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大阪で感染拡大している変異ウイルスは死亡率が上がるのか(4月19日こびナビClubhouseまとめ)

4月19日(月)
こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース
本日のモデレーター:木下喬弘


【オープニング】

木下喬弘
おはようございます。皆さんが楽しみにしてらっしゃる木下の料理授業なんですけど、最近私は気づいたわけですよ。アメリカでは今、夜の7時半なわけですね。
この時間から Clubhouse をやって、終わってからご飯を作り始めると相当大変というか、 かなりやる気がなくなることに気づいたので、どうしたらいいかということを考えてこの間に作ってしまうということを決心しました。

黑川友哉
この間にというのは Clubhouse 中にということですか?

木下喬弘
はい、そうです。
今日はステーキを焼きます。私はステーキを焼くときはオーブンで50分ほど低温調理をしてから、フライパンで一気に表面を焦がして最後完成に持っていくんですけれども、
この50分の低温調理の時間を Clubhouse にあてることにしました。

黑川友哉
なるほど。作業のない間に Clubhouse をあてるということですね。

木下喬弘
その通りです!
ただですね。これが今日一番大事なところなので皆さん真剣に聞いて欲しいんですけど、
低温調理の時間をこの時間に充てることには問題があって。
一度ひっくり返さないといけないんですよねステーキを。聞いてる?

黑川友哉
聞いてます聞いてます。
低温調理って、茹でる感じじゃないんですか? 違うのかな?

木下喬弘
多分これ、色々なやり方があって、いわゆる「低温調理器」を持っている方もいらっしゃると思うんですが、私はアメリカのご家庭には必ず付いているオーブンに200℉(約93℃)で50分ぐらい突っ込んで中をミディアムレアにした後に表面を思いっきり高温で焼くという調理方法を推しているんですね。
この50分が Clubhouse中にあたるんですけども、残念ながら、大体7時25分ぐらいにオーブンに突っ込んだので、途中で一旦ひっくり返しに行かないといけないんです。

黑川友哉
それは大体何時ぐらいになるんですか?

木下喬弘
これがですね、7時45分ぐらいに僕はステーキをひっくり返しに行くので、一旦。

黑川友哉
ちょうどど真ん中じゃないですか。

木下喬弘
そうなんです。ちょうどど真ん中でステーキをひっくり返すタイムが発生します。

黑川友哉
いつもだったら峰先生がノリに乗ってる時間帯くらいですかね。

木下喬弘
はい(笑)その 7時45分ぐらいに、皆さんは僕がステーキをひっくり返すということをまずは覚えておいてください。

黑川友哉
その時間帯今日みんなで必死につなぐ時間ということで。

木下喬弘
はい、お願いします。

前田陽平
とりあえずこの2分間でわかったのは黒川先生が優しいってことです(笑)
他の事はほとんどどうでも良かったという、そういうことだけはわかりましたね。はい。

木下喬弘
これ本当に大事なので。本当大事なので、皆さんに僕が今日一番気をつけてほしいことです、本当に。280人の参加者に僕が1番分かっておいてほしいのは、私が15分後にステーキをひっくり返しに行くということです。
ということで、こびナビの朝の最新医療ニュース始めていきたいと思います。


【ニュース1】大阪の感染状況について(変異ウイルスと若年層の重症化急増)

今日選んだニュースは、
大阪で、若年者とまではいわないですが60歳未満の感染者が増えていて、重症になっている患者も増えているという記事です。

変異ウイルスで若い世代の重症化急増 最前線の医師「想定以上の速さで重症化」「最悪の事態を超えている」
https://youtu.be/lsRDxWTWnx8
出典: YouTubeチャンネル「カンテレNEWS」2021/04/15
※Clubhouse内で取り上げられた記事の内容と類似の動画です。

大阪は結構大変な状況だと思うんですけど、今からワクチンを大阪府に優先的に分配するとかそういったことで解決する問題ではなくて、確実に感染対策で感染者数を減らさないとどうしようもないんです。
これは関西医科大学総合医療センターの中森康教授のインタビューです。
この人実は私の師匠なんです。とても臨床センス抜群の人で、私はこの人に本当に臨床を一から叩き込まれました。 昔ながらの救急医みたいな感じで男気がある先生なんです。
彼がインタビュー全体の流れで、「みなが通常の生活をしながらコロナにかかったときは病院で受け止める、こういう覚悟でずっとやってきた。ちょっとそれが厳しくなってきて、弱音は吐きたくないが、みなさんで自粛しないと、ほんとに崩壊してしまうかもしれない」と最後におっしゃっていて。
彼がここまで言うということで、他の同僚からも聞いてるんですが、大阪の状況は相当やばいということが端的にわかるコメントになっています。

なぜこんなにやばいのかという議論になるわけですが、
当然、感染者が増えると重症な患者が増えるので、それが一番大きい要因です。
大阪府内では今までで一番感染者数が多いので、当然といえば当然、というのが1点あるというのと、それに加えて N501Y、だから頭がブロッコリー(※ 4月15日の峰先生 Clubhouse 参照)になっているウイルスが蔓延しているということです。いわゆる B.1.1.7 という、イギリスで見つかった変異ウイルスだと思うのですが、これって合ってますかね?みなさん知ってます?
日本の変異ウイルス関連の報道を見てると、系統名を書いてくれていないから、この辺がどうなってるのかという情報がちょっとよくわからないんです。基本的には大阪で感染拡大している変異ウイルスには N501Y があって、E484K がないということで、おそらく B.1.1.7 だと僕は理解しているんですが、微妙に確信がないところがあります。
それが若年者の重症化率や死亡率を変えるのか?という話題を今日は突っ込んでいきたいと思います。
ちなみに、この大阪の変異ウイルスについて、僕の理解で合っています?
誰かわかる人います?

峰宗太郎
すみません、遅れました。合っていますよ。基本的に B.1.1.7 がかなり入っているということでですね。国立感染症研究所から第8報という報告が出ているのと、それぞれ4段シークエンスしたデータも出ています。主に N501Y と言っているのが B.1.1.7 ですね。
あと、日本の関東と東北は ちょっと違う系統が広がってますね。R.1 とか別のものですね。

木下喬弘
関東・東北で出て来ているのは B.1.351 ではないのですか?

峰宗太郎
違うんです。こっちは日本で変異した E484K が入っているのが混じっていたりですね、ちょっと系統としては違うものが増えていますね。

木下喬弘
基本的には N501Y+E484K ということは合っているということですか?

峰宗太郎
そうですね。 N501Y も拡がっています。ただ N501YがなくE484K だけを含む変異ウイルスも増えていて、この辺がややこしくて、とにかく大阪で増えているのは N501Y の B.1.1.7 であるものが多いようですね。

木下喬弘
なるほど。ありがとうございます。
このあたりはあまり整理して書かれていないんですけども、感染研のデータを見ればわかるということを教えていただいたので、それをまずは確認させていただこうと思います。
これが日本語で検索してもなかなか分かりにくかったです。確かに報道でも関東では N501Y のない E484K が結構出てきているという話もあったので、それは日本で見つかった変異だと言うことで良さそうですかね、峰先生?

峰宗太郎
フィリピンから入ってきたものと日本で見つかったものと両方あるんですけれども、東北・関東は別の変異だと思って頂いて良いと思います、今のところは。

木下喬弘
ありがとうございます、よくわかりました。
ということで話を戻しますと、 大阪で50歳代よりも下の世代でかなり重症者が増えてきていて、ICU の半分以上が50歳代以下の患者になっているということです。
この N501Y のある B.1.1.7;イギリスで見つかった変異ウイルスが重症度を上げるのか?というところをいくつかの文献を調べたのでこれらをもとに解説していきたいと思います。


【ニュース2】変異ウイルスと死亡率について(2つの論文について解説)

いくつか論文はあって、発表されていないプレプリント状態の論文もあるんですけれども、主なものはこの2つかなと思ってピックアップしました。
1つは3月の下旬に BMJ に出た論文で、1番最初にアクセプトされたのが2月25日と書いてあります。公開が3月だったと思います。

Risk of mortality in patients infected with SARS-CoV-2 variant of concern 202012/1: matched cohort study
https://www.bmj.com/content/372/bmj.n579#:~:text=Results%20The%20mortality%20hazard%20ratio,covid%2D19%20in%20the%20community
出典:the BMJ 2021/2/25

これが BMJ に出た論文です。
BMJ というのは世界五大医学雑誌に入るすごく有名なイギリスの雑誌です。
そこに出たもので、この SARS-CoV-2の「variant of concern 2020/12/1」と名づけられた、いわゆるイギリス型の変異ウイルスB.1.1.7が死亡率に与える影響を調べたという演目です。
結論から言うと、この論文では、死亡率が上がるとされています。
どのような研究デザインになっているかと言うと、 イギリスで合計約100万人、94万1518人に PCR検査を行い、その中で B.1.1.7 に相当する変異ウイルスがあるかどうかを調べています。
ただ、この論文で注意しないといけないところが、直接的に遺伝子解析をしているのではなくて、簡易PCR で S Gene が陰性になるかどうかで判定しているというところです。
イギリスではこの方法が B.1.1.7 の遺伝子検査の簡易版として用いられていて、完全な遺伝子検査をしているわけではないんだけども B.1.1.7 かどうかが解析できるようです。
峰先生、ここちょっと補足とかありますか?

峰宗太郎
簡単な話、この S Gene というのはスパイクタンパクの S なので、スパイクタンパク質をターゲットとしている PCR検査をしているんですね。
PCR っていうのは簡単にいうとその特異的な配列、つまり ATCG という並びであればそれにジャストマッチしたところから増幅して読むんですね。
ところがそこに変異が入っているとプライマーという部品がくっつくことができないので、結局その部分が増幅しなくなるんです。
それで、イギリスで使われてたライトハウスという会社が出していたセットなんかは、ウイルス全体の中でスパイクタンパク質の一部分、それから N タンパク質とか FOSL1 とかその決められた3箇所ぐらいを検出して、全部増幅されたらウイルスがいる、というのを今までやってたんですね。
ところが、スパイクタンパク質だけ1箇所変異してしまったので、上手く PCR がかからないというのが存在したわけですね。
それがスパイクタンパク質分の増幅欠損ということになります。
それがある場合には、変異したウイルスなのかなと簡易的に分かるということを利用して、 PCR で判定しているという話なだけなんです。

木下喬弘
ありがとうございます。
元々いわゆるイギリス型の変異ウイルスってそこから見つかったんですよね、確か。

峰宗太郎
そうなんです。
PCR が3セットのうち1つだけ当たらない、変なことが起こるぞというので見つかってきたんですよね。

木下喬弘
なるほどありがとうございます。
PCR の3つのターゲットのうち1つが陰性になったものが、遺伝子配列を調べていくと 「Valiant of concern 2020/12/1 」であるとの結論になったということです。
これを逆に利用して、簡単な検査で変異があるかを確認することで、100万人規模の研究で変異の有無を調べているわけです。
この S gene の陽性陰性、すなわち B.1.1.7 かどうかということを判定できた94万人の中から、年齢・性別・人種・居住地・貧困に関する指標・検体採取した日にち(流行時期とかも考慮に入れるため)が同じ患者を1人ずつ連れてきました。、
つまりは新型コロナウイルスに感染した人の中で、 S gene の陽性 ≒ B.1.1.7 に相当する変異ウイルスどうかだけが違う患者を5万4906人ずつ連れてきて、その人たちの死亡率を見たという研究になります。
その研究を行った結果、B.1.1.7 変異ウイルスはハザード比という死亡のリスクの指標が1.64倍であったと。
95%信頼区間は1.32~2.04ということで、これは明らかに死亡のリスクは上がっているという結論になっています。
これが1つ目の BMJ の研究になります。
ポイントとしては、イギリスで見つかっているこの陽性者を……
あ、ステーキをひっくり返す時間だ。
しゃべりながらひっくり返しに行きますけれども、幅広く捕まえて、その中で変異のある人と変異のない人を直接比較した研究になっています。ですから、割とシンプルな解釈をしやすいんですが、その代わり何十万人というようなデータを用いた研究なので、 細かいところまではわからないデータになっています。
ただ結論としてはハザード比というので1.6倍ぐらい死亡のリスクが違うというのがまず1つ目の研究です。
僕がステーキをひっくり返してる間に、皆さん何かコメントありますでしょうか。

峰宗太郎
とにかく解析の症例数が多いですよね。
僕もちらっと見たんですけれども、母数というか分母というか、としては入院してない軽症例まで含めて解析していますよね。

木下喬弘
おっしゃる通りです。

峰宗太郎
それが大事だということと、あとはちょっとデータの質が検討できないですよね。
マッチはちゃんとしてると思うんですけれども、どういうデータセットかによって質の評価ってちょっと難しいかなーなんて思ったりしながら読んでおりました。

木下喬弘
研究というのはそれぞれの強みと弱みがあるんですが、この研究の強みはやっぱり圧倒的な症例数で、しかも年齢性別だけじゃなくて居住地とか、色んな所をマッチさせた患者同士で比べていて、比較的フェアな比較ができていると思うんです。
一方、細かいデータではないので、そういった解析に限界があるところがこの研究の問題点だと思います。
この研究の結論としては、変異があると死亡率が上がるというデータが出ているんですが、それと違うデータが the Lancet infectious Disease に出ています。
これも結構感染症界隈では有名な雑誌に載っているので、見ていきたいと思います。

Genomic characteristics and clinical effect of the emergent SARS-CoV-2 B.1.1.7 lineage in London, UK: a whole-genome sequencing and hospital-based cohort study
https://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099(21)00170-5/fulltext
出典:The LANCET Infections Diseases 2021/4/12

これは4月12日なので1週間ぐらい前に発表された研究です。
こちら側の論文では B.1.1.7 が死亡率を上げるわけではないというように結論付けられていますね。
研究の違いや結論の違いがどうして出てきているのかということをちょっとだけここから深掘りしていこうと思います。
こちらの研究はロンドンの2つの大学病院に入院した患者さんの PCR をやっていて、簡易検査ではなくちゃんと遺伝子解析までして、 B.1.1.7 かどうかを調べています。
それでこちらの研究では 496人のサンプルを取ってるんですが、その中で遺伝子解析までできたのが 341 人だけなんですね。
で、341 人のうち198人が B.1.1.7 で58%、143人が non-B.1.1.7 で42%ということで、すでに B.1.1.7 の方が若干多いとというようなサンプルのデータになっています。
その人たちの中でこの B.1.1.7 の有無による死亡率の比較を、多変量解析という方法を使って色々な他の背景因子も少し調節しながら調べています。
具体的には、入院した病院や性別、年齢、あるいは既往歴・持病の有無とか、そういうものを調節して、ウイルスの変異が死亡に与える影響を調べています。
この研究は変異があってもなくても死亡率には変わりがなかったという結論になっています。
この研究が先ほど言った BMJ の研究と結論が違うので、同じ結論になっていないのであればなぜそうなってるのかを考えることが非常に重要になってくるのですが、いくつかこの研究にポイントがあると僕は思っています。

まず1つ目が根本的にこの研究は入院患者だけを対象にしているんですね。
ということは、B.1.1.7 があると入院しやすいけど、入院した人の中で見たら死亡率は変わらないという可能性があるわけです。
入院患者における変異の有無と死亡率の関係を調べても、この変異が死亡率を上げるかどうかということがわからないということですね。
ここの部分、意図伝わりますでしょうか。

登壇者の先生方は分かって頂けると思うんですけれども、この研究では全感染者の中で変異のあるなしで死亡率を調べてるんではなくて、入院した患者さんの中だけで調べています。B.1.1.7 に感染した人は入院しやすいが、「一度入院してしまうくらいの重症度であったら、 変異があってもなくても死亡率が変わらない」という結論は、B.1.1.7 が死亡率が高いという事実と矛盾しないので、
先ほどの BMJ の研究と結論が矛盾していないというようなことが可能性としてあるというのがまず1点目です。

で、次にポイントになってくるのが、496人のサンプルを集めているんですけれども、そのうち遺伝子解析まで出来たのが341人なんですよね。
つまり、全サンプルの1/3ぐらいの遺伝子を調べられてないんです。
この遺伝子解析までできなかった人 155 人というのは、遺伝子解析までできた人と比べて死亡率がだいぶ低いんですよね。
例えば、その人のウイルス量が高いと、遺伝子解析がしやすいということがあるんだと思います。
そういうことを考えると、軽症かつ遺伝子解析までできなかった人が B.1.1.7 でない人が多い可能性があって、遺伝子解析までできた人の中だけで調べると、 B.1.1.7 と B.1.1.7 じゃない人で死亡率が同じぐらいでも、遺伝子解析できなかった軽症の人まで含めると結果が変わる可能性がありますよね。
これが疫学用語でいうところの「選択バイアス」ということです。
これはこの論文の中でも少し触れられていて、この全サンプルの約3分の1の遺伝子が解析されていなくて、かつその人たちが高い確率で B.1.1.7 ではないのではないか、というような疑問、研究上の問題点が指摘されているというのが2つ目です。

最後にですね、この論文に載っている生データを見ていくと、 B.1.1.7 変異がある人の 59歳以下の死亡率の方が 4倍ぐらい高そうなんですね。
60歳から 74歳のところは、逆に B.1.1.7 がない人の方がちょっとだけ死亡率が高くて、
75歳以上はトントンか、またはちょっと B.1.1.7 がある人の方が高いかな、というデータが出ています。
仮説として、この生データを見ると、59歳以下に限定したら B.1.1.7 変異のある方が死亡率が高いという結果になるだろうなと差が見て取れます。
症例数が少ないので何とも言えないところはあるんですけれども、若年者において B.1.1.7 変異があると死亡率が高いというような結論はあり得るのではないかなというデータになっています。
もちろん、どちらの研究がいいとか悪いとかいうような問題ではないんです。
こちらの研究は、先ほどの55,000人対55,000人の研究に比べて、Ct 値がどうだとかいうような細かいところまでデータを調べて研究しているので、こちらはこちらで別に価値があります。
ただ、2つの研究で違う結論になっている大きな理由として、この 3 点ぐらいあげられると思います。

まとめると
①入院した患者だけに限定している
②遺伝子まで調べられなかった人の中に B.1.1.7 変異がない人が多かったんじゃないかという疑いがあること
③若年者だけに限定すれば、結果が変わってくる可能性がある

この 3つが、この2つの研究で違う結論になった原因ではないかと僕は解釈しています。
2本の論文を読んだだけですが、この2つを総合して考えると、今のところは B.1.1.7 は、若年者の死亡率が上がる可能性があると考えた方が妥当ではないかという結論になりそうです。
以上から、この大阪で広がっている B.1.1.7 は若年者の死亡率を上げる可能性があって、実際大阪の ICU の半分以上が60歳未満になっているということが事実としてあるので、イギリスで見つかっている変異のウイルスに関しては若い人も重症化するリスクがあると考えて行動するべきではないかとお伝えしたいです。
というところでご登壇いただいてる先生方何かコメントいただけますでしょうか。

峰宗太郎
これもう一つ大事なことが隠れているんですけれども、これを言うと多くの論文を否定してしまうというか混乱させてしまうんですけど、B.1.1.7 ではないウイルスと比較しているわけですよね、 B.1.1.7 を。

木下喬弘
そうですね。

峰宗太郎
B.1.1.7 ではないもの、非 B.1.1.7 って1つの変異の系統ではないんですよ。
これも雑多なものが混じったものなんですね

木下喬弘
なるほどなるほど。

峰宗太郎
これはですね、 N501 を含んでいるかどうか含んでいないかだけを注目してる方もいるんですけど B.1.1.7 って少なくとも23箇所以上の変異が入っていて、どれが効いているか実はよくわかってないんですよね。で、そうするとですね、実はこれ背景として比べている非 B.1.1.7 の組成によって……組成というのは色んなものが混ざってますので、これ全てがナンセンスで何を比較しているのかわからないという議論もできるわけで、そこをですね、数理モデリングの人もわかってて無視しているみたいで、こういう論文を見る時もちょっと注意しなければいけないのは、非 B.1.1.7 の方も全部解析したんですか? ちゃんと変異 N501Y 以外にもあることを分かっていますか?ということを聞くと、やっぱり混乱すると思うんですけど、結果が変わる可能性があるんですよね。

木下喬弘
なるほど。
それは僕はよくわかったんですけど、要するに、この2つの論文は B.1.1.7 とその他雑多なものの比較で、その他雑多なものの中に N501Y の変異が入っているものとかもきっとあって、そうすると比較自体が何と何を比較しているのかというのが明確になってないということだと思います。
ちょっとだけ教えて欲しいのは、 BMJ の方は S gene のポジティブネガティブで見てるじゃないですか。

峰宗太郎
はい。見てます。

木下喬弘
これって N501Y に特異的な部分なんですか?

峰宗太郎
N501Y ではなかった気がしますね。ちょっとどこだったかちょっと今すぐ出てこないですけども、とにかく B.1.1.7 の S gene ですね。これのどれかが引っかかっちゃうということでしたね。何でしたっけ、ちょっと今すぐに出てこないです。

木下喬弘
ありがとうございます。
ドラえもんでも分からないことがあるということでちょっと逆に安心しました。
そうすると、特異的な変異の部分のあるなしで比べるというのは、ひょっとしたら逆にこっちの方がいいというか、意味合いとしては知りたいことに応えるデザインになっているのではと思ったんですが。いずれにせよ、峰先生がおっしゃったように、 B.1.1.7 以外というのがひとつの系統ではないので、何と何を比較しているかが難しく、B.1.1.7 変異が出る前に主要(dominant)であった、ウイルスだけを抽出して解析することが本来は必要ですね。

峰宗太郎
本当におっしゃるとおりなんです。
しかも実は N501Y を含む B.1.1.7 、これがイギリスで主流になる前も何回か主流の変異ウイルスって入れ替わってるんですよね。実は A1222V とかいくつかあってですね、そういうことを考えると結構やっぱり今回の現象としてすごく重要なのは、
まず伝播性、感染のしやすさですね。これが上がっているのはどのぐらい上がっているのかは分からないですけど、まぁ確からしいと。
それで、今Taka先生が紹介してくださったように、今流行している非 B.1.1.7 と比べると B.1.1.7 は重症化する可能性がちょっと高いんじゃないか、ということまでは言えます。しかし、厳密にウイルス学的にどの変異がどう効いて、実際にウイルス同士を天下一武道会みたいなことをするとどれが一番病毒性が高いのかとかっていう細かい比較はまだ全然できていないという段階にあるということも言えちゃうんですね。

木下喬弘
新型コロナウイルスは結構ダイナミックにずっと変異をしているので、どの時点でのウイルスと比較すればいいのかという問題が大きいわけですね。

峰宗太郎
今Taka先生が言ったことは、他のウイルスの遺伝学を研究している人も注目していて、日本で言うと第2波ってありましたよね。第2波の時って、確か日本中で第1波と違って重症者が少ないとかっていう話があったじゃないですか

木下喬弘
そうですね。

峰宗太郎
あの時は B.1.1.284 と言うまた別の系統が国内感染者の8割ぐらいを占めていたという結果も出ているんですよね。その時は B.1.1.284 は逆に重症化しにくいんじゃないかといわれていたように、場合によってはその伝播性、感染しやすさは高いけれども病毒性は弱いとか、病毒性は高いけれども感染性は強いとか、色々な組み合わせが出てくる可能性があります。変異ウイルスの置き換わり具合とかによってこれもまたダイナミックに変わってくる可能性ありますよね。

木下喬弘
ありがとうございます。
昨年の春先に比べるとだいぶ実は重症化率や死亡率は下がってるというデータは出ていて、治療の進歩、標準化でそうなっているという結論で喋っている医師も多いですよね。
しかし、この辺も実はウイルスの変異によって重症化率が変わっている可能性もあり、新型コロナウイルス感染症っていっても、単一の病態生理学的な性質を持ったウイルスではない可能性があって、結構難しい議論につながるかもしれないですね。

(沈黙)

木下喬弘
……はい。ということで、最後ちょっと私の微妙なコメントみたいな感じで(笑)

峰宗太郎
いやいやそうではなくて肉が焼けたのかが心配になってですね。

木下喬弘
50分やからまだあるんですわ、そこそこ時間が。

峰宗太郎
あーなるほど、じゃあ肉が焼けるまで耐久でいきますか。

木下喬弘
あと8分くらいで焼けますね(笑)
ありがとうございます。ほんまに途中で肉をひっくり返しながら Clubhouse を今日はやりきりました。ま、そんな感じですね、途中で入れましたけど、伝えたいメッセージとしては明確で、
B.1.1.7 の変異があると死亡率が上がる可能性があるということで、これはリスクコミュニケーションとしてはしっかり強調してもいいと思います。
繰り返しますけれども、今の時点でのこの大阪の感染者増をワクチンで何とかするというのは絶対に不可能なので、感染対策で減らすしかないです。
実際にかなり大阪の救命センターは危機的な状況にあるということで、かつ若年者であっても、比較的重症化率も高いと。
今まで去年の8月から今年の1月くらいまでに起きていた現象とは違うことが起こる可能性があるということを理解した上で行動を取る必要がある、ということが1番重要なポイントです。

はい、ということで、今日はこの辺でいいですかね、他の先生方。
……何かだいぶ人が減ってきて寂しくなってきたんですけど。
……登壇者の先生方もコメントがないようなので。

岡田玲緒奈
大丈夫でーす。

木下喬弘
ありがとうございます(笑)……ということで、今日は真面目にやる気を出して論文を2本ほど解説して、おそらくこの B.1.1.7 という変異があると死亡率が上がる可能性があるというところを結論にしたいと思います。
ご登壇いただいた先生方、どうもありがとうございました。
では、僕はステーキの焼きの作業に入ります。
それでは日本の皆様良い1日をお過ごしください。

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