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2週間で楽観性を高める方法 ~「最高の自分」をイメージするエクササイズ~

こんにちは。紀藤です。本記事にお越し下さり、ありがとうございます。
本日も「強み」に関連する論文の紹介です。

強みには「希望」「ポジティブ」「楽観主義」などの言葉が含まれることがありますが、その有用性を示す論文と言えるかと思います。それでは早速まいりましょう!

今日の論文

Become more optimistic by imagining a best possible self: Effects of a two week intervention(最高の自己を想像することでより楽観的になる:2週間の介入の効果)
Journal of Behavior Therapy and Experimental Psychiatry, 2011年
Yvo M.C. Meevissen, Hugo J.E.M. Alberts


30秒でわかる論文のポイント

  • 楽観主義は、未来にポジティブな期待を持つことが心理的・身体的な健康に良い影響を与えるとされています。

  • この研究では、BPS技法(Best Possible Selfのイメージング)を用いて楽観主義を高めることを目的としました。

  • 具体的には、54名の大学生が2週間、1日5分間のイメージングを実施しました。その結果として、BPSイメージングは日常活動イメージングよりも楽観主義を大幅に向上させました。

  • この効果は気分の変化に依存せず、独立して確認されました。

「楽観主義」の先行研究

「楽観主義」がもたらす効果には、様々な物があることが知られています。
たとえば、以下の4つがあります

1,心理的健康の向上(ネガティブな出来事やストレスに対して高い回復力がある)
2,身体的健康の向上(心血管系疾患の進行を遅らせる、病気や手術後の回復が早い)
3,ポジティブな気分と回復力(困難に直面しても回復力が早い、積極的に問題解決に取り組む)
4,説明スタイル(ポジティブな影響を内的・永続的な要因に帰属させ、ネガティブな出来事を外的・一時的要因に帰属させるため、ネガティブの影響が少ない)

などです。こうした楽観主義に関する先行研究として、以下のようなものが紹介されています。

●Scheier & Carver (1986, 1992)「楽観主義と身体的健康の関係に関する初期の研究」
 楽観主義の研究の初期において、Scheier & Carverは楽観主義が心理的および身体的健康に与える影響を探る重要な研究を行いました。彼らは、楽観主義がストレスを軽減し、健康維持に重要な役割を果たすことを指摘しました。また、楽観主義者は自己効力感や積極的な問題解決に関連した高いレベルの自尊心を持つ傾向があると述べています​。

Lyubomirsky et al. (2006)「楽観主義と自尊心、幸福感の関係」
 楽観主義と自尊心の関係を示す研究で、Lyubomirskyらは、楽観主義者がポジティブな感情や幸福感を経験する頻度が高いことを発見しました。楽観主義者は、ネガティブな状況でもより迅速に立ち直り、ポジティブな気分を取り戻す能力があることが強調されています​。

Matthews et al. (2004)「楽観主義が心血管疾患に与える影響」
 この研究では、楽観主義者が心血管疾患の進行を遅らせるという結果が示されました。特に中年女性において、楽観的な態度が健康維持にどのように寄与しているかを探り、楽観主義が身体的健康に対する保護効果を持つ可能性があることが示されています​。

そして、今回の研究では、Peters ら(2010)の楽観主義を高めるための介入研究である「最高の自己」(Best Possible Self, BPS)技法を用いて、楽観主義がどのように変化するかを実験群と対照群でわけて行いました。

「最高の自己イメージング」のやり方

では、最高の自己(Best Possible Self:BPS)イメージングとは、どのように行うのでしょうか? 以下、本論文に基づいたBPSイメージングの具体的な手順をまとめます。

<最高の自己(Best Possible Self:BPS)イメージングの手順>

1)準備
・目的の説明:  BPSイメージングの目的は、未来の自分が最高の状態であることを想像し、そのポジティブな未来を具現化することです。これは、ポジティブな感情を高め、未来に対する期待を前向きにする効果があります。
・必要な時間: イメージングは毎日5分間行います。理想的には2週間継続します。

2)イメージング内容を作成する
BPSイメージングでは、未来の自分が以下の3つの重要な領域で最高の状態にあることを想像します。
*個人的な領域(Personal domain)
 自分の心理的・身体的な成長やスキル向上を想像します。例えば、「心身ともに健康で、自己成長を遂げている未来の自分」を具体的に描きます。
*対人関係の領域(Relational domain)
 家族、友人、同僚などとの関係が理想的な状態である未来の自分を想像します。良好なコミュニケーションや強い絆を持った自分を思い描きます。
*職業的な領域(Professional domain)
 仕事やキャリアにおける成功や成就を想像します。理想的な職業や役割に就き、自己実現を達成している自分をイメージします。

3)文章化する
・各領域について「未来の私は…」という形で、ポジティブな結果を達成した理想の自分を文章で書き出します。例えば、「未来の私は健康的な生活を送り、精神的に充実している」や「未来の私は素晴らしい友人関係を築き、サポートし合っている」といった内容です。
・ポジティブな未来を描くため、ネガティブな現在の状況を強調しないように注意します。現状に欠けているものを考えるのではなく、理想的な将来の状態を具体的に描写します。

4)ストーリーを作成する
・作成した各領域の内容を1つにまとめ、理想の未来についての詳細で一貫したストーリーを書きます。このストーリーは、あなたの目標やスキル、望む結果を反映させたものです。

5)イメージングの練習をする
・ストーリーを書き終えたら、その内容を元にして毎日5分間イメージングを行います。
・感情を活性化: イメージング中は、視覚的なイメージだけでなく、未来の自分がどのような感情を感じているかを意識します。例えば、成功したときの喜びや、良好な人間関係に対する安心感など、ポジティブな感情に焦点を当てます。

6)継続する
・これを2週間継続して行います。毎日5分間のイメージングを実施し、理想の未来を強く意識し続けることで、ポジティブな未来予期を促進し、楽観主義を向上させることが期待されます。

実践のポイント>
・ポジティブな内容を強調する:現在の問題やネガティブな要素には焦点を当てず、未来の自分がどのようにして成功し、成長しているかを具体的にイメージします。
・リアルな未来を想像する:イメージングは現実的な範囲で行い、達成可能な目標を設定します。これにより、未来の自分に向かう道筋が明確になります。

研究の概要

さて、上記のBPSイメージングの介入効果がどのようなものだったのかが、本論文のメインテーマとなります。以下、本研究の対象者と方法についてです。

●対象者
・54名のオランダ語を話す大学生

●研究方法
・実験群(最高の自己(Best Possible Self, BPS))と対照群(日常活動のイメージング)に分け、2週間にわたり1日5分間のイメージングを行った。

●測定尺度
・楽観主義: Life Orientation Test (LOT)【Scheier & Carver, 1985】
・未来予期: Subjective Probability Task (SPT)【MacLeod, 1996】
・説明スタイル: Attributional Style Questionnaire (ASQ)【Seligman et al., 1979】
・気分(ポジティブ/ネガティブ): Positive and Negative Affect Schedule (PANAS)【Mackinnon et al., 1999】
・神経症傾向: Neuroticism Scale of the Eysenck Personality Questionnaire (EPQ-N)【Eysenck & Eysenck, 1985】
・モチベーション: Self-Concordance Motivation (SCM) Questionnaire【Sheldon & Elliot, 1999】

●効果測定の方法
合計4回で、上記の測定尺度についてアンケート調査を行い、実験群と対照群で比較を行った。
1,最初のセッション前(ベースライン測定)
2,1回目のイメージング後
3,1週間後
4、2週間後(最終測定)

研究の結果

わかったこと1:実験群(BPSイメージング)は、「楽観主義」が高まった

ベースライン、1週間後、2週間後の「楽観主義: Life Orientation Test (LOT)」が、対照群に比べて実験群(BPSイメージングをしたグループ)は有意に高まりました。

「楽観主義: Life Orientation Test (LOT)

わかったこと2:実験群は、「未来予期」がポジティブとなる傾向が見られた

ベースライン、1週間後、2週間後の「未来予期: Subjective Probability Task (SPT)」が、対照群に比べて実験群(BPSイメージングをしたグループ)は有意に高まりました。

未来予期: Subjective Probability Task (SPT)

わかったこと3:実験群は、「ポジティブな気分」が高まった

ベースライン、1週間後、2週間後の「ポジティブ/ネガティブな気分: Positive and Negative Affect Schedule (PANAS)」において、ポジティブな気分が高まる傾向が見られました。

まとめと個人的感想

その他、説明スタイル: Attributional Style Questionnaire (ASQ)についても、実験群は2週間後まで有意に高まっています。

ということで、総じて「最高の自己(BPS)イメージング」の介入は「楽観主義を高め、ポジティブな感情も増加させる」ということが言えたのが本研究の結果となりました。

ただ、研究の限界として、「今回の参加者(54人)は高学歴の若い女性」であったことが挙げられています。女性のほうが視覚イメージがしやすいこと、また高学歴の人は将来に対してBPSを達成する可能性があるため、そうではない人(低学歴・男性・年齢が高い)に比べ、遥かに容易であった可能性がある、と述べられています。

この研究の続きについては、また別の論文で「BPSのレビュー論文」が存在しているため、後日また読み解いてみたいと思います。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!


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