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Waxahatchee / Saint Cloud (2020) 感想

上半期ベスト

WaxahatcheeことKatie Crutchfeildの5thアルバムとなる今作は個人的な上半期ベスト作です。前作のジャケットに見覚えはあったものの彼女の作品を聴くのは今作が初めてでしたが、見事に持っていかれました。慌てて過去作も聴きましたが今作が一番です。

感触としては私のドストライクであるモダンなアメリカーナを鳴らすインディアーティスト、WhitneyやKevin Moby(彼女のパートナーでもあります)と今作最大のインスピレーションだというカントリーシンガー、Lucida Williamsの間のどこかと言ったところでしょうか。グランジっぽい前作からこのような作風へ変化した理由は原点回帰ということらしいですが、Kevin Mobyの影響も多分にあると思われます(インスタやYoutube等で仲睦まじい様子が伺えます。羨ましくなんかない)。

繊細かつ大らか

先に挙げたモダンなアメリカーナの特徴は、線の細さだと思います。アメリカーナ、アメリカンロックと言うととかく土臭くマッチョなイメージがありますが、声も歌唱も演奏もソフトで繊細で、テンガロンハットが似合わなそうです。そこがバンドマンのナード化が進む現代的なところでしょう。Whitneyとかどうみても喧嘩弱そうです。

今作もその系譜にある作品で、演奏はとてもソフトな、繊細なものですがその繊細な演奏に乗せて歌われるメロディーはLucinda Williamsという影響源のとおり、前述のアーティストよりもカントリー色が強い伸びやかな、大らかなものです。

この繊細さと大らかさの同居する楽曲群が今作を他のモダンなアメリカーナと一線を画す最大の特徴であり魅力です。ハイライトは初っ端、前作から続くインディーロック感のある冒頭のメロウな"Oxbow"(彼女自身、ジャンルに捉われない曲にしたかったと語っています)から次の開放感溢れる"Can't Do Much"へ移り、一気に視界が開けるような瞬間です。「私が死ぬその日まで貴方を愛する/何故かなんて分からないけど」とサビで決められた日にはもう一発KOです。以降も更にポップな"Lilacs"からラストのメロウな"St. Cloud"に至るまでとにかく繊細かつ大らかなグッド・メロディーのオンパレード。朝仕事に向かう時にも夜ヘロヘロになって帰る時にも、チルアウトしたい時にもどんな気分の時にもマッチする傑作です。

オススメ曲

■ 2. Can't Do Much

元々がポップな名曲ですが、やはりアルバムの流れで冒頭の暗い"Oxbow"から続けて聴いた時の開放感が最高です。pitchforkのインタビューによると、歌詞のテーマは「いかに相手に打ちのめされ、そのフラストレーションが伝わるようなラブソングが書けるか?」ということです。その倒錯が実に現代的だと思います。

孤独の中で部屋の中に閉じ込められている/貴方に会う時の自分はスプーンの上の蜂蜜のよう/私の心を読んでると思ってるんでしょ/私の不安が表れてくる/いつも待ち続けている/正気、なかったことにする/息を詰めて、音も立てずに/私は-私は貴方を愛している/とにかくこんなにも愛している


■ 4. Lilacs

今作一ポップなというか、一曲の中で上述の開放感を爆発させるような曲です。抑えに抑えてサビで一気に広がるような感じが最高です。「仕事の為に生きてるんじゃない、もっと自分をケアしないと」というこの曲の歌詞のテーマも最高で泣きそうになります。

私が壊れたレコードみたいって言うならゴミに出せばいい/今までみたいに自分でなんとか埋め合わせするわ/私の骨が砂糖菓子みたいに繊細だって言うなら/貴方無しではいいところに落ち着けない/貴方の愛も必要なの

■ 3. Fire

今作のメロウな側面での一番の名曲です。そのまま次の"Lilacs"へ繋がる展開も含めて最高です。流れるようなメロディーが溜まりません。

点数

8.6

因みに今作ではBonny Doonというバンドが全編に渡って演奏しています。"Can't Do Much"で聞こえるハモっているのもそのバンドのボーカルだとか。今作を聴くまで全く知りませんでしたが良さげなので聴き込みたいと思います。

(今作を聴きながら読んだ記事たち)







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