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好奇心・希望・感謝etc…「強み」を鍛えると、ほんとうに人生満足度は高まるか? ー実験の結果わかったことー

こんにちは、紀藤です。強み論文100本ノック、ついに今日で100本目となりました・・・!振り返ると、その道すがらで思うことはありました。ただ、そのことに触れるとめちゃくちゃ長くなりそうなのでそのお話については後日改めて。

ということで今日も、強み論文のご紹介をさせていただければと思います。
本日ご紹介の論文は「人生満足度と相関が高い強みをトレーニングすると、ほんとうに人生満足度は上がるのか?」のランダム化比較実験の研究となります。

結論からすると、予測通り「人生満足度が上がった」という話なのですが、そのプロセスも含めて、早速みてまいりましょう!

<今回ご紹介の論文>
『強みに基づく介入を検証する: 好奇心、感謝、希望、ユーモア、熱意をターゲットとしたプログラムの人生満足度向上効果に関する予備的研究』
Proyer, René T., Willibald Ruch, and Claudia Buschor. (2013). “Testing Strengths-Based Interventions: A Preliminary Study on the Effectiveness of a Program Targeting Curiosity, Gratitude, Hope, Humor, and Zest for Enhancing Life Satisfaction.” Journal of Happiness Studies 14 (1): 275–92.


30秒でわかる本論文の概要

  • 本研究では、成人178人に「強みに基づく介入」の影響を比較した。

  • 具体的には、VIAの強みのうち 、人生満足度と高い相関を示すもの(好奇心、感謝、希望、ユーモア、熱意)をトレーニングした実験グループと、人生満足度と低い相関を示すもの(審美眼、創造性、思慮深さ、向学心、大局観)をトレーニングした対照グループ、および待機者対照グループとで、人生満足度の向上を比較した。

  • 各グループにおいて、人生満足度の事前測定と事後測定を比較したところ、人生満足度と相関の高い強みをトレーニングした実験グループは、対照グループと比較して人生満足度が有意に向上した。

という内容です。人生満足度に関連する強み、、、ここも気になります。

幸福に関連する要因

さて、本研究では「幸福」に関連する研究をしていますがポジティブ心理学について少しおさらいしたいと思います。

幸福に関連する3つの要因

ポジティブ心理学の有名な研究者Lyubomirskyら(2005)は人の幸福に関係する3つの主要な要因があると主張しました。それが以下のものです。

<幸福に関連する3つの要素>
(a)遺伝的要因
(b)状況的要因 (収入や教育など)
(c)幸福に関係する活動や実践

そして、この「(c)幸福に関係する活動や実践」に含まれるものが「強みに基づく介入」です。

幸福度を高める「強み」の介入

Seligman(2011)は、自分の特徴的な強み(Signature Strengths:個人的に最も高い強み)を追求することは、「より肯定的な感情、より多くの意味、より多くの達成、より良い人間関係につながる」と述べます。

そして、この「強みに基づく介入」は、ポジティブ心理学の幸福(ウェルビーイング)を高める5つの要素(PERMA理論※)の基盤となると提唱されています。

※「PERMA理論」とは・・・
P (Positive Emotion:ポジティブ感情)、E (Engagement:エンゲージ)、R (Relationships:人間関係)、M (Meaning:意味)、A (Achievement:達成)の頭文字をとったものです。これらの要素を追求することで、人々は本質的な動機づけを得られて、ウェルビーイングを高めることができる、と考えられています。

人生満足度と相関のある強みトップ5

さて、そのような幸福に関連がある「強みに基づく介入」ですが、Parkら(2004)の研究で、VIAの分類のうち人生満足度(SWL)と最も強く相関している強みが、「好奇心」「感謝」「希望」「愛情」「熱意」であることがわかりました。この発見は、様々なサンプル、国、年齢層でも再現されています。

ちなみに、続くPark(2006)らの研究によると「ユーモア」も最も上位に占める強みの一つであることもわかっています。 ポジティブ心理学においてユーモアの役割は様々な研究がされており、ユーモアに基づく介入開発もされていることから、「愛情」の強みよりもトレーニングが行いやすいものでした。
(よって、後述する今回の研究では愛情の代わりに「ユーモア」をトレーニングするという内容になっています)

本研究の全体像

では、以下本研究の全体像について見ていきましょう。
研究の目的、参加者、方法、そして結果についてみていきます。

研究の目的

研究の目的は以下のように定められました。

(目的1)人生満足度(SWL)と相関の高い強みをトレーニングによって操作することで、人生満足度の増加につながるかを検証する。
(また、実験群(EG:Experimental Groupo)に比べて、SWLとの相関が低い強みを取り上げた介入を受けた群(CG1:Control Group1)と、何も介入しない待機群(CG2)において、その増加がそれを上回ったかどうかも検証する)

(目的2)「人生満足度」の変化における性格的強みの役割の研究を行う。

(参加者は、プログラムの前後にVIA-ISも記入し、個人の特徴的な強みを理解している。個人の強みに合致した強み介入は、自分の特徴的な強みを発揮させるため、人生満足度のより大きな向上を促進すると予想される)

(目的3)介入の効果に関する参加者の自己認知をテストする。

(人生満足度は、介入の有用性 を評価する唯一の基準ではない。例えば、ポジティブ感情や気分の高揚、明るさの増大も望ましい結果と考えられるため、4つの単一の質問を用いて調査をした)

さまざまな観点から本研究の「人生満足度」と関連する強みのトレーニングが、どのような影響があるのかを調べよう、とのことですね。

参加者と調査尺度

次に、本研究の参加者と調査尺度については以下の通りです。

●参加者:
178人の成人(男性73名、女性105名)

●調査尺度:
1)VIAーIS(240項目)
(2)人生満足度尺度(SWLS:Satisfaction with Life Scale)
(3)プログラムによる変化についての自己評価(14項目)

※「介入前と比較して何か変化を感じたかどうか」「また変化を感じたとすればどのような方向に変化したか」について、1(=弱くなった)~4(=変化なし)~7(=強くなっ た)の7段階で評価しました。
・また、EGで訓練された5つの強みとCG1で訓練された5つの強みを評価し、 さらには「明るさ・幸福感、前向きな気分、人生満足感」などの変化感についても評価をしました。

介入方法

介入方法は「チューリッヒ・ストレングス・プログラム」と名付けられ、一般成人から募集をしました。そして参加者は、無作為に3つのグループ(実験群(EG)、対照群(CG1)、待機対照群(CG2)に分けられました。

●実験群(EG)への介入(人生満足度と相関が高い強みをトレーニング)
トレーニングした強み:「好奇心」「感謝」「希望」「ユーモア」「熱意」

  • 「好奇心」:その人にとって初めてで、探索と吸収を扱う4つの活動を実施し、それらを短いレポートに記述する

  • 「感謝」:感謝の手紙を書く(Seligmanら2005参照)

  • 「希望」:「1つのドアが閉まれば、1つのドアが開く」活動を実施する。(Peterson 2006参照)

  • 「ユーモア」:8段階のユーモア訓練プログラムの活動(McGhee,2010)

  • 「熱意」:身体活動・スポーツ・社会的接触・挑戦的な課題/仕事の領域の中から活動を追加する

●対照群(CG1)への介入(人生満足度と相関が低い強みをトレーニング)
トレーニングした強み:「審美眼」「創造性」「思慮深さ」「向学心」「大局観」

  • 「審美眼」:美と卓越性の鑑賞(Diessner et al、2006参照)

  • 「創造性」:創造性を実践するための課題の完了

  • 「思慮深さ」:思いやりを数える介入(Otake et al. 2006)

  • 「向学心」:文字、音、視覚 のさまざまな教材を用いて学習する課題、新しい知識を得る過程や感じた感情について書くこと

  • 「大局観」:日常生活のトピックを扱い、さまざまなトピックの長所と短所について考え、それを書き留めること、また新たに得た洞察や感じた感情について書くこと。

●対照群(EG2):待機群
「待機をしているグループ」として本研究中は介入をしない

結果

そして、「人生満足度」を従属変数とし、3つのグループを変数として分析を行いました。結果としてわかったことは以下の通りです。

わかったこと1:実験群のみ人生満足度の向上を報告した

介入前・介入後でt検定を行ったところ、実験群(人生満足度と相関が高い強みをトレーニング)のみ人生満足度が向上する結果となっていました。
(ちなみにCG1は無作為にグループ分けをしたのにも関わらず、プレテストの人生満足度が高かったことは気になるところ。理由は不明とのこと)

わかったこと2:人生満足度と最も関連が高い強みは、「希望・熱意・好奇心・愛情・感謝」だった

人生満足度と数値的に関連性が高い強みは、これまでの研究と同じ結果(希望・熱意・好奇心・愛情・感謝)になりました。
 また、実験群の場合、介入前に強みの発現が低いほど、介入後の人生満足度が向上することがわかりました。これは、強みの発現度が低いものをトレーニングすることで、幸福感がより促進されることを示しています。

(さらに補足として、実験群、対照群、それぞれでトレーニングのターゲットとした強みは違うものでしたが、他の強みの向上にも繋がっていることがわかりました。例:実験群=知的柔軟性(Open)、自律心(Self reguration)など)

わかったこと3:実験群の自己評価が最も高かった

実験群の介入後の平均レベルの差を検証したところ、EGの参加者は、CG1とCG2の両グループの参加者よりも、自分自身をより感謝し、より好奇心が強いと評価していました。
 また創造性とオープンマインドを除けば、すべてトレーニンググループ(EG、CG1)が、強みの獲得に関する自己評価において待機グループ(CG2)を上回っていました。

まとめと個人的感想

こうした人の心理に関連するものは、あまり安定性がないイメージがありました。ですが、今回の研究でも「人生満足度と相関が高い強みトップ5」については、本介入の結果を見ても先行研究と同じような結果が示されていたことに、信頼性とそして日本でも同じような結果になるのか?を試してみたくなりました。

同時に、個人個人の特徴的な強みは違うのにもかかわらず、特に対照群でトレーニングした各種の強みが高まっていたことから、「強みを鍛えることができる」ことが示されたように感じました。特徴的な強み(Signature Strengths)はその人の本来らしいものですが、それ以外のものも然るべきトレーニングを行えば鍛えることができる、というのは興味深い内容でした。

じっくり論文を読むと、時間がかかりますが、色々とポジティブ心理学や強み介入の全体像も振り返ることができる良い論文でした。

これにて強み論文100本ノック、終了!!
次シリーズは考えたいと思います。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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