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森がみたいんです。 〜ジョブ・クラフティングや組織社会化などの「全体像」の調べ方〜

こんにちは。紀藤です。今週末に卒業した大学院にて「論文の読み方・調べ方講座」なるものを行わせていただくことになりました。

経緯は「強み論文100本ノック」で感じた論文のまとめ方について、大学院向けの有志の勉強会として開催したものをnoteの記事にまとめたところ、note注目記事に取り上げられ、先生が見ていただいたようで、大学院1年次向けに実施してみてはどうか?となったとのこと。
そして、なんと大学院の講座の一コマになるという予想外の展開となりました(何があるかわからないものです)。

こうした機会をいただけることは、経験として大変ありがたいもの。ですので、もちろん自分なりにお伝えできることは全部お伝えしたい、と思っています。

そんな中、「組織行動における特定の領域の全体像を知る」上で、いい方法があるよね!と大学院の同期と盛り上がることがありました。

マニアックな話になりそうですが、今日はそのお話についてお伝えしたいと思います。


「論文・文献のマッピング」のイメージ

「組織行動」の分野において、ある領域を探索するには、色々な「登り方」があると感じます。

たとえば、「論文」を一つずつ読み進めて行くやり方もあります。過去のその分野における研究を一つずつたどっていく、つまり「木」を一つずつ見ていきながら、全体像を構築してく方法もあります。(ちなみに論文には定量調査の論文と、定性調査の論文があります)

しかし、論文を一つずつ集めて全体像を知るのは、結構大変です。木を一本ずつみて森ってこういう感じね、というのは地図界のレジェンド・伊能忠敬のように足で探索する如きもの。としたときにもう少し俯瞰してみるためは「レビュー論文」等で、これまでの研究を専門家が概観したもの、特定の基準で収集・評価してまとめたものを見ることが役に立ちます。

もっと言えば、ある程度深まっている領域であれば、そのテーマの「単著(専門書)」が存在しています。たとえば、『ワークエンゲージメント -基本理論と研究のためのハンドブック‐『ジョブ・クラフティング: 仕事の自律的再創造に向けた理論的・実践的アプローチ』などの本は、それらに該当します。
 その領域、ワーク・エンゲージメントやジョブ・クラフティングに関する理論やモデルの全体像を示して頂いており、大変有用であり、全体像を理解するために役立ちますが、一方結構重厚なので、読み終えるのも一苦労です。(偉そうにいう私も何冊も、途中で終了している汗)

上記でお伝えした「論文・文献のマッピング」を全体イメージにすると、こんな感じかと思います(私の見解です)。

博士論文をまとめた「単著」が狙いどころ

さて、組織行動における特定領域の探索の方法として、別の観点からもないだろうか?なんて話を、与太話的に大学院の動機としていました。

すると、私が「論文の帝王」と崇めている大学院の仲間が、こんなコメントをくれました。

「ワークエンゲージメントとか、確かにまとまってるけど、ちょっとハードル高いよね。厚いし、読むのは結構大変よね。そういう意味では、「単著(専門書)」でも「博士論文をまとめた系の単著」の先行研究まとめパートとか、全体像を掴むのはいいよね」

とのこと。そして、この話を聞いて「確かに!」と膝を打ったのでした。

「博士論文をまとめた系の単著(専門書)」とは、そのテーマ全体をまとめたわけではなく、それよりもやや狭い領域についていくつかの論文からの示唆をまとめた著書と定義します。たとえば、以下の著書などが例です。

(1)『シニアと職場をつなぐ: ジョブ・クラフティングの実践』岸田 泰則 (著)

この著書は、シニアを対象にしたジョブクラフティング研究をテーマにした単著ですが、この中の「第3章 先行研究のまとめ」に、ジョブクラフティングのこれまでの研究が40ページ程度で凝縮して概観しています。章の見出しは以下の通りです。

第3章 ジョブ・クラフティングの先行研究
 1.ジョブ・クラフティングとは何か
  (1)Wrzesniewski and Dutton(2001)のジョブ・クラフティング研究
   / (2)JD-Rモデルに依拠するジョブ・クラフティング研究
   / (3)ジョブ・クラフティング研究の統合の試み
 2.ジョブ・クラフティングの先行要因とアウトカム
  (1)ジョブ・クラフティングの先行要因 / (2)ジョブ・クラフティングのアウトカム
 3.ジョブ・クラフティングとその類似概念との比較
  (1)プロアクティブ行動との比較 / (2)キャリア概念との比較
   / (3)ジョブ・デザインやI-dealsとの比較 / (4)ジョブ・クラフティングと類似概念の相違点
   / (5)ジョブ・クラフティングの派生概念
 4.日本におけるジョブ・クラフティング研究
  (1)日本におけるジョブ・クラフティング研究の意義
   / (2)日本のジョブ・クラフティングの量的研究 / (3)日本のジョブ・クラフティングの質的研究
   / (4)日本におけるジョブ・クラフティングの介入研究
 5.メタ分析の先行研究
  (1)量的研究のメタ分析の先行研究 / (2)質的研究のメタ分析の先行研究
 6.先行研究における課題としての縮小的ジョブ・クラフティング
 7.シニアのジョブ・クラフティング研究
 8.ジョブ・クラフティング研究のまとめ

目次より

ジョブクラフティングの理論の本を読むと、長くて、全部理解するのが大変。しかし、こうした単著の先行研究の章を読むことで、「全体像を専門的にかつ”効率的に”理解することができる」と感じます。

(2)『若年就業者の組織適応: リアリティ・ショックからの成長』尾形 真実哉 (著)


その他のテーマで「組織社会化」に関して言えば、このような著書もあります。この著書の場合は、著書の最終章に「補論 組織社会化研究を概観する」というタイトルで50ページで全体像をまとめられています。こちらも、組織社会化の研究について、これまでの歴史がわかり、効率的に全体像を理解することを助けてくれます。

まとめ

本日は論文の読み方の補足として、「単著の使い方のヒント」をお伝えいたしました。私も偉そうにいいながら、まだまだ読めていません(積読状態)。それでも、こうした視点があると、限られた時間で、どこから・何から読み進めるのかに優先順位をつける事ができるとも感じます。

また上記の章については、自分なりに引用させていただきつつ、まとめていきたいと思った次第です。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!


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