見出し画像

元論文を辿るべし ~「有名なあの話」の出所はどこか?~

大学院のとき「元論文を辿ってください」としばしば言われた記憶があります。特に、修論相当にあたるプロジェクトペーパーをまとめる時がそう。

直接原典から引くのではなく、他の本に引用された文章をそのまま用いることを「孫引き」とされますが、研究・学生生活でそれはタブーとされています。

しかし、皆が学生・研究生活をしているわけではないので、「どこかで聞いた有名なあの話」は、人から人に伝わっていき、いつの間にか周知の事実となっている、ということもあります。

たとえば、「組織の成功循環モデル」「マズローの欲求段階説」なども、人材・組織にまつわる領域では有名なモデルですが、記のモデルも、科学的に実証されたというよりも「著者がそのように思われる」という見解を示しているもののようです。

なので、実際にその話の信憑性を理解するためにも、「有名なあの話」の元論文を辿ることは、重要な営みのように感じます。

「強み」を考えさせられるある有名な実験

さて、そんな前ふりをさせていただいたのが、気になっていたある実験があるからです。それが「才能の存在を考えさせられる、ある実験」です。

米ギャラップの元会長であり、クリフトン・ストレングス(ストレングス・ファインダー)の開発者でもあるドナルド・クリフトン博士らが2003年に、論文「Invesiting Strenghs(強みへの投資)」で、このようなことを述べました。

1950年代、ネブラスカ州学校研究評議会は、速読指導のためのさまざまな方 法(タキストスコープ、フィルム、決められた努力)の相対的価値を明らかにするために、州全体の研究プロジェクトを支援した。約6,000人の10年生が参加した。そ の結果、各方法間に統計的に有意な差は見られず、差があったのは教師間であった (Glock, 1955)。データを分析する中で、研究者たちは、研究開始時に最も速く読んでいた生徒が、研究期間中に1分間に約300語から2,900語まで、最大の伸びを示したという観察結果に困惑した。開始時に読むのが遅かった生徒も伸びたが、それに比べればわずかであった。

これらのデータが仮説をかき立てた。人間の成長において最大の利益は、人 が生まれながらにして最も得意とすること、つまり才能のある分野への投資に基づいているのではないだろうか?

Donald O. Clifton and James K. Harter(2003). INVESTING IN STRENGTHS

速読のトレーニングをしたら、才能がない人は「90語→150語」だったのに、才能がある人は「300語→2900語」ととてつもない伸びを示した、という話です。ここから、才能に投資をすることが、多くの利益を得ることになるのではないか?という仮説につながった、と述べています。

そして、おそらくこの論文で書かれた内容は、ギャラップのストレングス・ファインダーの認定コーチにも共有され(私も学びました)、また強みをが学習する教材の中にも引用され、人々見聞きする機会が広がっていっているのでは、と思っています。

https://michaeltimms.com/focus-on-strengths/

「有名なあの話」の元論文を辿る旅

とはいえ、あくまでも上記は論文でも書かれているように「仮説」であるわけです。その論文そのものが、才能の存在を結論づけているわけでもないようにも、その書き方から推察されます。

よって、そもそもどんな論文なのかを、やはり引用するのであれば確認する必要があるな、と今更ではありますが思ったのでした。そして調べてみると、元々の論文は、1955年に書かれた以下の論文であることがわかりました。

GLOCK, JOHN WILLIAM(1995).THE RELATIVE VALUE OF THREE METHODS OF IMPROVING READING--TACHISTOSCOPE, FILMS, AND DETERMINED EFFORT. he University of Nebraska

70年前の論文なので、そもそもデータについてネットからは全文を読むことができず、冒頭の一部のみ確認ができました。
 その一部の内容からわかったこととしては、ネブラスカ州の小学校~大学まで対して行われた「読書技能に関する調査」であり、そして多くの学校の教育でいくつもの読書技能向上のプログラムを試したところ、全体として読書技能の改善が見込める、という話が記載されていました。

ただ、結論からすると「該当箇所は、現時点では確認できなかった」のでした。残念ですが、現時点での限界のように思われます。

引用の信頼性を知りながら、活用する

実際に、元論文にあたろうと思っても、物理的に原典に当たることが難しい事も起こりえます。どうしても難しい場合、「孫引きやむなし」となる場合もあるそうです(※参考:Acaric『引用するなら要注意!やってはいけない「孫引き」とは?』)

ただ、その場合も「孫引きの引用部分」と「その直後に原本・原典の出どころを記載する」ことがお作法として必要になる、とあります。

実際に、提出する論文でなければそこまで厳密には必要ないのかもしれませんが、いずれにせよ「あの有名な話の出どころはどこなのか?」と視点を持つことは、受発信する情報の信頼性に関わる重要な点である、と感じます。改めて、このあたりはしっかりと抑えたいと、自戒を込めて感じた次第です。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?