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オリパラの感染対策、手指衛生としての手袋着用について(6月30日こびナビTwitter spacesまとめ)

2021年6月30日(水)
こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース
本日のモデレーター:谷口俊文


※以下は、6/30当時の情報です。※

谷口俊文
日本の皆さんおはようございます、こびナビ幹事の谷口です。
初めてこびナビTwitterスペースを担当させていただきます。
よろしくお願いします。

結構緊張しているんですけれども。
本日は何を話そうかと考え、治療薬の話、オリンピック・パラリンピック(以下オリパラと表記)の話を用意していますが、スピーカーのみなさん、どちらがよいでしょうか。

安川康介
オリパラの話を聞きたいです。

谷口俊文
了解しました。


【テーマ1】オリパラの感染対策について

昨日Yahoo!ニュースで、EURO2020というサッカーの試合にてサポーター300人が集団感染してしまったという記事が出ていました。非常に印象的ですのでここで取り上げたいと思います。

デルタ株拡大中のロシアへ遠征したフィンランドサポーター3,000人中300人が新型コロナ感染
https://news.yahoo.co.jp/articles/9e58cdf870fcabf291aae42187b5009a5388c24f
出典:Yahoo!ニュース 2021/06/29

記事によりますと、ロシアのサンクトペテルブルクで開催された EURO2020の試合で、フィンランドのサポーター300人が集団感染してしまったということです。

これはマスギャザリングの感染対策として考えさせられる話題です。
マスギャザリングというのは多くの人が集まるイベントなどのことですが、感染対策をきちんとやらないと駄目だよということで、昔からこのような研究分野がありました。昔だと例えば髄膜炎菌の感染症やインフルエンザなどですが、人が集まるとそこでみんな感染し合ってしまい、感染症のアウトブレイクが起きやすくなるんですね。

これは学問としても既に結構確立していますが、今回の COVID-19 により見直しが入ったのではないかと思います。

オリパラを目前にして、今のところ観客も入れることになっており(編注:2021/06/30当時の情報です。)、非常に不安になりかねない記事だと思います。

オリパラについては、観客を入れる/入れないという話で盛り上がってるんですが、
・イベント中のことに限った話で
・ルールをしっかり定めた上で
・しっかりと感染対策を行えば
割と安全に観客を入れることができるのではないかと個人的には思っています。

私自身は、コロナ禍におけるオリパラ以外の大規模イベントなどで、安全に開催するためのお手伝いもしています。

CDC(Centers for Disease Control and Prevention、アメリカ疾病予防管理センター)もイベントにおける基本的な原則を提唱しています。

観客に関しては、
・マスク着用
・叫ばない応援
・飲食は禁止
・観客間の距離を6フィート(1.8m弱)とる
・(一番重要なのは)ワクチン接種

だとしています。

日本では、オリパラ以外にもこれまでにかなり多くの観客を集めたイベントが開催されています。例えばワクチン接種が始まる前のゴールデンウイークに、千葉市内で1万人規模のの音楽フェスが行われました。ここで新型コロナウイルス感染症が流行拡大するのではないかとすごく心配していたのですが、第4波の真っ只中にしては千葉県自体はそんなに波は高くなく、結果的にこのイベントの影響でコロナの流行がものすごく拡大したということはなさそうだということで、本当に安堵しました。

このイベントの中身をよく見てみると、すごくしっかりとした感染対策をしていたようです。
・観客が立ち入る場所すべてに1~2m区切りのグリッド設置
・そのグリッドを超えるようなことがないように観客を配置
・マスクを必ず着用
・飲食は禁止
・手指衛生なども徹底する

ということを行っていたようです。

こういった形でしっかりと感染対策をしていれば、そこそこ大きなイベントであっても流行が拡大することなく安全に行えるのではないかという考え方が(専門家の間で)少しずつ出てきています。

コロナ禍のイベント開催については今後本当に考えていかなければなりませんし、マニュアルもしっかり作成されるのではないかと思います。

そういった中でオリパラの組織委員会が、会場内でアルコールを販売すると言い始めた時には、かなりびっくりしました。

我々がこういったコロナ禍での大きなイベントを開催するときの基本原則を完全に破っているわけです。アルコールを入れるということは、感染予防の行動を取れなくなる人が出てくるんですよね。

お酒が入ると気が大きくなって大声で話したり、普段ならやらないことをやる方など、どういう行動を取るかわからなくなる人も結構いるんですね。

また大声で話せばマスクの徹底もできなくなるので、これは非常に危険だと思っていました。結果的には、会場内でのアルコール販売は撤回されてよかったと思います。

(アルコール禁止であれば)オリンピック会場内で感染対策をしっかり行えば意外といけるんじゃないかなと思うんですが、一方で、観客を入れることで問題になるのが東京および首都圏の人の流れですよね。人流が増加することで、会場外での飲食などの機会が増えることなどにより、COVID-19 が拡大する懸念があると思います。

もちろん会場近辺での流行状況にもよりますが、人流が増加することで、かなり危険な状況になりえます。

そして専門家の多くの方は、デルタという変異ウイルスが流行しつつあり、これがどんどん増えるのではないかと予想しています。かつオリパラの開催時期に第5波がかぶるのではないかとも懸念されています。

こういった予想のもとに、やはり無観客でやった方がよいのではないかという話になるわけです。このあたり本当に賛否両論あると思うんですが、ご登壇の先生方はいかがでしょうか。

木下喬弘
谷口先生の仰っていることは、非常に妥当だなと思ってお伺いしていました。

公衆衛生学的に、観客を入れた方がよいのか、入れない方がよいのかと言えば、それは入れない方がよいに決まっています。しかし社会というのは健康のためだけに存在するわけではないので、そのバランスをどう取っていくかという話なんだと思います。

その観点で、
・ではなぜ観客を入れなければならないのか
・どの程度のリスクを見積もっているのか
・どうすればそのリスクを下げられるのか

などが明らかにされていないことに僕はずっと不満を感じています。そこの明確な説明なしに「いけるいける大丈夫、コロナに勝った証だから」というのは意味がわからないなと思いながら、オリパラ関連の発表を聞いています。

谷口俊文
私自身、千葉県側としてオリパラの組織委員会の方とお話する機会が何回かありましたが、やはり決まってないことが多いんですよね。細かいことを聞いても、まだ詳細が詰まってないなどと答えを濁されるようなこともあります。

このあたり、開催するまでの残り3週間くらいでしっかりと詰めていただきたいと思っています。(木下先生の)モヤモヤ感は本当にその通りで、結構難しいなと思います。
ゼロリスクをとろうと思うと無観客でやった方がよいことになると思うんですが、無難な着地点をどこにもっていくかはとても難しいと思います。

吉村先生、何かありますか。

吉村健佑
オリパラについては、県庁内で話を聞いていても十分な情報がないんですよね。情報を出そうにも、そもそも準備が進んでないようにも思えます。

なぜ観客にこだわるのかは私もよくわからないんですが、いくつかの説があります。
一つには、各国の VIP を観客として会場に招きたいけれども、その方々だけでの観戦はあまり望ましくないのではないか、人数を絞ってでもある程度の観客を入れた方がよいのではないかという意見があると聴きました。

そのあたりの組織委員会としての意図が十分に説明されていないと感じます。
例えばオリンピック選手たちは8割方ワクチンを接種してくるから感染拡大はそこまで心配不要では、といったやや楽観的に過ぎる意見もあるようです。

具体的にどういうことが起こったらどのように対応するかをちゃんと詰めた上で、1つ1つ決定していくという姿勢が欠けてるように思いますよね。

いかがでしょうか?

谷口俊文
結局、組織委員会の誰がこれらのことを決めているのかが全然見えてこなくて、組織委員会の内部に(感染症の)専門家がいるのかどうかすらわからないんですよね。おそらくいる、と信じたいんですけれども、内部の専門家から何かコメントいただけたら本当に嬉しいなと思います。

安川先生、何かありますか。

安川康介
この問題はすごく重要です。
例えば有名な医学雑誌 NEJM(The New England Journal of Medicine)で、今回のオリパラについて、感染症のリスクマネジメントをもっとしっかりやった方がよいのではないかという主張がなされています。

Protecting Olympic Participants from Covid-19 — The Urgent Need for a Risk-Management Approach
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp2108567
出典:The New England Journal of Medicine 2021/07/01

谷口先生にお伺いしたいのですが。
オリパラは世界的に注目されているイベントですが、どういう組織や専門家チームが感染症対策を担っているか、わかっていないということなんでしょうか。

谷口俊文
私にはわかってないんですよね。

安川康介
わかっていない……。
これは、すごく大切なことで、どのような感染症対策をするのか、どのようなリスクコミュニケーションをとるのか、日本だけでなく世界に向けてしっかりやっていかなければならないイベントだと思います。

観客を入れるかどうかはすごく難しい問題だと思っています。
また種目ごとに感染症のリスクが違います。屋内でボクシング競技を行うのと、屋外で距離を保った状態で競技を行うのでは全然違いますし、観客も屋外、屋内ではリスクが違うので、そのあたりをしっかりと選別してコミュニケーションを取りながらやれば、僕は観客を入れる種目があってもいいのかなとは思っています。

ただやはりコミュニケーションがすごく、すごくすごく重要です。
感染者が出た場合、小さなアウトブレイクが起きた場合に、どのように対応するのか、あるいは対応しているのか、海外のメディアにも発信できるような組織や、顔となる広報担当者などがいた方がよいだろうなと思っています。

谷口俊文
組織委員会の中にも専門家はいると思うんですよ。公にはされていない今大会の準備状況についてという組織委員会の資料を持っているんですが、割といろいろ書かれています。しかし詳細は書かれておらず、それが不安を煽るところもあります。

例えば具合が悪くなった観客がいたときにどうするか、コロナ禍では通常とは状況・対応が違うんですが、そういった細部が記載されていないんですよね。

例えば成田空港の検疫で引っかかった場合、千葉県のホテルなどで診ることになると思うんですが、では濃厚接触者に関してはどこが担当でどうしたらいいんだという話が出てきています。昨日の新聞で、千葉県は濃厚接触者については県だけでは抱えきれないので、どうにかしてくださいという要望書を国に提出したという話が出ていますよね。

このように細かいところが詰められておらず、既にオリパラ関係者が日本にいらっしゃっていますが、実際に大会の準備を進めていく中でこうすると決めている雰囲気です。ある程度は予測できないこともありますので修正しながらやっていくというのはよいとは思うんですが、このくらいは想定していてもよいのではないかというところで準備していないことも結構あって、微妙だなと思っています。

安川先生に NEJM の話をご紹介いただきましたが。
内田先生、例えばアメリカのご友人の方々の中で、今回のオリパラをどのように見てるかということが話題になったりしませんか。

内田舞
私は最近、アスリートのメンタルヘルスというテーマでフィギュアスケート競技のオリンピアンである長洲未来さんとの対談(https://youtube.com/playlist?list=PLpbXYPlrzjn_mQvJLcXmmyBwp8gtHHANf)をしたり、東京オリンピック優勝を目指している大坂なおみ選手のメンタルヘルス発言についての取材を受けたりしている(https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/athlete-mental-health-1)んですけれども、そういった時に必ずオリパラはどうなんだということを聞かれます。

私は(1)アスリートの視点から(2)感染対策から、の2つの面から考えていかなければいけないなと思っています。

アスリートは、本当に人生をかけてこの瞬間のために生きてきたという方ばかりです。それが丸々1年延期されただけでも心身ともに相当なストレスとなり、メンタルヘルスにも影響しています。

そして今回、開催されることになったけれども現状のようになっていることで、ファンは応援してくれているけれどもオリパラに参加しないで欲しいと言われたりするアスリートもいます。彼らはすごく複雑な心境で、しかし参加しなければならないから練習を続けるという、大変な状況に追い込まれていて、私は本当にかわいそうだと思っています。

また、海外からのご家族は同行できないという決まりが発表されたそうです。アスリートは若いので、オリパラ選手には10代の方も大勢いますが、参加する際に親はついていけないとなると、それも相当な不安要素になっていると考えられます。

感染対策からは離れたところですが、このような会話がされていますね。

谷口俊文
ありがとうございます。
日本でも、どうにかオリパラを中止させたいと思う人が、アスリートに対してそちら側から中止を呼びかけてくれと投げかけたことがあり、すごく問題になりましたよね。

内田舞
そうなんですよね。
そもそも(オリパラ開催については)アスリートが決められることではなく、彼らは人生をかけてここまで来たわけですから、感染対策に関する不安は私自身も持っていますし、みんな持っていて当然なんですが、そういった感情をアスリートには向けないでほしいなと強く思っています。


【テーマ2】感染対策としての手袋着用について

谷口俊文
次の話題に進みます。
私自身が関わっているオリパラの感染対策に関して少しお話したいと思います。

先日、千葉市内にあるいくつかの選手団の、感染対策マニュアルについて少し手直しさせていただきました。具体的には、空港到着から宿泊先のホテル、練習場、その間の移動や食事、取材を受けるとき、などの感染対策が主なポイントでした。

私の Twitterフォロワーさんは、数日前の僕のつぶやきを覚えてらっしゃるかもしれませんが。

Twitter 谷口俊文 @tosh_taniguc 2021/06/28
手袋着用に関するツイート 
https://twitter.com/tosh_taniguc/status/1408567734938394625

ビュッフェでの手袋着用について。
私の目の届く範囲では、自治体などが推奨する飲食店の感染対策ガイドラインに遵守していなくてもトップアスリートを守る方が大切だろうと思い、マニュアルを書きかえて、(手袋を使用せず)手指衛生をメインとする感染対策に切り替えさせていただきました。

なぜかというと。
手袋を着用する時に汚れた手の汚染物が手袋についてしまうので、感染対策にはならないのです。手袋を着けているという安心感はまやかしなんですよね。

手袋の表面を汚染させないように手袋を着用するのは、めちゃくちゃ難しいんですよ。
・手袋を着用する前に(しっかりとした丁寧な)手洗いやアルコール手指消毒が必要。
・着用した手袋は(他の場所に触れる前に)その都度取り替えて廃棄する必要あり。

こういったことを実行していればよいのですが、私が見たホテルのビュッフェなどでは行っていないところが多いんですよね。もちろんしっかりと行っているところもあると思いますが、飲食店によって対応がバラバラだという印象です。

こういった手袋、ガウン、つなぎなどの個人防護具(PPE、Personal Protective Equipment)については着脱が重要であり、特に正しい脱ぎ方をしないと感染症に感染してしまうことがあります。最近では2014年頃に西アフリカでエボラ出血熱が流行した時にも学んだことです。

また個人防護具は、対象となる病原体の種類によっても必要装備や手順が異なり、ウイルスなどの特徴に応じて専門家が決定しています。SARS-CoV-2 は飛沫感染が主体であることがわかっており皮膚に付着しても感染しないので、つなぎなどは必要ないんですよね。

もし SARS-CoV-2 が手に付着しても、しっかりとした手洗いやアルコール手指消毒を行えばOKです。手袋を着用しても消毒しなければ(SARS-CoV-2は)割と長く不活化しないことが知られていますので、汚染された手袋を食事するテーブルの上においたり、それを着用した状態でビュッフェのトングなどを触るほうが、よほど感染拡大する可能性があるということです。

この COVID-19 の流行が始まった時に、日本の医療従事者たちは個人防護具の着脱をしっかりとトレーニングしていました。実はアメリカではあまり行われていなかったように感じており、もしこの感染症がアメリカで流行したら多くの医療従事者が個人防護具を正しく脱げないことで感染してしまうのではないかと思っていました。案の定、私の友人やお世話になった先生方が次々と感染してしまい、悲しかったですね。

また2020年3月頃に中国やイタリアで報道されていた個人防護具は、逆にオーバースペックすぎて、あれでは感染してしまうのではないかと日本の感染症専門家の多くが思っていたのですが、不安が的中し多くの医療従者者が感染することになってしまいました。

このような個人防護具の着脱トレーニングは実際は日本の方がマメに行っていたりします。

話がそれましたが。
ビュッフェの手袋1つ取っても汚染しないように着用するのはすごく難しいことですし、都度取り替えて廃棄するならよいのですが、使い回してしまうと汚染が広がるしかないんですよね。

手袋を着用する前にアルコール手指消毒をすればよいのですが……。
それよりも、お皿や食べ物を取りに行く直前にアルコールで手指消毒して、手袋のゴミなどが発生しない方がよいのではないかという考え方もあると思うんですね。

同様にドリンクバーでは、同じコップの使い回しは禁止で、新しいコップを使うのが正解だと思います。

ウェイターさんには下膳と配膳の間に手指衛生してほしいんですが、これを同時に行う方をたまに見かけます。例えば片付ける食器を右手に持ち、食事の載った清潔な配膳食器を左手に持つとか、こういうことをすると感染がクロス(交差)してしまうんですよね。感染のプロとしてモヤモヤするところです。

実は、飲食店で感染対策をしっかりやろうとすると、医療従事者並みに手指衛生をする必要があるなと思っています。オリパラの選手団のマニュアルを修正するときに思いがあふれてしまって、(このようなことを)思わずつぶやいてしまった……という感じです。

これに関して池田先生いかがでしょうか、院内の個人防護具の着脱について、コロナ禍により徹底されたり訓練されたりなどはありましたか。

池田早希
そもそもコロナ禍以前から、新しい職員、特に研修医などには、入職時N95マスクも含めた個人防護具の着脱トレーニングがありました。それに加えて COVID-19 の患者さんを診ることになった時には改めてトレーニングを徹底しましたね。

さらに N95マスクのフィットテスト(感染予防のためN95マスクが着用者にフィットし、密着しているかを調べるために実施されるテスト)をよく行うようになりましたね。もともと必須だったんですがそれをしてない人もいたので、今回のコロナ禍でより厳しくなりました。

参考:N95マスク フィットテスト
https://www.3mcompany.jp/3M/ja_JP/medical-jp/mask/fit-test/
出典:3M

参考:N95マスクの選び方・使い方
https://www.safety.jrgoicp.org/ppe-3-usage-n95mask.html
出典:職業感染制御研究会


アメリカでは普段病院でマスクをつけている人はいなかったんですが、2020年春からユニバーサルマスキングでみんな着用するようになったので、それも大きな違いだったかなと思います。

安川先生どうでしょうか。
一般内科で働いている中で個人防護具の着脱は何か変わりましたか。

安川康介
そうですね、着脱に関しては日本ほどきっちりしていない状況はあったと思います。
個人防護具が一時期不足し、例えばN95マスクは他の人が使用したものを消毒して使い回したりもしていました。

そして患者さんが多すぎて、一人が十数人の新型コロナウイルス感染症を診療しているという時期がありました。ひとりひとりの部屋に入った後に(個人防護具を)きっちり着脱していると診療が難しい状況で、受け持ちの患者さんが全員 COVID-19 患者さんの場合はガウンはそのままなど、いちいち全てを脱がないで対応している人もいたと思います。

アメリカのテレビでは、患者さんが多数いる救急外来で医師が同じものを着て別の患者さんを診る様子を報道していましたが、1人1人に対して個人防護具を全部脱いで、ということをしている状況ではなかったですね。ただ、個人防護具が感染症から身を守るという意識は、ものすごく高まったと思います。

谷口俊文
ありがとうございます。

続いて峰先生にお聞きしたいのですが。
この SARS-CoV-2 の感染様式に関してですが、僕たちは飛沫感染がメインということで、接触してもあまり感染しないと思っています。ウイルスのご専門の先生から見て、この感染様式に関してコメントいただけますでしょうか。

峰宗太郎
私も BSL3(Biosafety level3、バイオセーフティレベル3)という施設で実際に SARS-CoV-2 を扱う実験を少々行っています。このような実験を行う際には、biological agent(生物学的作用物質)ごとにどのような感染経路を断っておけば安全であるかということをしっかり調べて、講習を受けなければならないことになっています。

SARS-CoV-2 の場合には、基本的に飛沫感染対策が一番重要だとされています。
接触感染もあるんですが、いろいろデータが出てきており、先日の講習では10%ないぐらいだろうと言われていました。つまり主に飛沫感染ですね。

医療機関では、エアロゾル発生手技などを行った場合や3密でひどい状況の場合に起こりうる、ロングレンジと我々が呼んでいる2mを超えて感染する可能性がある飛沫感染があるということは結構言われています。

一方、空気感染があるかということについて。
限定的な状況であれば起きてもおかしくはないだろうと言われていました。これはインフルエンザも同様です。つまりロングレンジ感染発生手技があるような医療機関や、3密のひどい状況で全く換気されていないのに中で人がワイワイ騒いでるかとか、そのような状況であれば、限定的な状況では空気感染もありうると言われています。

そして我々研究機関での実験は BSL3 ですので陰圧室で行いますが、実際の臨床では陰圧室対応は必要ないだろうと考えられています。

さらに医療機関や研究機関の場合にはリスクが高い状況で作業するということで、N95マスクを使っています。ここは一般的な飛沫感染対策、いわゆる不織布マスクよりは1段階上の対策をしているというのが現状です。

長くなりましたが、基本的には飛沫感染対策ということで対応しております。

谷口俊文
まとめていただいてありがとうございます。


【訂正】アメリカでの子どものワクチン接種に関する親の許可について

内田舞
最後によろしいでしょうか。
昨日、吉村先生の回で、谷口先生からご質問いただいた、「親がワクチン接種に反対だけれども子供が接種したい場合にはどのようになっているのか」について、私が間違ったこと言ってしまったようです。

アメリカでは親の同意がなければ子供は打てないと申し上げたんですが、これは私が住んでいるマサチューセッツ州でのことで、州ごとに違うルールがあることがわかりました。

12歳以上であれば親の同意なしで打てるという州もあれば、16歳以上だったらよいという州もあれば、アメリカでは何に関しても大人とみなされる18歳以上というところもあります。

12歳以上、16歳以上で同意なしで打てる州は複数あり、親に隠れてワクチンを打ったティーンエイジャーも結構いるようです。どのくらいいるか具体的にはわからないんですが、1人2人ではないようです。

アメリカには海外から家族で引っ越してきた移民の方も多く、ワクチンに関する情報は英語で発信されてることが多いのでなかなか伝わらない、子どもは英語がわかるけれども親がわからない、親と子どもの情報収集の差があるケースもあるようです。

また親の同意が必要な州でも、両親の同意が必要な州と親が1人同意すればよい州、いろいろあるようです。ちなみに新型コロナウイルスワクチンではないんですが、離婚された両親が、お母さんは子どもにワクチンを打たせたいけれどもお父さんは打たせたくない、という場合に、お互いに訴訟を起こすケースがあり、打たせたい親・打たせたくない親、どちら側も勝つことがあるようです。興味深いテーマだなと思って付け加えさせていただきます。

谷口俊文
アメリカらしいと思います。
日本ではそういった問題が可視化しない可能性がありますので、(対象者には)積極的に話しかけていかなければならないのではないかと思います。

池田早希
追加で、内田先生のおっしゃっていたことに関連して、例えばティーンエイジャーの診療において、場合によっては親の同意が不要だったり親に情報共有する必要がないこともあります。多くの州で、例えば妊娠関連、避妊薬や関連する処置・処方だったり、STD(性感染症)の治療なども親の介入なしで子どもとお話をして処方することもできます。

谷口俊文
アメリカにはいろいろとよいこともありますね。
日本も参考にすべきことで、取り入れていかなければならないんだろうなと思います。

そろそろ時間ですので、このあたりで締めたいと思います。

今日、初めてモデレーターさせていただいて至らないところもあったと思うんですが、ご容赦いただければと思います。私自身、話していて楽しかったので、今後もし機会をいただければまたモデレーターをさせていただければなと思っています。

それでは日本の皆さん、今日もよい1日をお過ごしください。
さようなら。

全員
ありがとうございました。


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