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【食×本 読書録】"SIGNATURE DISHES THAT MATTER" シグネチャー・ディッシュ 食を変えた240皿

食文化を読み解き、言葉を綴る食作家を目指し、
智慧を育む本との出会い、読解をしたためます。

今回は、
"SIGNATURE DISHES THAT MATTER"
シグネチャー・ディッシュ 食を変えた240皿
です。

選者
スーザン・ジャング、ハウイー・カーン、クリスティーン・ムールク、パット・ノース、アンドレア・ペトリーニ、ディエゴ・サラザール、リチャード・ヴァインズ
日本語訳
目時能理子、廣幡晴菜、三瓶稀世、三本松里佳
監修
辻静雄料理教育研究所
イラスト
アドリアーノ・ランパッソ

本書は、人間が外食するレストランというものができてから300年以上の歴史のなかで、象徴的かつ多大な影響力を及ぼした料理を選んで、紹介するものである。世界最初のレストランから、今日の革新的なダイニング・シーンまで、あらゆる分野にわたって取り上げている。
国際的な食の専門家によって選ばれた200皿以上の料理の数々を記録した本書は、料理にまつわる物語とレシピ、さらに美食の進化の過程とレストラン文化がいかにして発展したかを追うことができる、貴重な1冊である。第一部は、それぞれの料理の美しいイラストと選者たちによる紹介文、第二部はレシピで構成されている。

ということで、2020年の8月に邦訳版が出版された、分厚く重く、気合いの入った本です。

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大型本でこの装丁!

1686年の"プロコピオ・クトのジェラート"から、2019年の"クリストフ・プレのリー・ド・ヴォーと海苔の天ぷら、出汁、ショウガのせん切り、キャビア添え"まで、時系列順に歴史に遺るひと皿240選が掲載されています。
この壮大なプロジェクトを実現するために描かれたイラストもまた愛らしく、想像を湧き立たせてくれます。

"シグネチャー・ディッシュ"を「名物料理」と訳語でいったん当てはめているものの、そこから派生していく言葉は、特別なひと皿への想いを尽くしたくて、言葉が次から次へと溢れてくる感じがあります。

個人的には、この240皿を読み解くなかで、
パンチラインは、"物乞いの財布"
好きなエピソードは"ビッグマック"
でした。

全世界の人びとを虜にしているビッグマックの「スペシャルソース」を調べるだけで何時間も費やしてしまいました。このソース、情報を調べれば調べるほど、なにが正しいのかわからなくなる。まったくもって興味深い。

この本を読み、考えを巡らすと、歴史と技術発展を経ていく過程のなか、ある接点に立ち合った稀代の人びとが目に見えるかたちで点を打った。そんな料理だと受け取れます。
そう思うと、この本は料理界での発明の歴史書であるとともに、発明を導く指南書でもある気がしてきます。

これらシグネチャー・ディッシュの選出者は、フードライターなどの美食家たちが主体なので、どちらかというと食べ手側の心象から評している記述が多いのも特徴です。

"どんな食べ物でも、食べ終わってしまえば、残るのは我々がシェアする物語だけだ。自分の胸にとどめておくならば、食べ物は一義的には、思い出で味付けされた栄養源である。我々がそれについて考え、語り、体験を共有するとき、はじめて食べ物は料理に変わる。"
-ミッチェル・デイヴィス
"我々が紙面で食について語るとき、その大部分は味と作用についてだ。
どの料理が特別な意味をもつのか見極めることが、決定的な瞬間に近づく一助となるのだ。"
ーハウイー・カーン

選出者の言葉はなるほどたしかに、と思うとともに、
作り手の立場からの言葉も響くものがあります。

「電球を発明したってわけじゃない。電球は前からそこにあった。私はソケットを取りつけただけさ」
ージム・デリガッティ

おそらく、私はここに掲載されている240皿のほとんどを食べられず人生を終えてしまうでしょう。
しかしながら、ここで描かれている240皿の物語、この本を経て思う、食について、より特別な意味合いが深まった気がしています。
少なくとも、無思考に食事をすることはないだろう、と。

そして、目の前にある電球に手をのばし、それに合うソケットを探す旅をこれからも続けていきたいと思います。

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