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Pale Waves / Who Am I? (2021) 感想

醍醐味

 新作を聴いて今度はそうきたかと一喜一憂することが現行のアーティストを追いかける醍醐味です。この「今度はそうきたか」という一点において、風貌からゴスかと思いきやキラッキラの80sポップな1stでブレイクしたPale Wavesの2ndはその醍醐味をしっかりと味わうことができます。

 ポップという面では変わっていませんが、本作は80sではなく2000年代のメインストリームなポップ・ロック、Avril LavigneやKelly Clarksonのような世界が広がっています。ディズニー・チャンネルで人気の女優の歌手デビューと言われても信じてしまいそうです。あそこまでコッテリはしていませんが。

 打ち込みのフェード・インからロックンロールの生々しさとは対局のドンシャリなギターが入り、ミドルテンポの、ウェルメイドなロックソングになだれ込む1."Change"からモロです。そして私にはこの変化をどう受け止めるべきか、答えが見つかりません。

貴方が変わってくれたらと願う/変わってくれたらと/同じでも何も驚きはしない/同じでも

アイライナーの意味

 フロントのHeatherさんが方々のインタビューで、「1stと同じ80sなシンセ・ポップはやりたくなかった」、「子供の頃からAvril Lavingeが大好きだった」と語っているように、勿論この変化は彼女たちの狙い通りのものです。実際ポップロックとしてはかなりよく出来てると思います。誰もがRobert Smithだと思っていたHeatherさんの濃いアイラインの元ネタはAvrilだったのです。てゆうかよく見たらジャケットからしてまんまでした。

 それにしても、狙ってここまで変えられるものなのかと驚嘆します。ミドルテンポの曲が続く前半、特にアコギをかき鳴らしながらサビでバーン、みたいな4."Easy"には腰を抜かしそうになりました。今日日ポップアクトでもなかなかこれをやる人はいません。

 "Tomorrow"〜"You Don't Own Me"とアップテンポな曲が続く中盤は爽やかという形容がぴったりな、超のつく王道のポップロックです。
 そこからバラード"Who Am I?"でしっとり幕を閉じる展開も王道なら、メンタルヘルスやLGBT(Heatherは同性愛者、ドラムのCiara Doranはノンバイナリーであることを公言しています)、自分を理解してくれない/期待通りに動いてくれない人々への憤り等、歌詞のテーマも等身大の若者って感じで、ティーンの頃の私が好きそうな感じです。

ベン、貴方は男の子が好きって分かってる/性別は自分で選んだ訳じゃない/間違ってるなんて他人に言わせないで
いつだって過ごすべき明日があるから/生きていて/トライしてみて

 しかし前作の時点で器用貧乏というか、いい曲を書くもののバンドとしての個性に欠け、Heatherさんのカリスマだけで引っ張っているようなところがあった彼女たち。ガラッと参照元を変えたことで、更にバンドとしての個性がよく分からなくなりました。
 同郷でレーベルメイト、兄貴分的な言われ方をされることも多いThe 1975との決定的な差がこの滲み出るエゴです。今後どこに軸を置くか次第かなと思います。

点数

6.5

 ポップロックって全盛の時代にはインディー好きから距離を置かれていたような気がしますが、今のキッズ的にはこれアリなんでしょうか?とすると時代が一周したというか、やはりよく言われるように、ジャンル間の隔たりがなくなったということなんでしょうね。

(参考記事)

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