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Maxïmo Park / Too Much Information (2014) 感想

 2005年のデビュー当時ならいざ知らず、2020年現在において私は日本有数のMaxïmo Parkファンであると自負しています。単にこれまでのアルバムをメンバーのソロ含め全部フォローしているだけですが、そういう人もきっともう少ないはず。タイミングが合わずライブには行ったことがありませんが。
 Paul McCartneyの新作がいつもの感じだったので、気になるリリースも落ち着いた今、来年2月の彼らの新作に向けて気分を高めるためにこれまでの作品を聴き漁っています。

オシャレジャケットの君

 本題の前にMaxïmo Parkというバンドについて少しおさらいします。今は昔2004年、彼らがシングル"The Coast Is Always Changing"でデビューした頃、Franz Ferdinandのブレイクをきっかけに二匹目のドジョウを狙ったNW/ポストパンクリバイバルと呼ばれたシーンがありました。Bloc Party、The Futureheads等が代表格です。このMaxïmo Parkもそこに括られ、かのAphex Twinで有名な電子音楽特化型(当時)レーベル、Warpが契約した初のギター・ロック・バンドとして注目されていました。

 一度見たら忘れられないフロントマンPaul Smithの9:1分けと転調を多用したキャッチーな楽曲、「君が側にいる時は忍耐こそ美徳」だの「来年もまだ生きていたい!服を脱いだ君が見たい!」だのといった拗らせ文学男子感溢れる歌詞、更にはオシャレなアートワークで一躍人気バンドとなり、2005年の1stアルバム"A Certain Trigger"は全英15位まで到達、地元のクラフトビールとコラボまでしていました。私も当時Rockin' on誌に付いていたサンプラーで耳と目から離れなくなり、まんまとアルバムを買ってしまったクチです。

(ボーカルが9:1分とは思えないスタイリッシュさ!)

 Paulのノッポさんスタイルへの変化とともに、PixiesやFoo FightersなどのUSオルタナ勢との仕事で有名なプロデューサーGil Nortonを迎え、1stの方向性をよりビッグに、ハードに展開した2nd"Our Earthly Pleasures"で全英2位と商業的にもブレイクを果たします。この頃まではアートワークもオシャレでした。
 その後も本国には安定したファンベースがあるようで、現在までにリリースした6枚のオリジナルアルバム全てがチャート初登場20位以内をキープする立派な中堅バンドとして今に至っています。故に最近は慣性飛行というか、やや地味な存在になりがちでもあります。まだやってたんだ意外と人気あるのねー、的な。遅れたりしたがらも全作国内盤が出てるだけ注目されてる方なのでしょうか。

(現在までの彼らにとって最大のヒット曲、唯一の全英トップ10シングル。ロックってシングルチャートに入らなくなりましたね)

ジャケ買わない

 前置きが長くなりましたが、5thとなる本作は初期のスタイリッシュさはどこへやらな驚きのダサジャケットです。しかし中身は成熟と新たな武器を同時に見せつけた現在までの最高傑作と断言します。新たな武器、それはPaulの抑えたボーカルです。
 特にそれが顕著なのは2."Brain Cells"〜3."Leave This Island"と続く、今までにないクールなダンストラックです。正直アルバム全部この路線でも良かったんじゃないかと思うくらい完成度が高く、単純にカッコよろしいです。

どうして寝室のテーブルに地図が広げられてるのか教えてくれ/嘘だらけだ/そこは山頂じゃくてただの高原です、とか/この島を出て行きたくなったら知らせてくれ

 この前作、4th"The National Health"(2012)は更に前の3rdが受けなかったことで恥ずかしげもなく2ndのプロデューサーを再び招聘し、ブレイク作の路線をもう一度やるというアルバムだったのですが、いかんせん焼き直し感が強く、停滞感が漂っていました。
 本人達もそこは自覚的だったようで、本作では展開や音を詰め込みがちだったこれまでと違い、曲にスペースを残すことを意識していたそうです。これは大英断と言っていいでしょう。

 "Give, Get, Take"や"Her Name Was Audre"など従来のポストパンク的な曲もありますがアクセント的な使われ方で、抑え目どころか囁きの域の"Is It True?"、クールなボーカルでセンチメンタルにワンナイトラブを歌う"Drinking Martinis"、抑え目なヴァースから解放的なサビへの盛り上がりがエモい"Midnight On The Hill"と続く中〜終盤にかけての、Paulが声を張り上げずに、静かにエモーションを炸裂させるパートが本作のハイライトを形成しています。メロディーや声の分かりやすいエモさに頼らず、ボーカルも音の一つとして全体のサウンド、曲の構成でこれを表現できるバンドって実は結構貴重なのではないでしょうか。

僕らはさっきまでの自分達がいなくなってしまったかのように振る舞った/でも残響が残っている/君が去ってしまった今、君のことがはっきり分かるよ/僕と違ってマティーニを飲んでたろ

 そもそも3rdの何が受けなかったのかというと、「キャッチーなポストパンク」というパブリックイメージを守ろうとするあまり、ダークな感じでやりたいところに無理にポップなブックを入れすぎて、中途半端になっていたところだと思うんですよね。
 そして4thで売れ線に立ち戻るハメになった結果陥った袋小路を、文学男子的醒めた自己分析とイメージなんか知るかという自信と意地/開き直りにより打開した、デビュー10年を迎えた中堅たる彼らだからこそ作れた傑作だと思います。

点数

8.1

 と最高傑作をモノにした彼らですがこの次作、2017年の"Risk To Exist"はある意味本作からの発展系である四つ打ちのダンサンブルな曲が増えたものの、これがどうにもモッサリしています。残念ながら、彼らの唯一の駄作だと思います。シングル"Get High (No, I Don't)"のブレイクは正直サムイです。

 これまで公開されている新曲を聴くに、来たる新作は方向性としては本作寄りで、エモさ・切なさよりは小気味良いポップさに振れた作品になると予想・期待しているのですが、どうなるでしょうか。因みに本作の後にベース、次作の後にフロントマンの次に目立っていた落ち着きのないキーボードが抜け、正式メンバーは3人になってしまっています。そんな中でも一度も解散も休止もせず頑張っている中堅は応援したくなりますね。

(参考記事)

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