「エンゲージメントとは何か」を紐解いてみる(1) ~その定義と全体像~
人事界隈では「ワーク・エンゲージメント」が注目されています。
ワーク・エンゲージメントは、従業員の高いパフォーマンスや顧客ロイヤリティに関係することが先行研究からわかっている成果指標の一つ。ゆえに、人的資本経営という文脈からも、組織の中でもますます重視されているように思われます。
しかし、この「エンゲージメント」なる言葉、エンゲージメントサーベイも会社によって内容が違ったり、モチベーションや職務満足などとごっちゃになったりと、結構ややこしい匂いがします・・・。
ということで、今日はこのエンゲージメントについて、専門書を参考に、紐解いてみたいと思います。それでは、参りましょう!
エンゲージメント分かったようでわからない問題
「エンゲージメント」という言葉、多くの人事の方からお話頂く機会が増えてきました。
しかし、聞いてみると色々なエンゲージメントサーベイがあったり、中身もモチベーションや職務満足感など類似する概念に近かったり、またワーク・エンゲージメントなのか、従業員エンゲージメントなのか、などエンゲージする対象が何かもごっちゃになっていたりします。
ゆえに、「エンゲージメントって分かったようでわからない問題」が巷では溢れかえっているように思うのです(という個人的感想です)。
さて、そんな中「ワーク・エンゲージメント」についてガッツリ解説している本がありました。ワーク・エンゲージメントの概念を丁寧に整理し、類似概念との違い、先行要因やアウトカム、介入方法などを解説している学術書がこちらです。
今回はこちらの本を紐解きつつ、「ワーク・エンゲージメントの分かったようでわからない問題」を整理してみたい思います。今回の記事では「序章&第二章」から見ていきます。
ワーク・エンゲージメントとは何か
早速ですが、「ワーク・エンゲージメント」とは一体何か?について、その定義です。本書から引用いたします。
ほうほう、仕事に関連するウェルビーイング、エネルギッシュで熱心に関わる、というキーワードのようですね。
もう少し詳しく見てみると、以下のような状態の人が「ワーク・エンゲージメントが高い人」と言えるようです。
なるほど。確かに上記のような熱心で没頭して楽しみながら働く人いれば、必然的に仕事のパフォーマンスが高くなるのも頷ける気がします。
ユトレヒト・ワーク・エンゲージメント尺度
エンゲージメントの概念で有名なものは「ユトレヒト・ワーク・エンゲージメント」の尺度が上記の定義を測定する質問紙ととして、広く使われています。
「熱意」「没頭」「活力」の3次元で説明される尺度で、21言語・60000人以上の従業員エンゲージメントの回答データベースが存在しています。
ちなみに補足ですが、他にエンゲージメントサーベイで有名なものとしてギャラップ社の「Q12」があります。しかし、これは内容をよく見るとエンゲージメントの先行要因である「職務満足感」を見ているともと言えそうだ、と本書では解説をしています。
エンゲージメントの多様な定義
さて、ワークエンゲージメントの概念は、研究者間で合意が取れているわけではない、と述べられています。たとえば、これまでの論文では様々なタイプでの「エンゲージメント」が語られ、それらは別々のニュアンスを含んでいると述べられています。具体的には、エンゲージメントといっても、以下の3つがあるようです。
という3つの分類があるようです。
特性・状態・行動の3つのエンゲージメントは、それらのレイヤーが少しずつ異なっています。そして、特性でエンゲージしていても、行動では組織市民行動を取らない(=役割外の仕事に積極的に関わろうとはしない)ということもあります。このあたりの境界が曖昧なところも、エンゲージメントの理解を複雑にしているようです。
ちょっとマニアックなようですが、こうしたものを正しく定義した心理状態にすることで、実践への応用が可能になるのでは、と著者は述べています。
エンゲージメントに影響を与える先行要因
次に、エンゲージメントに影響を与える先行要因がなにか?という観点では、以下の要素が紹介されていました。
たとえば、(1)同僚や上司からの社会的支援や(2)パフォーマンスのフィードバックがあれば、学習を促し仕事の目標達成に成功する可能性につながりやすくなる(結果、エンゲージメントが上がる確率が高まる)。そして、(3)仕事の資源があれば、自律性への欲求・所属の欲求を満たしてくれて、努力をする可能性が高まる(そしてエンゲージメントが高まる)、となると述べます。(上記の先行要因は、もっとありそうな感じです。この後の話でもっと出てきそうです)
エンゲージメントの重要性
そして、エンゲージメントがなぜ重要かというと、結論「従業員のパフォーマンスに大きな影響を及ぶすから」です。また「役割外の業務遂行」も促すことがわかっています。
ちなみに興味深い点は、ワーク・エンゲージメントはFredrickson(1998,2001)の「拡大構築(broaden-and-build)理論」と繋がるところがある、と述べられてます。これはポジティブ感情が、思考の柔軟性や創造性につながる、という考え方。これを裏付ける証拠も先行研究で示されています。エンゲージメントが高いと、仕事や人間関係についても、積極的に拡大して構築していく動きが生まれるようです。(詳細は以下記事参考)
エンゲージメントの全体像
さて、ワーク・エンゲージメントのポイントを本書からいくつか紹介させていただきました。最後に、「エンゲージメントの先行要因とアウトカムの統合モデル」として紹介されているモデル図を紹介します。
こうしたモデルがあるとワーク・エンゲージメントを取り巻く概念がわかりやすくなりますね。
まとめと個人的感想
ワーク・エンゲージメントは「熱意・活力・没頭の3次元」ということは理解していました。改めてこのように先行要因・アウトカムを整理をすることで、より手触り感が出てきた気がします。
個人的にはワーク・エンゲージメントは「ポジティブ感情」と密接につながっていること(特性エンゲージメントや、拡大構築理論など)は発見でした。ポジティブ心理学のアプローチからのエンゲージメント向上施策は、もっと探求できそう!と思いましたし、「強み」の研究とワーク・エンゲージメントが関わる理由も分かったように感じます。
ということで、書籍の続きは、また改めてまとめたいと思います。最後までお読み頂き、ありがとうございました!