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「強みのみ」VS「強み+弱み」どちらのアプローチがより人生満足度を高めるのか?

こんにちは。紀藤です。本日も強みに関する論文をご紹介いたします。今日の論文は「強みのみ or 強みと弱みどちらも、どちらのほうが人生満足度が高まるのか?」について探求をした応用ポジティブ心理学における、比較的初期の研究です。

前にご紹介した2018年の南アフリカの論文でも、同じように「強み」「弱み(欠点)」のどちらがより特定の成果指標に対してインパクトがあるのかを調べたものがありましたが、そのルーツとなるような論文とも思えます。

結論からすると、「強みのみ」「強みと弱み」いずれのアプローチも人生満足度に対するインパクトは同じくらいだった、という話です。ということで、早速内容を見てまいりましょう!

<今回ご紹介の論文>
『強みのみか、強みと相対的な弱みか?予備的研究』
Rust, Teri, Rhett Diessner, and Lindsay Reade. (2009). “Strengths Only or Strengths and Relative Weaknesses? A Preliminary Study.” The Journal of Psychology 143 (5): 465–76.


「強み」と「弱み」どちらが大事?

ポジティブ心理学は「強み」に焦点を当てる

ポジティブ心理学は「強み」を伸ばすことに焦点を当てていることが特徴です。
 セリグマン(2003)は「予防における大きな進歩は、弱点を矯正することではなく、能力を体系的に高めることに焦点を当てた視点からもたらされた」と述べました。またポジティブ心理学者は、”良い人生とは、相対的な弱点を改善することよりも、自分の強みを伸ばすことによって生まれる”と考えているようです。
 「強みを伸ばす」とは、例えるならば、ある個人の「向学心の強み」が60%台で、もう一つの「謙虚さの強み」が5%台である場合、 もう一方の「謙虚さの強み」を5%台から25%台まで伸ばすよりも、「向学心の強み」を60%台から80%台 まで伸ばす方が、より多くの幸福を得られるという考え方です。

「弱み」を無視して良いわけではない

しかし、強みにフォーカスをすることは「弱み」を無視することとは違います
 ポジティブ心理学者が「強み」や「ウェルビーイング」を強調しすぎることで、障害や弱みから目をそらしてしまうという懸念がありますが、ピーターソン(2006 )は「ポジティブ心理学の関心が、良い人生を培うことを意図した介入に向けられる中、私たちの中の問題を抱えた人々を見落とさないようにしよう」と指摘しました。

強み」に焦点を当てることは大事なのですが、それは「弱み」を無視するのではなく、強みと弱みのバランスを取るという考え方をポジティブ心理学も伝えています。

研究の全体像

さて、本研究はこのような「強み」と「弱み」、それぞれの人生満足度への影響を考え、大学生に対する介入研究を行いました。

簡単にいえば「(a)自分の強みの2つに注目する群」と「(b)自分の強み1つと弱み1つに注目する群」にわけて12週間の介入を行い、グループと人生満足度の影響を調べた研究となります。

以下、研究の仮説、参加者、調査方法、結果についてまとめます。

研究の仮説と結果

仮説1:「(b)1つの強みと1つと弱みに注目する群」は「(a)2つの強みに注目する群」よりも、人生満足度の向上が少ない。
→支持されなかった。(a、b同程度に人生満足度が向上した)

仮説2:毎週の強みログに取り組む生徒の参加者は、自分の性格的強みに明確に取り組まない生徒の比較グループよりも、人生満足度が高くなる。
→支持された

参加者と調査尺度

米国ルイス・クラーク州立大学の学部生 131名
(平均年齢25.35歳、72%が女性)

●グループ分け
介入群81名、介入群の割り当てはコイン・トスによって決定しました。

(a)2つの強みを持つグループ( n=37):自分の最も強い性格の強みのうちの2つに12週間取り組む グループ
(b)1つの強みと1つの弱みを持つグループ(n=44):自分の最 も強い性格の強みのうちの1つと最も弱い性格の強みのうちの1つに12 週間取り組むグループである
(c)比較群:人生満足度のみアンケート調査をする群

●調査尺度
以下2項目について参加者にアンケート調査を行いました。
(1)VIAーIS(240の項目)
(2)人生満足度尺度(SWLS)(5項目)

介入プロセス

それぞれのグループに12週間の介入を行いました。そして介入後に、参加者に「人生満足度」の事後テストと、「この12週間全体として、あなたはどの程度努力しましたか?(仮説2)」を回答してもらいました。

<STEP1:「強みログ」の記述>
(a)2つの強みを持つグループへの介入
・2つの強みを持つグループの参加者は、VIAで特定された上位 5つの性格的強みから2つの強みを選び、12週間「強みログ」を書くことに取り組んだ。

(b)1つの強みと1つの弱みを持つグループ
強さ1つ、弱さ1つのグループの参加者は、上位5つの性格の強さから1つの強さを選択し、VIAで特定された下位または最も弱い5つの性格の強さから1つの強みを選択して、12週間「強みログ+弱い改善ログ」取り組んだ。

★「強みログ」の書き方

・まず初めに1週間に1度、参加者が強みの1つについて、次の2つのプロンプトに2つずつ、計4つの短いパラグラフを書く。
・具体的には「この強みをうまく使った過去の出来事や出来事」または「この強みをうまく使っている誰か(友人、親戚、映画 、本など)について聞いたり見たりしたこと」を記述する。
・そして「この強みをこれから1週間使う計画や状況」を記述する。
(2つの強みに取り組むよう割り当てられた場合は、前述の2つのプ ロンプトを使って、もう1つの強みについてさらに2つのパラグラフを書く。弱みの場合は、弱みについて同じプロンプトで書く)


<STEP2:「強みログ」のフィードバックとポイント付与>
・著者(研究者)は、参加者のこれらの毎週のログを読み、ログに励 ましのコメント(「よく考えられた計画」、「この強みの素晴らしい例 」など)を書き、介入期間中、毎週参加者に返却した。

・また介入グループを構成する学生には、毎週の強みログを記 入することでコースの単位が与えられた(各ログは1,000ポイントのコー ス合計のうち10ポイントの価値があった)。

結果

●わかったこと1:「強み」も「強み+弱み」も同じように人生満足度が向上した

「2つの強みを持つグループ」と「1つの強みと1つの弱みを持つグループ」において、SWLSの向上具合には違いがありました。前者のグループでは、1.26ポイント(SD = 4.27ポイント)の向上が見られました。

 一方、後者のグループでは、SWLSは2.10ポイント(SD=4.06ポイント)増加しました。よって仮説1は支持されませんでした。つまり、1つの性格的強みと1つの相対的性格的弱みに焦点を当てた参加者は、2つの性格的強みにのみ焦点を当てた参加者と、同程度の人生満足度の向上(2.10ポイント)を示しました。

学生参加者の人生満足度スコア(N=108)

●わかったこと2:女性よりも男性の方が介入による人生満足度が高かった

2つの性格的強みに焦点を当てた場合、女性よりも男性参加者のほうが人生満足度が高まることがわかりました。(予想外の発見)

介入群における人生満足度の平均値(M)と標準偏差(SD)

●わかったこと3:介入(強みログ)に努力をしたほうが、人生満足度が高まる傾向があった

「この12週間全体として、あなたはどの程度努力しましたか?」について1(ほとんどない)~7(非常にある)で回答し、平均点は5.12点(SD=1.17、5 点はかなり努力していることを意味する)でした。報告された努力のレベルとSWLSでの利得量との間には有意な相関がありました。

まとめと個人的感想

本研究は「予備的調査」とのことで簡易的なものではありました。「強み」と「強み+弱み」というシンプルな調査であり、サンプル数も少ないものでした。しかし、ポジティブ心理学の「強み」だけに注目すればよいというものではなく「弱み改善」も大事であることを示した研究であり、価値があるようん感じました。

「強み」が大事、=「弱み」は無視、みたいに誤解されることも少なくないのですが、そういうわけではないですよー、ということを示す上でも記憶に留めおきたい論文でした。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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