっぽをつけます。
それにさらにスプライシングという過程が入ります。
実は RNA に写し取った中にはエクソン(exon)とイントロン(intron)という二つの成分が入っていて、エクソンというのはレゴの部品の設計図そのものになる部分であり、イントロンというのはその間をつないでいる人たち、つまりTVでいうとCMみたいなものなんですね。

このCM部分だけをカットする録画機にある機能のような感じでカットして大事な部分だけつなぐ、ということをし直します。
そうすると、実は DNA から写し取られた「未成熟 mRNA」というのは、まず帽子がくっついて、尾っぽがくっついて、中の「CM部分」が切り取られて、全部が直接使われるプログラムとなったがっちりした状態になるわけですね。
ここまでくると全体としてすごくコンパクトになっています。あたまにキャップがあってリーダー配列という最初の読み始めの配列があって、コードされている領域、つまりCMがないプログラムがバーっと連続で書いてあって尾っぽがつく、という状況です。

こういう「成熟 mRNA」になると今度は「トランスポート」といって核から核の外へ持ち出してくれるようなトランスポートプロテイン(輸送タンパク質)というものなどが出てきます。この小人さんが、mRNA が成熟しているかどうかを見分けて、そして核膜孔という孔からこの「成熟mRNA」を核の外へトランスポート、つまり輸送して持ち出してくれるんですね(mRNA核外輸送複合体の形成機構(https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2015.870075/data/index.html)が詳しい)。

今度は核の外の部分、細胞質といわれる部分ですが、その中にリボソーム(ribosome)というタンパク質の小型の製造工場が待っていまして、そこでそのリボソームと先ほどいった成熟 mRNA が合体して、そして工場がタンパク質の生産をスタートする準備が整います。
ここから先はすごく面倒なことになって、リボソームがいかにしてレゴブロックを組み立てていくかという話があるんですが、まずは核の中で DNA から転写して、成熟させて、そして核の外に持ち出すというのはそういう流れになります。

木下喬弘
なるほど。
あ、拍手が出てます。
なんとなくジブリの映画をTVで放送されていたら、最初に映画の紹介と最後に映画が終わった後に来週の映画の紹介みたいなものがあって、途中にCMが入っていてそのCM部分をカットして一つの映画のかたちにして核の外に持ち出すというというような感じですか?

峰宗太郎
そうなんです。
そのとおりで、普通に地上波で放送しているような状態で DNA というのはダラダラダラダラいろいろ書いてありますが、それを大事なところだけのダイジェスト版にしてすぐに楽しめるようにしているのが成熟 mRNA だと思っていただければだいたい合っていますね。

木下喬弘
なるほど、ありがとうございます。
結局持ち出すのは「小人」っていう話があったんですが(笑)小人は…小人はそういう人がいるんですね?

峰宗太郎
小人はですね、実際には面白いことにタンパク質であったり、タンパク質と RNA の複合体だったりすることがわかっています。RNA って mRNA だけじゃないんですよ。
岡田先生から説明いただいていてましたけれども、mRNA 以外に tRNA(トランスファーRNA)とか rRNA(リボソームRNA)とか lncRNA(Long non-coding RNA、長鎖非コードRNA)とかいろいろあるんですよ。
この RNA という分子を使っていろんな働きをもつようにしてある分子群(RNPs などという)がありまして、それを小人と表現したんですけれども、要はそういういろんな成分が写し取るときも運ぶときも、ペタペタペタペタ特別なところにくっついてきてチェックをしては、それぞれの機能を担うということを細胞の中では常にやっているんですよね。

木下喬弘
結構厳重な管理のもとで核の外に持ち出されているんですね。

峰宗太郎
そのとおりです。
これから述べる「リボソーム」というところでタンパク質をつくるわけですが、成熟しないものが出てきてしまうと、その時に変な、いわゆるCMが入っているタンパク質を作ってしまうことになってしまいます。
成熟していないものが外に出るのはどうしても避けたいわけです。

木下喬弘
わかりました、ありがとうございます。
ちゃんとした一連の映画でみんなが観て楽しめるかたちにして外に出る。
そこからリボソームでタンパク質として作りこまれるというようなイメージでいきたいなと思います。

さて、リボソームで mRNA すなわちタンパク質の設計図、またはレゴの仕様書、つまり「こんな感じで組み立ててください」というものが外に持ち出されて、リボソームで実際に設計図をもとにタンパク質を作るということまではわかりました。
ではなぜ mRNA は核内に入り込めないのかとか、DNA を書き換えないのかということを今から教えていただきたいと思いますが、要するに mRNA って逆向きには行けないということなんですか?

峰宗太郎
そうなんです。
核の中と核の外を行ったり来たりしたりするには、タンパク質では「核局在シグナル」といって、移動しなさいという指令が書いてあるかどうかがすごく大事になってきます。
そういったタンパク質が mRNA にくっつき、移動します。実際にキャップとかがついてしまったもの、つまり mRNA として成熟したものを逆流させて核内に移動するという機構はないわけではないわけではないんですが、実は制御されていて逆には行けないんです。

木下喬弘
ちなみに今回注射している mRNA ってキャップはついているんですか?

峰宗太郎
これ、いい質問ですね!
実は、人工的に工夫をしたキャップがついているんですよ!

木下喬弘
めちゃくちゃ嬉しそうでなによりです(笑)

峰宗太郎
キャップの話だけでめちゃめちゃ長く話せるんですけど、このキャップを工夫したことで、 mRNA の技術は飛躍しました。
キャップはあとで話しますタンパク質を合成するとき(翻訳)のスタートのサポートなどになりますので、その翻訳の開始の効率をすごく変えるようにこのキャップを工夫してあります。
なので、mRNAワクチンにももちろんキャップがついています(mRNA capping: biological functions and applications(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5027499/)に詳しい)。

木下喬弘
一番最初のキャップからおしりのところまで、無駄なくmRNAワクチンとして打ち込んでいるんですか?

峰宗太郎
全部そのまま「キャップ-本体-ポリAテール」という長いへびのようになったものを打ち込んでいます。

木下喬弘
では「成熟 mRNA 」そのものを脂の膜に包んで打ち込んでいるんでしょうか?

峰宗太郎
そのとおりです。

木下喬弘
了解です。ありがとうございます。
次に翻訳の話へいきましょうか?

峰宗太郎
そうですね、翻訳の話に進むとですね。
まず、リボソームという小さい工場が今度はたくさん出てきます。

小さい工場という言い方をしましたが、リボソームというのはふたつの成分からなっている「だるまさん」みたいな形を想像していただきたいんです。
大顆粒と小顆粒とか、60Sと40Sとか、いろいろと言い方はあります。
つまり大きい成分と小さい成分があって、そのふたつの成分の間に「成熟 mRNA 」を挟むようになっています。

木下喬弘
はいはい、なんとなく図でみたことがありますね。

図1

Wikipediaより

峰宗太郎
そうなんです。
このだるまさんの口みたいなところにパクっと mRNA を挟むと、そこに今度は「tRNA(トランスファーRNA)」という成分が出てきます。
昨日岡田先生に説明していただいたように RNA に書き込まれた「3文字」を1セットとして1種類のレゴブロック(アミノ酸)が指定されるわけです。

この文字は、A、U、C、G の4種類があります。
黄色いレゴブロックがたとえばメチオニンであれば、「AUG」という3文字が mRNA に書かれており、「AUG」の3文字を認識して黄色いレゴブロックを持ってくる、という実務が必要です。

その実務を担っているのが、tRNA(トランスファーRNA)という分子です。tRNA は十字架みたいな形をしています。

図1

Wikipediaより

十字架のあたまのてっぺんの部分が3文字になっていると思ってください。
そうすると「AUG」というのを認識できるのは、「AUG」の対になる(相補的な)配列、Aというのは必ず相手をU、Cというのは必ず相手をGと決めるので、AUG の真逆の3文字(CAU)があたまにくっついています。


tRNA は種類が73から93個とたくさんあったと思うんですが、tRNA中のヌクレオチドという構造の一番最後の部分(お尻の部分)にアミノ酸が1個くっついています。
たとえばAUGというあたまを持っている tRNA はうしろにメチオニンというアミノ酸がくっついているんですね。
リボソームは、mRNA を3文字ずつ読んでいき、AUGのところに対応する tRNA をつけます。
その際、ATP(アデノシン三リン酸)という分子を使って、エネルギーを与えて、おしりの部分のアミノ酸をプチっと切り離し、その前まで作ってきたアミノ酸の鎖にくっつけるんです。これを繰り返していくことで、アミノ酸の長い鎖ができます。

木下喬弘
この辺で一旦整理をさせていただきます。
mRNA は設計図で、AUCG…のように文字がたくさん並んでいるが、実はそれは「3文字ワンセット」で、レゴを作っているリボソームさんが3文字ずつ読んでいる。
AUGという順番できたら、それにくっつく tRNA という「ブロックを運んでくるレゴ制作会社の下っ端みたいな人」がいて、AUG と書いてあるtRNAのおしりの部分にはメチオニンがくっついているということですね?

峰宗太郎
そうです。

木下喬弘
AUGの配列をみたリボソームさんにより、 tRNA とそれに対応する場所がくっつくことで、おしりにあるアミノ酸が今まで作ってきたアミノ酸の配列につなげられて、どんどんどんどんアミノ酸がつなげて作られているというような感じですか?

峰宗太郎
そのとおりです。
岡田先生もここまで触れる時間がなかったと思うんですけど、実はタンパク質というレゴブロック自体も1本の鎖(ポリペプチド)なんですよ。
アミノ酸一個一個には A はアラニン、K はリシンなど、アルファベットで文字(アミノ酸記号)が付けられているのですが、「-A-K-E-M-……」と続く1本の鎖がタンパク質のもとになっています。

リボソームという工場でどんどんどんどん鎖をつなげていって、アミノ酸でできた鎖に翻訳します。
つまり DNA から同じ核酸である RNA に写すときは「転写」でしたが、mRNA からタンパク質というアミノ酸の鎖にするときは、全然違う物質になるので、日本語から英語に直すようにこれを「翻訳」(Translation)と呼んでいます。

木下喬弘
核の中の DNA は RNA にコピーを取り外に持ち出して、そのコピーを元にアミノ酸をくっつけていって長いアミノ酸の配列、すなわちタンパク質にする作業を翻訳と呼んでいることですか?

峰宗太郎
そういうことです。

木下喬弘
ちなみにタンパク質って立体的な構造をしていますよね?
一列に並んでいったらそうはならないような気がするんですけど…

峰宗太郎
これはおもしろくてですね、実はタンパク質はリボンのようなものだと思ってもらえばいいと思います。
タンパク質には、一次構造から四次構造まで分類があります。
一次構造は、アミノ酸がどういう並び順になっているかを指し、構造としては一次的なものです。


たとえばメチオニンやスレオニンといったアミノ酸があるとこの鎖が曲がりやすいとか曲がりにくいとか、それぞれ鎖の特性があります。
二次構造は、これらの特性で形が決まります。ここは構造生物学の話になりますが、そのアミノ酸(残基)の並び具合によって、リボンのようなものの折りたたまれ具合が変わって、α-ヘリックスや β-シートなどの立体的な構造を作ってくるんですね。
ネジのようにクルクルの螺旋をつくったり(α-ヘリックス)、シートのようになっている構造(β-シート)をつくったりといろいろな構造を作るということです。

そういうサブユニットのようなものをさらに折りたたんで三次構造という非常に複雑な立体構造を作ります。
これがタンパク質のかたちを作っているんです。
そしてリボソームには大顆粒、小顆粒があると先ほど言いましたよね?
このように複数の成分のタンパク質が合体してできるような構造を四次構造と言ったりしますが、タンパク質も単独で働くというより何個かが合体して働くことがあるので、このように一次構造から四次構造までの過程を経て、複雑な構造を作っているんですね。

木下喬弘
なんとなくわかりました。
タンパク質は鎖のようにアミノ酸を並べて合成されていきますが、そのアミノ酸の並びによって鎖の曲がり方が違っていろいろな構造になり、それが三次構造にまでなったものがまた集まってすごく複雑な構造のタンパク質になるということですか?

峰宗太郎
そのとおりです。

木下喬弘
全然「mRNA 核内に入れない問題」に到達しないので、そろそろそちら側にいきたいんですけど…(笑)
ここまでで DNA からタンパク質が作られることに関して詳しく教えていただきましたが、逆に「mRNA を DNA に送り込もう」と思ったらどうやったらいいのですか?

峰宗太郎
これはですね、非常に非常に難しいです(笑)
生物の機構上は成熟してしまったmRNAはもう細胞質にいるだけでリボソームにすぐに捕まってしまいます。
リボソームは小さい工場だと言いましたよね、大きい据え置き工場ではなくて実はポータブルのような工場で mRNA を見つけるとバンバンバンバンとりついて行きます。
実際にはリボソームが小胞体というところとくっついているものもあります(粗面小胞体)。
実際 mRNA が入ってくると核にいく前に細胞質という一般的な細胞の部分でリボソームに捕まってしまって、どんどんどんどんタンパク質に翻訳をされてしまいます。
そして、タンパク質への翻訳が終わって用済みになったmRNAは端から分解されていきます。
ですので、核に到達する前にリボソームに翻訳され終わった mRNA はどんどん壊されてしまうということになります。
mRNA を分解させずに核内に行かせるためにはどうするかというと、実はウイルスが実はその戦略を持っています。
キャップ構造に修飾をしたり、核の中に運ぶ特別なタンパク質をウイルスが作り出したりして、 RNA を核内に運ばせることはたまにあるのです。

ただ、病気になっていない正常な人間の細胞では成熟した mRNA は核の外にどんどんどんどん排出される機構がはたらいているので、核の中から外へ排出される流れに逆らうのは難しく、mRNAを人為的に核の中に入れることが上手くできないのです。

これは、実は開発中の DNA ワクチンの課題の一つになっています。
なぜ DNAワクチンがなかなか上手くいかないか一言でいうと、先ほど触れた通り、DNA から mRNA を作らせてそしてタンパクを作るのが通常の流れなので、 DNAワクチンというのは DNA のままではだめで、一度 mRNA を作らせなくてはいけないのです。

木下喬弘
そうですね、なるほど。

峰宗太郎
ということはスプライシングは省けたとしても、うまく成熟化をさせなくてはいけないので、核の中に DNA を入れる必要があります。

ところがその機構がヒトにはないので、核の中に DNA を入れるのはとても難しいのです。
核内に DNA や RNA を送りこんでくれるのがアデノウイルスベクターで、このベクターは DNA を核内に入りやすくする仕組みを持っています。

これはあくまでも DNA の話です。
RNA を核内に上手く運ぶ方法は全くないとは言えないものの、実際的にはほとんどないといってよいんです。

木下喬弘
mRNA は脂質ナノ粒子という膜によって細胞の中に入ることが可能になりますよね。

峰宗太郎
そのとおりです。

木下喬弘
細胞の中に入ったらすぐ「リボソーム警察」に見つかって逮捕されて、強制的にウイルスのスパイクタンパク質に書き換えられて、しかもその場で殺されるっていう結構むごい仕様になっているということですね。

峰宗太郎
そうです、むごい仕様になっています。

木下喬弘
警察の穴をかいくぐって核内に到達するというのは相当至難の業で、実際には警察の数が多すぎてほとんど不可能ということですか?

峰宗太郎
そうなんです。
少し話を省いたのですが、実際には細胞外や細胞質(サイトゾル)にはそれ以外に RNaseというRNA を分解するということに特化した酵素もいます。。
普通の殺し屋もいて、 RNA は細胞に入ってきただけでばかすか壊されてしまうという結構かわいそうなものなんですよね。

木下喬弘
それを聞くと mRNAワクチンも有効にスパイクタンパク質を体の中で作らせるのはめっちゃむずかしそうですね。

峰宗太郎
めっちゃ難しいので、mRNAワクチンは実は人の体の中で普通に使われるmRNAではなく、修飾核酸の mRNA というものを使っています。
修飾といわれる操作を少し加えて、細胞の中のセンサーにどぎつく引っかからないような工夫や、リボソームに最適化できるような工夫などがなされています。

木下喬弘
では簡単に殺し屋に捕まって殺されないようないろいろな工夫をした mRNA を実際には打ち込んでいるという感じですね。

峰宗太郎
そうです。
脂の膜もその工夫の一つです。

木下喬弘
細胞の中に入るためだけではなくて、核の中に入っていく過程でも mRNA を守る役割もあるということですか?

峰宗太郎
いえ、核の中ではなく外から細胞の中に入るところまでですね。
外から入る段階で RNA の大部分が分解されてしまいます。。

木下喬弘
なるほどなるほど。
細胞の外から中に入るまでの間に片っ端から殺されるのを守るために脂質の膜、脂質ナノ粒子を使っているということですね。

峰宗太郎
そうです。

木下喬弘
了解です。
残り2分くらいになってきました。
僕もここまで聞いたことはほとんどなにも知りませんでしたが、逆転写酵素を持つHIVのウイルスでは「RNA から DNA を作る」という常とは逆の流れがあるという話は聞いたことがあります。
その辺りは峰先生、解説いけますか?

峰宗太郎
いけます、いけます。
これはセントラルドグマという話なんです。
岡田先生が「note」にも書いておられましたが、まず「DNA から mRNA」「mRNA からタンパク質」というこの一方通行で、この流れしかないというのが生物学の中心的な原理原則だということで、セントラルドグマと名付けられています。

この流れは逆流しないものだということが大前提でした。
というのは「DNA から RNA にはなる」けれど「RNA から DNA にはならない」
「RNA からタンパク質にはなる」けれど「タンパク質から RNA にはならない」
その逆はないということになっていました。
しかし、レトロウイルスというのが後に発見されたんですね。
レトロウイルスは HIV や成人T細胞白血病ウイルス(HTLV-1)などで、後者は日本でも九州中心にみられるウイルスです。

レトロウイルス自身は自分の遺伝情報は RNA にのせて持っています。
ですので、ウイルスが細胞に感染するときは、細胞に侵入してから細胞質内にRNA、すなわち自分の設計図を入れます。
それに加えてこのウイルスは、実は RNA から DNA を逆に合成する「逆転写酵素」(reverse transcriptase; RT)という酵素も持っています。
ウイルスはこの酵素で RNA から DNA をつくり、さらにそのつくられた DNA を自分が感染した細胞の核の中に輸送することができるんです。
それに加えて、自分のRNAから作ったDNA をヒトの DNA の中に組み込むインテグラーゼ(integrase)という別の酵素も持っています。

そうすると、ウイルスは自分が持っている RNA をもとにして DNA の鎖を作り、それを人の細胞の DNA の中に打ち込んでいつまでも残すことが可能になるわけです。

木下喬弘
めちゃくちゃ悪いやつですね!

峰宗太郎
めちゃくちゃ悪いやつです。
HIV に感染したときは(急性に感染したときはそれ以外にもウイルスの増え方はありますが)基本的にはウイルスは自分の遺伝情報のかかれた成分をヒトの細胞の中に組み込みますので、人間の体はウイルスの成分を排除できなくなります。
なので人間の細胞がいきて増え続ける限り、ウイルスも増え続けるという非常に効率的なことをするわけです。

これがレトロウイルスの特徴ですが、実は、我々の遺伝子の総体の5割から6割はウイルスが進化させてきたという面があるようです。

木下喬弘
えーーー?

峰宗太郎
そうなんです。
RNA ウイルス、いわゆるレトロウイルスが外からいろいろな遺伝情報をもってきては DNA に変換して我々の DNA に打ち込んだことによって、現在の我々の体が作られて進化してきたという歴史があるともいえるのです。

木下喬弘
これ、衝撃的ですね。

峰宗太郎
そのような進化の証拠として我々の体の中には「HERV」(Human endogenous retroviruses、ヒト内在性レトロウイルス)というものが組み込まれています。
私もTaka先生も、すべての細胞に組み込まれています。
それがどのようなときに役に立つかというと、一番有名なのは我々が最初受精卵になる時、生命の第一歩です。
受精卵が多能性というのをもって分裂・分化していくときのトリガー(引き金)として HERV の一部が大事だということがわかっていて、実は多細胞生物になったというのはウイルスのおかげじゃないかという説もあるんです。

木下喬弘
えーーー?
ウイルスの中でしかも逆転写酵素とか悪いことをやってくるやつのおかげということですよね?

峰宗太郎
そういうことです。
逆転写酵素自体は人の場合には少し名残が残っているくらいです。
一番染色体の端っこの部分に「テロメア」というものがあるんですが、それをメンテナンスするものや、ごく一部の RNA をもとに DNA をつくるという機能を持つ酵素はあるんです(LINE-1など)。

ですけれども、一般的になんでもかんでも自由自在に RNA を DNA に逆転写する「逆転写酵素」はウイルス由来のものしかないんです。

木下喬弘
ではまとめると、HIV(エイズのウイルス)は逆転写酵素も持っているし、作ったDNA を人の DNA の中に埋め込むインテグラーゼも持っているので、人の DNA の中に自分の RNA というものを埋め込むことができる。
しかしながら、人の体には基本的にウイルス由来の逆転写酵素の名残しか存在しない。ということですね?

峰宗太郎
そうです。
ウイルス由来の逆転写酵素の成れの果てみたいなものしか存在しないのです。
なので基本的に mRNAワクチンを打ちこんでも、ヒトの中で DNA 変換されるという、セントラルドグマを破るようなことは特殊なウイルスなしには起こらないと言っていいんですね。

木下喬弘
なるほどなるほど。

峰宗太郎
なので HIV や HTLV-1 の場合は非常に特殊で、セントラルドグマ破りという例外があるんだよ、という捉え方が正しいですね。

木下喬弘
では気になるのは、HIV の急性感染をして、逆転写酵素が細胞内にある状態の人に mRNA ワクチンを打ったらどうなるんですか?

峰宗太郎
はい、これは細胞を使って実験をすると、逆転写酵素がある状態で人工的な RNA を入れると、しっかりと DNA ができることがあります。
さらにそれを核内にうまく導入してインテグラーゼを使えれば、DNA を染色体に組み込ませることもおそらくできます。

ただですね、これは HIV が存分に機能を発揮している状態でないと起こらないですし、なおかつ非常に稀な確率なんですね。
HIV は主には樹状細胞やヘルパーT細胞という細胞くらいにしか感染していないんですね。
そういう細胞にたまたまワクチンがいくという可能性はごく低いです。
さらには実際にはHIV に感染している方の多くが ART 療法(抗レトロウイルス療法)といって3つくらいのお薬を飲んで、HIV を活性化していない状態にするという治療を受けているわけです。
これは逆転写酵素などもあまりできていない状況だと考えていいんですよね。
なので、一般的な状態では治療を受けている HIV 感染の方であれば、まずそのような超レアなことは起こらないというのが原則ですよね。

ものすごく理想的な状態の実験室環境で細胞を使ってやってあげれば理論的にはできるかもしれないですけれども、実は HIV にコードされている RNA の設計図自体には DNA に組み込まれやすくするための仕組みがいっぱいくっついています。
DNA 組み込まれやすくするためのシグナルなどが書いてあるわけです。
実はそういうのがない状態ではインテグラーゼはうまく働きませんし、逆転写酵素も効率的に逆転写できないんです。
なので全く関係ない mRNA がやってきたとしても、HIV に感染している人の中で DNA までになって組み込まれるかといったら、まず天文学的な確率でありえないでしょう、という話になるんです。

木下喬弘
ではもともと逆転写酵素といってもウイルス由来のものの成れの果てみたいなものが少しあるだけのヒトが、mRNAワクチンを打って DNA になって、しかも核内に輸送されてインテグラーゼで人の DNA にはめ込まれるみたいなことはウルトラ天文学的な確率ということですか?

峰宗太郎
そうですね。
まずないといっていいでしょうね。

木下喬弘
それくらいの確信をもって「mRNAワクチンは人の DNA を組換えません」、ということをいっているわけですね。

峰宗太郎
そのとおりです。

木下喬弘
ありがとうございます。
ようやく(笑)玲緒奈先生、すみません!

岡田玲緒奈
ありがとうございます。
自分で話すなら修飾ウリジンの話もどこではさめばいいんだ、と思っていましたが、華麗にはさまれてましたね。

木下喬弘
修飾ウリジンって…なんでしたっけ?

峰宗太郎
mRNAワクチンとして人工的に加工・修飾をしたものを打ち込んでいるので、細胞に排除されないようにしている工夫のところですね。

木下喬弘
簡単に殺し屋に殺されないようにする仕組みのことですね?

峰宗太郎
そのとおりです。

木下喬弘
さて…皆さん、どうだったでしょうか?
今日のリアクションはわかりませんね(笑)
僕はめちゃくちゃ面白くて…
(拍手のリアクション)
あ、皆さん、ありがとうございます。

mRNA が DNA にならないのかということを教えていただいたんですけれども、「逆転写酵素」「HIV」あるいは「DNA・RNA」という僕はある程度聞きなれているものがあったので、ついていけたのかもしれないのですが、今日だけ聞いていたら「なんのことか?」という人もいたかもしれないです。
もしそうでしたら申し訳ないです。

「文字起こし泣かせ」な気がしますけど、文字起こしをして「note」にも掲載させていただきます。
「かなりわかりやすい生物学の説明書」のような感じになると思いますので、ご興味のある方は見ていただければと思います。

峰先生、玲緒奈先生、ありがとうございました。

峰宗太郎
岡田玲緒奈

ありがとうございました。

木下喬弘
今日も時間を少し過ぎておりますので、ここまでにさせていただきたいと思います。

いよいよ我々「こびナビ」のクラウドファンディングも残すところあと6日になりました。
今日のような少しマニアックだけれども皆さんが実は一番疑問に思っていたり不安に感じられている「mRNAを打って自分の DNA は変わらないのですか?」というようなことに、できるだけ真摯にお答えさせていただこうと思っています。
もし今日峰先生の話をおもしろいな、と思った方はよろしければ「こびナビ」のツイッターの固定ツイートに貼ってあるクラウドファンディングのページからご支援をいただければ非常にありがたいと思っております。

また日本時間の3月27日夜9時から、メンバー全員でYouTubeライブをおこないます。
これまでの活動の振り返りと、今後どのような活動をやっていきたいかということ、またこれから新型コロナワクチンを接種するかどうかを選ぶ日本の皆さまに対して、このような情報を見ていただければ、というようなお話をメンバー全員がさせていただきます。
1時間から1時間半くらいのYouTubeライブで適宜質問もお受けしようと思っておりますので、そちらも楽しみにしていただければと思います。

また岡田先生にもクラウドファンディングを盛り上げるためのツイッター策も始めてもらっていまして、なんとなく意味深なツイート流れていると思います。
そちらも楽しみにお待ちいただきながら、もしよろしければそのツイッターでの企画にもご協力いただければと思っております。

本日登壇いただいた先生方、どうもありがとうございました。
日本の皆さま、よい一日をお過ごしください。

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