「スライビング」が、活力と学習を促し、主体的行動を引き起こす?! ー「職場における繁栄の社会的埋め込みモデル」とはー
こんにちは。紀藤です。さて、本日は「スライビング(Thriving)」について解説をした論文についてご紹介をいたします。
スライビング(Thriving)とは、直訳すると「繁栄」という意味です。
その他にも、「富む」「目標を達成する」といった意味があります。人事領域の用語として、「従業員スライビング」は、個人が有意義な仕事をするためのエネルギーと充実感を得られている状態とされます。
この職場におけるスライビングに繋がる全体像をモデルとして提示したのが、本日ご紹介させていただく論文です。
「なるほど、こういうことを「スライビング(繁栄)」というのか」
「職場において、こういう条件が整うとスライビングに繋がるのか」と理解できる論文で、とても勉強になりました。
ということで、早速みてまいりましょう!
仕事における「スライビング」の定義
さて、スライビングは「繁栄」を意味します、などとお伝えしましたが、かなり抽象的です。職場で「繁栄」しているってどういうことやねん、、、と思ってしまいそう。エネルギーや充実感を得られているといっても、これまたそのための条件が、かなり曖昧です。
そこで、本論文では以下のように定義をしています。
とのことです。
ちなみに用語の説明ですが、「活力」はエネルギーが利用できるというポジティブな感覚を指す(Chaplinら, 1988)もので、「学習」は知識やスキルを獲得し、応用できるという感覚を指す(Dweck, 1986)もので、「繁栄」は活力と学習が一体となった感覚で、自己啓発の進歩や前進を意味する、としています。
スライビングと他の概念の違い
ちなみに、このような概念は似たものとして、いくつかありますが、それぞれの概念と違いを以下のように説明しています
●レジリエンス:
個人の適応能力と積極的な適応能力を指す点でスライビングと似ているが、違いがあります。レジリエンスは、健全ではない状態から「立ち直る」ことに主においているところが、スライビングと異なっています。
●フローリッシング(Flurishing:繁栄):
これは、主観的幸福を意味しています。人が心理的社会的にうまく機能している状態ですが、スライビングよりもずっと広範な肯定的な状態を指しています。
●フロー:
楽しい心理状態を指し、時間や周囲を意識しないほど「完全に没頭していると全体的な感覚」とされます。エネルギーを感じている点では近いですが、学習意識の高まりとは関連がすくないかもしれません。
●自己実現:
自分の能力を最大限に発揮すること。スライビングも潜在能力を高めるために必要ですが、マズローの考えを引用すると、自己実現はより広範な概念を含んでおり(生理的欲求、安全欲求、所属欲求、自尊欲求)が満たされたときに起こるとされており、違ったものであると考えられます。
職場におけるスライビングの社会的埋め込みモデル
さて、このようなスライビング(繁栄)ですが、どのようにすれば、発現されるのでしょうか?
ここでポイントとなるのが、「職場におけるスライビングは、社会的に埋め込まれている」という点です。
ん?何のことやら、、、と思われたかもしれませんが、要は「周りに影響を受ける」ということです。職場環境や仕事の資源、人間関係などから影響を受けて、スライビングの発現のされ方が変わるよね、ということ。
当然ですが、職場において、人は孤立して働くのではなく、他者との相互作用を通じて影響を与え合っています。しかし、それらの「他者や周辺環境」も広範であり、何が影響しているのかが、なかなか見えづらいもの。
そこで、本論文の研究者、Spreitzer, Gretchenら(2005)は、これらの職場におけるスライビングの全体像を以下のように示しました。
まずスライビングを実現しやすくする「社会的条件」がこちらです。
そして、それが「個人の行動」につながっていきます。また、これらの個人の行動は、「主体的行動」(点線の部分です)として「仕事の資源」にも影響を与えます。
そして、それが「個人の職場のスライビング」に繋がっていきます。そして、スライビング(繁栄=活力と学習)が高まると、さらなる「主体的行動」(点線部分)を生み出し、個人のエージェント的仕事行動(タスク集中、探索、配慮する関係)につながっていきます。
そしてスライビングの成果として、「個人の発達」「個人の健康」につながっていくのです。
まとめと個人的感想
職場の様々な尺度は、数多くあります。たとえばワーク・エンゲージメント、仕事満足度、プロアクティブ行動、ウェルビーイングなどなど・・・。そして、それらに紐づく社会的な背景(職務特性モデル、心理的安全性、上司-部下の関係性、他多数)なども示されています。
しかし、個人と他者、職務資源との相互関係をシンプルに捉えたモデルはあまりなく、またそれを幸福感よりも、もっと職場のパフォーマンス向上に近い「活力と学習=スライビング」として示した点は価値があると感じました。(ともするとポジティブ心理学が幸福感によってしまい、実益と離れてしまいがちな気も個人的にしていたため)
一方、本論文でも書いてあるとおり、これは「こうしたモデルを開発した」という点になっているため、実際にこれらが検証される必要がある、と述べています。
これは2005年の論文なので、実際に現在は色々とこのモデルの確からしさも明らかになってきているとは思うのですが、原点となる論文を見ることで、気付ける事があると思った次第です。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
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