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【音楽×本 鑑賞録】"366日の西洋音楽" 1月27日~フレデリック・ショパン 『練習曲集』作品10より「別れの曲」

音楽観を鍛える鑑賞録。
1月27日 本日のテーマは、
【周辺】
とりあげる作品は、
フレデリック・ショパン /
『練習曲集』作品10より「別れの曲」
です。

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このnote鑑賞録でショパンを扱うのは初ですね。
知らぬ者はいないであろう名曲中の名曲だけに、鑑賞をどう綴ればよいだろうかと、さまざまなシーンでさまざまなアーティストの演奏を聴いてみる。

この楽曲はフレデリック・ショパンが1832年にピアノのための練習曲としてつくられたもので、西欧においては「Tristesse」(悲しみ)の愛称で知られています。フランス語圏では「L'intimité」(親密、内密)、英語圏で「Farewell」「L'Adieu」(別れ、別離)と呼ばれることもあるそうです。
日本では、「別れの曲」という名で広く知られていますね。

そしてこの楽曲、テンポ指定が、ニューヨークのレーマン・コレクションの自筆譜ではVivace(活発に)、ワルシャワのショパン博物館の自筆譜ではVivace ma non troppo(活発に、しかし過度にならずに)、出版の際にショパンがLento ma no troppo(ゆっくりと、しかし過度にならずに)に変更したそうです。

この変更の推移から、練習曲としてたくさん弾いて聴いていくうちに、この楽曲にふさわしいテンポというのが、ショパンのなかに見出されていったということでしょう。
そして、ショパンの弟子の一人であったアドルフ・グートマンにこの曲をレッスンした際、

"O, me patrie!"
「あぁ、わたしの故国よ!」

と叫んでしまった気持ち。
この感慨は、いま、よくわかる気がしています。
どういうことかというと、
この楽曲は「時代と環境に応じた個人の世界観が映し出される」からです。

現代を生きるわたしたちにとっては、生まれる前から聴いていたかもしれない楽曲であり、幼少期も、青春期も、青年期も、壮年期も、高齢期も、聴く機会があるものです。
その時々で、美しいメロディの部分でセレンディピティを見出そうとしてしまう。激しい部分でも、重層感のある思い出を見出そうとしてしまう。
この楽曲自体もコンテクストがあり、メディアで取り上げられる場合でも、「いまなぜこの楽曲なのか?」という理由が必ずある。
歴史と文脈が複雑にあいまり、まるで"カチッサー効果"とでもいうべき情動を直で刺激する。
そういった楽曲を扱えば、演者も視聴者にとっても千差万別の音楽になっていく。
たくさんのピアニストが弾く「別れの曲」を聴いてみましたが、すべてが違ってすべてが感慨深い。どれも情感に溢れるもので、そこで演奏されるコンテクストも読み解きたくなります。

数多くの名曲を手がけたショパン自身にして言わしめた、

"In all my life I have never again been able to find such a beautiful melody."
「一生のうち二度とこんなに美しい旋律を見つけることはできないだろう」
- Frederic Chopin

という自画自賛にぐぅの音もでない。
そして説得力が時を経るごとにどんどん増していく。
また機会のあるときに改めて聴けば、違った景色をこの楽曲は観せてくれるでしょう。

こんな永遠性を伴った楽曲、アートをアーティストは目指してしまう。
それは過酷な道でもありながら、そうした想いが時代の風雪に耐えうるマスターピースを生むのだと思います。
わたしたちはその積算を受けてどう生きるかを問われています。
多くのアーティストの歴史を踏襲しておいて、豊かさを享受できていないとしたら、それは道を間違っていると、あえて言わざるをえません。

昨日、ジョン・ケージで深掘りした際にみつけた言葉が思い返されたので引用します。

Good music can act as a guide to good living.
「よい音楽はよい生活を導くガイドとして機能する。」
-John Cage

こういった音楽をたくさん育んでいきたいものですね。

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