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ポジティブアプローチとリーダーシップの関係 ~書籍『ストレングスベースのリーダーシップコーチング』(2)

こんにちは。紀藤です。本記事にお越しいただきありがとうございます。
さて、本日は「ストレングスベースのリーダーシップ・コーチング」をテーマにした書籍をご紹介したいと思います。今回は前回の続きとなります。

前回のお話はこちら↓↓


第一章:組織におけるストレングスベースのアプローチの紹介(続き)

この章では「ポジティブ心理学の歴史」「リーダーシップ理論の話」「ポジティブなアプローチとリーダーシップのつながり」について書かれています。ややマニアックなのですが、リーダーシップや、ポジティブアプローチの背景を紐解く、なかなか興味深い旅路です。よろしければお付き合い下さい!

リーダーシップにまつわるお話

現代のリーダーシップ開発の課題

さて、リーダーシップ研究も長い歴史がありますが、その中で「リーダーシップ開発の現代の課題」とされていることがあり、それらを整理していました。以下3点です。

1,「リーダーシップ開発に裏付けがない」問題。
リーダーシップ開発には米国だけでも年間500億ドル費やされていると言われるそう(!)です(Bolden2007)。それにも関わらず、多くのリーダーシップ開発のプログラムには、実質的なエビデンスやリーダーシップ理論の裏付けがない(Briner,2012)とのこと・・・。つまり、なんとなくリーダーシップ開発をしている、というのが現状のようです(汗)

2,「どのようなリーダーシップ開発が効果的かわからない」問題。
大半のリーダーシップ開発のコースでは、色んなコンテンツ(モジュール)が組み合わされて届けられます。それは、「一般的に効果的な要素」と「個人個人に合わせた要素」を、複数の組み合わせた異種混合のアプローチが取られている事が多いのです。しかし、その結果、リーダーシップ開発プログラムのコンテンツやプロセスが広がってしまい、どのリーダーシップ開発の要素が効果的なのかわからなくなってしまうという課題があるようす。
 加えていうと、リーダーシップ開発プログラムを評価する有効な測定項目のデータが不十分であるため、最大の効果をもたらす要素を選択することが不可能に近い、とのこと。うーん、悩ましいですね。

3,「リーダーシップ理論が実践から切り離されている」問題。
リーダーシップには様々な理論があります。たとえば、リーダーシップ特性理論、リーダーを取り巻く状況に着目したコンティンジェンシー理論(シチュエーショナルリーダーシップなど)、変革型リーダーシップ理論、オーセンティックリーダーシップなどなど…。長い道のりを歩んできたものの、それは学術的な環境で行われており、現場との乖離があります。それらが現場で実証されていない流行やトレンドの拡散を助長している、とのこと。言われてみると、なるほど確かに、、、と思わされます。

リーダーシップ行動の進化

次に、少し別角度からの視点で、こんなお話もありました。それは、『人類の「進化論」的な観点からのリーダーシップ』を考えることが、リーダーシップをより広く理解することに役立つのでは? とのこと。さて、これはどういうことでしょう。以下、その内容を見てみましょう。

1,「人類」としてのリーダーシップの進化を考える
まず「進化モデル」という考えのもとでは、「リーダーシップ行動は適応上の問題を解決するために進化した」と考えます。

しかし、人類学的な証拠は、人類が狩猟採集時代には、強い平等主義でした。つまり、私たち人類の種の歴史の大半は「平等主義的な狩猟生活を送ってきた」わけです。しかし、現在、このようなリーダーシップ開発の流れが来ている。これは、人類が適応するために求められてきている新しい動きと考えることもできる、というわけです。
 こうした、企業におけるリーダーシップはごく最近生まれた動きである、という視点を持つことで、リーダーシップとは、人にとってどういうものなのか?という教養的な見方も可能にします。

2,「リーダーシップ理論」の進化・発展
物事の進化・発展は、「単純なものから複雑なものに進む」という一般的な傾向があります。そして、リーダーシップもまさにそう。特性論から、変革型リーダーシップのような複数の能力を表現するモデルへ移行してきました。
 モデルの進化は、“リーダーシップ開発”の焦点を、スキル開発→エンパワーメント→コラボレーションへとフォーカスを変えてきており、リーダーシップを発揮する対象者も“特定のリーダー”→“分散して共有されるリーダーシップ”へと変化している傾向がある(Crevani, Lindgren and Packendorff 2010)とします。

3、「リーダーシップは個人が生きている間に進化」する

例えば、リーダーは組織の階層を上がっていくにつれて、特定の能力が開発されていきます。
 ちなみに、”個人の能力が開発されていく”としたことも、『才能のエピジェネティクス』という考え方が背景にあります。 かつて「才能は生まれもってのもの(遺伝)なのか、それとも作られたもの(環境)か?」という議論がありました。もし、リーダーシップも「それは生まれ持っての性格だよね」と言ってしまったら、当然、開発するという発想ではなくなくなります。この疑問に対して、現在は、遺伝or環境というこ二分法ではなくて、より総合的かつ複雑なアプローチを提案しています(Clutterbuck、2012)。
 具体的には、「才能のエピジェネティックス』(エピジェネティクス=遺伝子の発現を変化させるために、何が遺伝子にスイッチを入れたり切ったりするのかを研究する学問。遺伝子をオン・オフにする環境要因には、食事、薬物、加齢、ストレスなどがある)という考えです。
 つまり遺伝子は運命ではなく、才能のある人も環境によっては才能が抑制されるし、逆にエピジェネティクスな操作で増幅される可能性もある。こうした考えも背景にあり、リーダーシップも採用ではなく開発ができるもの、という考えになったそうです。(Meyers ea al, 2013)

なるほど、、、これも教養的な観点から見ると、視点が広がて面白いですね。

ポジティブアプローチとリーダーシップ

次に、リーダーシップとポジティブ心理学のアプローチの繋がり、可能性について述べています。

ポジティブアプローチは流行では終わらない

さて、マズロー、セリグマンらは人間の強みに焦点を当てることを提唱していたものの、行動主義的に、実証実験などで証明することに苦戦していました。しかし著者らは、ポジティブアプローチが流行で終わらない、持続するものとしての理由を、以下3つ述べています。

1、ポジティブアプローチは、変革型リーダーシップのような既存モデル、オーセンティック・リーダーシップのような新しいモデルの両方から理論的に裏付けられている 
2、ポジティブリーダーシップは、既存のリーダーシップ開発の文献と統合されている
3、ポジティブアプローチの研究はポジティブ・リーダーシップ介入の要素を引き出すために、経験的に検証されている

また、ポジティブリーダーシップモデルは、ポジティブ組織心理学の2つの異なる分野(ポジティブ組織研究とポジティブ組織行動)の両面に紐付けられていることも加えています。

ポジティブ・リーダーシップ・アプローチの4つの要素

さて、ポジティブ・リーダーシップというストレングスベースのアプローチも含む大きな概念に触れてきていますが、ポジティブリーダーシップと呼ぶためには、以下の4つの要素が含まれていることを定義づけています。

<ポジティブ・リーダーシップ・アプローチの4つの要素>
1、リーダーの個人的、状況的な強みに焦点を当てる必要がある
・リーダーのピークパフォーマンスとそれを支える資質を理解する。変化と発展が可能であるという成長マインドが加わる

2、リーダーの周囲の人々にポジティブな影響を与える必要がある
・リーダーシップは関係性のあるプロセスであり、恩恵は個人に留まるものではない

3、ポジティブな影響は、組織の目標に意味のある向上に繋がる必要がある
・フォロワーのさらなる努力、組織パフォーマンス向上等。生産性を高めるなど。

4、ポジティブ・リーダーシップの目的は自己超越的なものである
・個人的な利益のために他者を操作するような強制的なものではない。

リーダーシップ開発におけるストレングスベースのアプローチ

さて、更に焦点をしぼって、そのようなポジティブアプローチの中の、「ストレングスベースのリーダーシップ開発」について3つの理論的根拠があると述べています。それが以下の3つです。

●「ストレングスベースのリーダーシップ開発」について3つの理論的根拠

1)強みに焦点を与えることで、欠点を減らすリーダーシップ開発を改善しようとしている(Luthans and Avolio,2003)

2)メタ分析により、現在のリーダーシップモデルでは有意な量の分散を説明できないことが示されている。 更に多くの重要な変数が発見されることが示唆されている(Avolio et al,2009)

3)ストレングスベースのアプローチの実践者の適用は、研究の証拠よりも先に進んでいる(つまり、まだ見つかっていない重要なリーダーシップ開発の変数がストレングスベースのやり方の中に眠っているだろう、と示唆されている)

●ストレングスベースのリーダーシップの利点
また、次にストレングスベースのリーダーシップがもたらす価値についても述べています。以下4点です。

1)ストレングスベースのリーダーシップは、より平等で参加型のアプローチである。
2)従業員の育成と定着に貢献する。
3)ストレングスベースのアプローチは、リーダーやリーダーシップ開発に加えて、フォロワーのエンゲージメントや心理的資本の開発にも役立ち、結果的にパフォーマンスを向上させる(Van Woerkom and Meyers,2014)
4)ストレングスベースのアプローチは、すべての従業員が自分の強みを認識し、組織のニーズに合わせ、リーダーシップ能力を身につけることを支援することで、従業員の労働生活と効果を高めることができる。

とのこと。こうしたポジティブアプローチとは?、その中のストレングスべースのアプローチとは?、その定義や利点、背景はとすると、より何を意味しているのかが明確になるように思います。

ポジティブアプローチとコーチング

さて最後に、コーチングとポジティブ心理学の繋がりについても述べています。

コーチングとポジティブ心理学

コーチングとポジティブ心理学は、相互に互換性があると指摘されています。曰く、コーチングはポジティブ心理学を応用したものであり、理論的にポジティブな構成要素を行動に移すためのメカニズムであると考えられている(Freire,2013)とのこと。

コーチングとポジティブ心理学は、以下の前提を共有しているます。

1)ポジティブなものに焦点を当てる
2)人は学びたいものだという信念がある
3)個人は自分自身の中に課題の解決策を持っている


ここからポジティブ心理学の3つの柱である、「喜び」「関与」「意味」の開発に焦点を当てたコーチングモデルが生まれた(Kauffman,2006)としています。

また、コーチングも以前は、自己探求をするための枠組みに過ぎなかったが、現在では、リーダーシップ・コーチングをはじめとするコーチングの専門モデルが登場しており、コーチに専門知識を要求し、より指示的なアプローチをとることができるようになっている(Elliott,2011)という変化もあると述べます。コーチングはその後、ポジティブなリーダーシップ開発の一端を担うようになっている、とのこと。

まとめ

ややマニアックなまとめになっていますが、「ポジティブアプローチ(ストレングス)」「リーダーシップ」「コーチング」の概念の、今日にいたる背景や、それぞれの概念同士の繋がりを丁寧に紐解くことで、より広い視点からこの分野を捉える事ができるようになる、と感じます。この章のまとめでは、

1)ポジティブ・リーダーシップ開発は現代の課題に対処するためのいくつかの処方箋になりえる。 
2)理論と証拠に基づくアプローチの提供ができる。
3)リーダーシップ開発における欠陥に焦点を当てたアプローチに対して違った見方を提供できる

と述べており、ここからより実践的・応用的な話に展開されていきますが、実に楽しみだな、と思いました。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!


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