「サクセスフル・エイジング」に役立つジョブ・クラフティング 3つの特徴 ~読書レビュー『ジョブ・クラフティング』#10~
こんにちは。紀藤です。本日も著書『ジョブ・クラフティング』について、読書レビューをお届けいたします。
本日のテーマは「シニア労働者のジョブ・クラフティング(第11章より)」です。
シニアの働き方の話題は、近年ますます目にするようになりました。
70歳現役社会の到来!などと言われる中で、シニアが働くことはますます求められています。
そして、今回のお話ではジョブ・クラフティングが「サクセスフル・エイジング(=幸福な老い)」に寄与するとし、そのメカニズムを理論を含めて考察した章となります。
読みながら「年を重ねても、もっともっと働き続けられそう!」と希望やワクワクを感じる内容でした。ということで、早速みてまいりましょう。
シニア労働者を取り巻く環境
日常のワンシーンと化した「高齢化社会の到来」なる話。
労働環境では「職業生活の長期化」につながりました。
法律の改定により、高齢者の雇用義務化も進み、60歳代前半の就業率は上昇しました。しかし、現役時代と同じ仕事なのに、賃金や待遇の低下も起こっています。
上場企業にて60歳で再雇用をされた私の知人は、「全く同じ仕事なのに、ある日から急に給与が1/3になったんですよ・・・」と呟いていました。
それはモチベーションの低下を招き、その方は結局退職をされました。
こうした日本のシニア雇用の現状は「福祉的雇用」(今野, 2014)とも呼ばれているそう。役割が曖昧で、モチベーションの低下も起こしやすい。
こうした、シニア労働者の特徴として「昇進の可能性が非常に低い」、再雇用の場合「役割が曖昧なままである」「再雇用で仕事をしても賃金や処遇が低下する」「職場の関係性が難しくなる」などが挙げられます。
それらの要因は、モチベーションを低下させ、生産性低下、波及的に組織の士気低下にもつながる可能性があると指摘されています。
ジョブ・クラフティングの代表的な考え方
さて、その中で、シニアのジョブ・クラフティング(以下JC)は「加齢のプロセスに応じた仕事や個人内の変化を、継続的に変化をさせていくこと」が特徴です。
そんなJCは「仕事におけるサクセスフル・エイジング」に寄与するとされます。(ちなみに「仕事におけるサクセスフルエイジング」とは、「働き続けるための高いレベルの能力とモチベーションの積極的なメンテナンス、あるいは衰退からの適応的な回復」(Kooij ea al., 2020)と定義されます)
シニアにはまた特有のJCがあるとされていますが、その前に、ジョブ・クラフティング(以下JC)の基本的な考え方をおさらいしておきます。
ここでは2つ紹介いたします。
1つ目が、ジョブ・クラフティングは、快なことを追求するJC・利得に接近するJCとして「接近ジョブ・クラフティング」と、不快なことを避けるJC・損失を回避するJC「回避ジョブ・クラフティング」にわけることができる、という考え方。(ちなみにこれは『制御焦点理論(Regulatory Focus Theory)』(Higgins, 1997,1998)という考え方から来ています)
そして2つ目が、ジョブ・クラフティングの先行研究では「『仕事の要求』と『仕事の資源』を調整する方法」という定義です。
つまり、仕事を自分の好みに変えるために『仕事の要求』(仕事のプレッシャー、情緒的負担、認知的負担、身体的負担など)を減らしたり、逆に『仕事の資源』(自律性・フィードバック・社会的支援:上司のコーチング)(個人資源として、楽観性・自己効力感・レジリエンス・自尊心)などを高める、などです。
こうした仕事の要求を遠ざけたり、近づけたり、仕事の資源を増やしたり、減らしたりすることで、仕事をより望ましいものにしていく、となります。
シニア労働者のジョブ・クラフティングの特徴
そして、ジョブ・クラフティング(以下JC)の考え方の中で、シニア労働者に特有のJCとして、以下の3つがあることが述べられています。
年齢を重ねることで、喪失体験が増えていく中で、なぜシニアが老いをポジティブに肯定しているか? この問いに応える「選択的最適化理論(SOC理論)」という理論をベースとしJCが、この3つです。
もう少し詳しく解説します。
まず「1,調節JC」は、個人の資源の喪失を緩和、調節することを目的として行われるものです。身体的、認知的、感情的、量的な仕事の要求を減らすことで、個人の資源を過剰に使わないように調節します。
「2,発達JC」は、個人の資源を成長させ、最適化を図ります。個人の資源(ここでは興味、強み、能力、知識、スキルなどを指す)を活用し、発達の機会を創り、新しいスキルや成長の可能性を広げます。
「3、利用JC」は、個人の資源の喪失を補うために、個人の資源を有効活用することです。これまで得た仕事の知識、スキル、興味を活かします。
こうした3つのJCを行うことで、シニアはモチベーションを向上させ、アイデンティティを維持することができる、とされています。
ジョブ・クラフティングの先行要因
ここから、更に深ぼっていきます。まず、シニア労働者のジョブ・クラフティング(以下JC)の先行要因です。以下、整理いたします。
※ちなみに、主観的年齢とJCの関係は、『社会情動選択制理論(SST理論)』(Nagy et al. 2019)で説明ができます。
SST理論とは、職業的未来時間展望(これからまだまだ続くと思うか、もう先がないと思うか)によって、何に・誰に投資をするかが変わる、という考えです。
時間がまだまだあると考える人は、情報を求め、社会関係を広げる傾向があり、時間が有限(あまりない)と感じる人は、感情的な満足を求める傾向があるとされます。
ジョブ・クラフティングのアウトカム
では、シニア労働者のジョブ・クラフティングのアウトカムにはどのようなものがあるのでしょうか。こちらも以下3点をまとめます。
なるほど、こうして先行要因、アウトカムを整理すると、よりイメージがつきやすくなりますし、どこに働きかければよいのかも検討しやすくなりそうです。
まとめと個人的感想
その他にも、日本では人間関係や仕事を拡げていく「拡張的なジョブ・クラフティング」と、逆に狭めていく「縮小的ジョブ・クラフティング」が同居するようなプロセスが質的研究で書かれていたり、非常に興味深い章でした。
また、サクセスフル・エイジング、SST理論、SOC理論など、加齢を取り巻く様々な理論があることも理解できて、大変学びになった次第です。
年を重ねることは、喪失体験が増えるとされるものの、人には色んな工夫をする余地や、発達させる可能性があるんだと希望も感じる章でした。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!