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Happyness / Floatr (2020) 感想

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劇的ビフォーアフター

Happynessの3rdアルバム「Floatr」は驚きとともに届けられました。まずはこちらの2枚のアーティスト写真をご覧ください。

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なんということでしょう。いかにも文化系バンドマンな、モテなそうなメンズ3人組から華やかな2人組へ。同じバンドとは思えません。Apple Musicのページを開いた時は間違えたかと思いました。その理由は1枚目中央のBenji Compstonが脱退したことと、1枚目右、ドラムのAsh Kenaziがカミングアウトし、ステージでドラァグクイーンの恰好をするようになったことです。バンドイメージの変化、そしてボーカルも担当していたBenjiの脱退を経て、アルバムはどうなっているのでしょうか。

無気力ロック

Happynessはスラッカーロックの再来と言われることが非常に多いバンドです。スラッカー(無気力)ロックとは1990年代にごく一部で流行ったジャンルで、私も後追いなので詳しいことは知りませんがざっくり90年代オルタナの中でもPavement、Dinosaur Jr.、Sonic Youthなどが挙げられるようです。前述のバンドを一括りにするのは無理がある気もしますがGuns n' Roses等のその前に流行っていたバンドに比べてシニカルな、世間を穿ってみているような歌詞にローファイな音、みたいなバンドがそう呼ばれていたようです。ガンズに比べればどんなバンドもそう言える気がするので例えがよくなかったかもしれません。「俺どうせ負け犬だし殺せば~」と飄々とラップするBeckの"Loser"はスラッカー・アンセムなんて言われたりもします。

このHappynessは2014年のデビュー時から、そのスラッカー・ロックと呼ばれたバンド達を彷彿とさせるディストーションがかったギターと決して下手ではないのに上手く聞かせる気もなさそうな演奏、やる気がなさそうにも聞こえるボーカルで、まんまPavementだ!と言われていました。かつて歌の中で突然他のバンドに「俺もアイツらも意味がない」と言い放ったPavementよろしく

俺、ウィン・バトラーの髪型の真似してんだ/モントリオールのどっかのバンドのシンガーで髪なんかないんだけどね/彼はそれでいいのさ - "Montreal Rock Band Somewhere"

と突然、縁もゆかりも恨みもないArcade Fireにとんでもない方向から口撃したこともその印象を強くしていました。他にもクリスマス生まれの少年がキリストにお前のせいで目立たない、と毒づく曲を作ってたりします。しかし未だにPavementとスマパンがたまに悪口を言い合ってるのは少しひきます。30年前ぞ。

正しいインディーロック

そんなある意味鮮烈なデビューを果たした彼らですが、前作である2nd「In Write」(2017)はディストーション抑え目で全体的にグッとメロウになった、バラード主体の美しいアルバムでした。今作では音はその延長線上にありながらメロディーがかなりポップになっており、とてもウィン・バトラーによく分からない個人攻撃をしていた人たちとは思えないくらい洗練された、押し引きをわきまえたポップなインディーロックが聴ける作品になっています。

1曲目の"Title Track"からアコギを主体に徐々にストリングス(シンセ?)が入り幽玄な音世界が広がります。その後の"Milk Float"、6曲目の"Bothsidesing"といったマッドチェスター、Happy Mondays的なゆったりとしたグルーヴを感じる曲は今作での新機軸でしょうか。いいアクセントになっています。因みに"Milk Float"のサビは今作を代表するポップなメロディーですが、今作一物騒な歌詞でもあります(「来たれ魔法の斧よ/僕の周りのものを全て殺してしまえ/どっちみち僕はそうしてしまうだろう」)。しかし曲の洗練に合わせてかこれまでに比べて歌詞のひねた感じはやや控えめというか、全体的に内省的な気がします。ひねていた(外に向かって攻撃していた)のは主に脱退したBenjiだったのでしょうか。メロウなバラードを挟んで4曲目の"Vegetable"以降はポップなメロディーにアコギとエレキが絶妙に絡む小気味良いインディーロックのオンパレードで、気持ちよく聴いている内に気づいたら終わっています。

さながら感情をこめて歌ったThe Jesus and Mary Chainの2nd(無気力さで言えば初期Jim Reedこそが真のスラッカーロッカーだと思います)か、曇天のイギリスで育ったためにサーフィンをしないThe Tydeと言った趣です。毛色は違えどここまで正しく在りし日のインディーロックそのまんまみたいな曲を作れるのは彼らの他にはThe Pains Of Being Pure at Heartくらいではないでしょうか。

スラッカーロックからはずいぶん遠いところに来た感がありますが、いまやオルタナの一つの王道(めちゃくちゃ変な言い方ですが)であるPavementそのまんまだった1stアルバム同様、オルタナのもう一つの王道を行く正しいインディーロックであることに変わりはありません。そこが今作、そしてHappynessというバンドのいいところであり、同時に〇〇っぽい、というところから逸脱するような(例えばCar Seat Headrestのような)エゴが感じられないという意味で聴いていて物足りなさを感じるポイントでもあります。今作はポップとはいえその中でのメロディーの幅はあまり広くないですしね。

おススメ曲

その1:11. Seeing Eye Dog

ループによるインタールード的な前曲を挟んで今作のラストを飾る、7分超の長尺曲です。メロウな曲調にサビでかき鳴らされたり、終盤で絡んだりするギターに初期Radioheadとかの90年代オルタナ感を強く感じる、バンドにとってもこれまでの一つの集大成的な曲ではないでしょうか。

その2:4. Vegetable

今作の正しいインディーロック感を伝えてくれるポップな曲であり、シングル曲でもあります。MVは目がチカチカします。

その3:1. Title Track

今作の1曲目で、アコギを主体に始まり、アーミング全開なエレキや最後にはストリングス(シンセっぽい)が加わっていき徐々に広がりを見せる音世界が一気にアルバムの世界に引き込んでくれます。アルバムはこの後ポップなインディーロックが続きますが、ここまでのものが作れるのであればいっそこの曲の世界観でアルバムを統一しても面白かったんじゃないかと思います。それはそれで初期Spiritualizedという別の90年代オルタナのど真ん中を辿ることになりそうですが。

点数

6.1

正しいインディーロックが詰まった堪らない作品であることは確かですが、その正しさ故にこのテの音楽を聴きたい時に敢えてそうだ、Happyness聴こう、と今後もなるかどうかは確信がもてません。堪らないので次作以降も追いかけますが。

最近のライブではドラマーであるAshが前に出てきてダンスしたりもするようで、非常に見てみたいです。



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